第2話 異世界の幕開け
赤羽真は、痛みとともに意識を失いかけていた。突如として心臓を突き刺す激痛が彼を襲い、目の前がぼやけていく。血の気が引いていくのを感じ、彼は静かに倒れ込んだ。周囲の音が遠くなり、まるで水中にいるかのように、世界がゆらゆらと揺れている。そう彼は目の前にいる男にナイフで刺されたのだ。
(俺は死ぬのか、、、)
意識が途切れ途切れになりながらも、彼は薄れゆく視界の中で最後に見た男の顔を思い出す。それは、どこかで見たような顔だった。しかし、その思考もすぐに霧のように消え、真は完全に暗闇に飲み込まれていった。
どれくらいの時間が経ったのか、真はふと目を開けた。周囲には静寂が広がっていた。彼は驚きに目を見開く。そこは、青々とした大きな木々に囲まれた神秘的な森だった。柔らかな光が木漏れ日として降り注ぎ、空気にはどこか甘い香りが漂っている。しかし、彼の心の奥には不安の影が忍び寄っていた。
「ここはどこだ?」
真は小声で呟いた。周囲を見渡すが、どこもかしこも見知らぬ風景が広がっていた。立ち尽くす真の心は戸惑いに満ちている。美しさに包まれたこの場所は、どこか魅惑的だが、同時に恐ろしさも感じさせた。
(俺は死んだんじゃなかったのか?変な夢でも見てんのか?)
時間が経つにつれて疑問と不安が押し寄せてくる。
(まさか異世界転生でもしたのか?)
その考えに一瞬、驚きと興奮が走るが、すぐに彼はその馬鹿げた考えに自嘲的な笑みを浮かべた。
赤羽真が思考を巡らせていると、突然、目の前に何かが現れた。彼は目を凝らし、信じられない光景に目を丸くした。そこには、小さなスライムがぷるぷると動いているではないか。青色の柔らかい物体が、彼の前で小さく跳ねていた。
驚きのあまり、彼はその場で固まってしまった。スライムを見つめる彼の心の中は混乱し、状況を理解することができなかった。
「何なんだこれ?」
彼は目をこすりながら、信じられない光景に戸惑っていた。思わずそのスライムに手を伸ばし、触れてみると、意外にも温かい感触が指先に伝わってきた。柔らかく、弾力のあるその感触は、彼に夢ではないという感覚を与えた。
「まさか、夢じゃないのか…?」
心の中で自問自答する。そう考えると、彼は一瞬、興奮を覚えた。
「いや、そんなことありえないだろう…でも、もしかして本当に…?」
頭の中で思考が渦巻き、彼は自分自身に問いかけた。スライムの動きが彼の心を掻き立て、不安と好奇心が交錯する。彼は現実と幻想の狭間に立たされていた。果たして、これは何なのか。どこまでが現実で、どこからが夢なのか。もしかすると赤羽真の異世界転生への強い執着心が今の状況を作りあげたのかもしれない。混乱した心の中で、彼はスライムを見つめながら、ますます深い思索にふけっていった。
(でも、もし本当に異世界転生してるならチート能力とか持ってるはずだ!)
彼は心の中で希望を膨らませ、思いっきり声を発した。
「ステータスオープン!」
しかし、何も起こらない。無機質な森の静寂の中、彼の期待はあっさりと裏切られた。心の中の興奮がしぼんでいくのを感じ、彼はさらに別の方法を試すことにした。
「最強の力よ、我が身に宿れ!」
と、力強く言葉を発し、両手を大きく広げた。
周囲に何も反応がないことに、彼は唖然とした。スライムはそのまま動き続けているが、彼自身には何の変化も訪れない。さらに手を動かし、まるで魔法を発動させるかのように様々な仕草を試みるが、結果は変わらなかった。
「ば、馬鹿な!何も起こらないだと…」
彼は驚きと落胆の入り混じった気持ちを抱え、肩を落とした。異世界転生の夢は、まるで蜃気楼のように消えてしまったようだ。自分が何者でもないただの高校生だという現実が、彼の心を重くしていく。
「こんなはずじゃなかったのに…」
思わずため息が漏れた。彼は、期待が無残に崩れ去るのを感じた。