8-1.ユニの気持ち
NPC、ユニの視点です
私はユニ。
私は、プレイヤーを助ける存在。
私は、決められたことしかできない存在で、決められたこと以外ができてしまうとすぐに直される存在。
私は、必要とされている存在で、必要とされなくなったら跡形も無く消される存在。
そして、私は――クリエイターによって作られた存在。
◇◇◇
ノンプレイヤーキャラクター、略してNPC。
プレイヤーと呼ばれる人間によって操作されない、役割に応じた動きをするゲームのキャラクター。
NPCには、たくさんの役割がある。
例えば、お店でアイテムの売買をするNPC。
いくつものアイテムの値段を見極め即座に計算をしてプレイヤーの相手をするのは誰よりも早い。
例えば、プレイヤーと共に戦闘をするNPC。
人間が操作しているキャラと肩を並べ、共にダンジョンやイベントをクリアしていく。場合によってはプレイヤーよりも強いことだってある。
変わっている役割では、私たちNPCはどこに居て、どんな役割を持っているかをプレイヤーに教えるNPCだっている。
それはゲーム内の図鑑やオプションよりも詳しかったりする。
それらの役割は無くては困ると言い。
プレイヤーにとっては必須と言える役割だったり、いるだけで助かると思えるものばかりと聞いている。
でも、全てのNPCがそのような役割を持っているということは無い。
プレイヤーが操作するキャラの移動方法、ゲームの世界や私たちを映すカメラの操作方法だけを教える。
それがこのゲーム、ファントムリコードのNPCである私に与えられた、唯一の役割だった。
◇◇◇
このファントムリコードで生まれてから私は何もすることがない。
今だって目的が無いのに街をぶらぶらと歩くだけ。
多分、私だけじゃない。みんなやることがないと言っているから、NPCってのは暇なんだと思う。
でも、ずっと暇というわけじゃない。
私を作ってくれたクリエイターさんがゲームを作っている時や、ゲームをプレイしている時は間違えないように与えられた役割を演じないといけないから結構忙しい。
でも私たちNPCとっては、その数時間も短く感じる。
「ここにいたか、ユニ! 今日も行くぞ!」
ピカピカに磨かれた鎧姿のアンリちゃんが私を見つけてすぐ、いつもの勢いで誘ってきた。
どこへ行くのか聞かなくてもわかるけど、一応聞いておこう。
「どこへ行くの?」
「今日こそ模擬戦であいつらに勝つんだ! 他の皆もやる気だからな!」
ほら、やっぱり。模擬戦のお誘いだ。
「また行くの? 昨日も、一昨日も行ったよ? アンリちゃんもだけど、みんなも本当に好きだね」
アトストアの街の隣にある大きな広場で私たちNPC同士の模擬戦をする。その戦いで私がアンリちゃんたちの指揮官をやるお誘い。
やるのは構わないけど、ちょっと気になることがある。
「そんなに何回も戦っていたらクリエイターさんにバレちゃわない?」
「バレるのはまずいが、この時間は大丈夫だろう」
前に、この時間でもクリエイターさんが私たちのゲームを作っていたことがあったけど今日は大丈夫なのかわからない。
「シープさんもクリエイターがいない間にすることがあると言ってどこかに行っているみたいだしな」
「そうなんだ、シープさんも自由に動いているなら大丈夫だね」
ファントムリコードで過ごす時間が一番長くて、なんでも知っているシープさんが自由にしているなら大丈夫そう。
少なくともアンリちゃんよりは信頼できるね。
「まあユニが忙しいと言うのならば無理には――」
「行くよ! 行かないなんて一言も言ってないから!」
むしろ積極的に行きたい。行かないなんて選択肢は元々無いからね。
「なんだかんだ言ってユニもやる気だな」
「それはそうだよ。とっても楽しいんだもん」
本当ならアンリちゃんと同じように戦場に立ちたいけど、それは高望みし過ぎだろうし今の指揮官の役割もおもしろい。
それに少し前に私なら指揮官を任されることですら嫌な気持ちになっていたけど、今は違う。
私がNPCとしてプレイヤーに操作を教える役割に加えて、指揮官の役割をもらったのは少し前のこと。
元々、クリエイターさんに隠れて指揮官をやっていたから適正が無くてまったく役にたっていなかったけど、唯一勝てそうな戦いが終わった後に役割をもらった。
やっぱり正式な役割が有ると無いとでは全く違う。
どこでどうすれば良いかわかるし、少なくとも前よりはみんなの役にたってると思う。
やっぱり、あの戦いが原因で指揮官の役割をもらえたのかな? でも、クリエイターさんは私たちの動きを知らないだろうし偶然かな?
クリエイターさんが機能を追加する理由なんて、私たちNPCが考えてもわかるわけがない。
何が原因でも欲しかった役割がもらえて嬉しいのは間違いない。
「今日は勝てるように指揮を頼むぞ。私だけじゃ相手陣地に突っ込んで倒すしかできないからな」
「アンリちゃんは何でそんなに脳筋なの? いや、そういう風に作られているからなんだろうけどさ……。うん、勝てる様に努力するよ」
とはいえ、今日はどういう作戦でいこうか迷っちゃう。今回はどうしようか悩む。
指揮官の役割をもらえたにも関わらず、コータくんかが考えた作戦以降の戦いで良い勝負をしていない。あの時みたいにもう少しってところまでにはならなかった。
みんなに盾しか持たせないとか、戦う場所を沼にしてもらったり台風イベントが来ている時に戦ったりと、コータくんみたいな奇抜な作戦考えたけど全部ダメだった。
コータくん。
シープさんと同じ知識を与えられていろんなことを知っている私たちと同じNPC。
確か裏世界とかの案内役も任されているって言っていた。
たくさんの知識を持っているだけあって、マップ上のイベントを使って戦況を有利にしたり相手の弱点となる仕様を教えてくれたりしてくれた。
私には到底思いつかない作戦を思いつく頭の良さ、凛々しい顔立ち。私の憧れなNPCになっている。
コータくんと同じようには無理だろうけど、少しでも追いつけるように努力はしていきたいと思う。
NPCだって努力が結果に結びつくことがあるはず。
「さて、みんなを待たせるのも悪い。今日こそは勝つぞ、ユニ!」
「うん! 行こう、アンリちゃん!」
アンリちゃんの掛け声とともに、私は戦場へ向かっていく。
さあ、今日こそみんなで勝つためにテキパキ指示を出していくよ。