第7話 いい加減じゃなかったの?
バレたっっ!?
「なっ、なんのこと?」
焦りながらも必死で冷静を装い、素早くフードを被りなおす。
逃げようとして、籠を持たない手に腕を掴まれる。
どうやら無能と思っていたのは間違いだったらしい。
「誤魔化しても無駄ですよ。あなたが我々の眼を欺いて、外出なさっているということは、調べがついているんです。この先にある屋敷に通っておられるということも」
万事休す。
「ふぅっ」
溜息をつくと私は顔を上げた。
こんなチャラ男には絶対に負けたくない。
「なにを言ってるのかわからない。誰かと勘違いしてるんじゃないの? 例えば、守護者と。あの子は私の妹よ」
ディーンがフッと顔を緩めた。
「なるほど。あくまでも我が主人ではないと仰るんですね。ならいいや、それならそれで、あなたが別人だと俺が納得できるまで、お付き合いさせてもらうまでです」
「な、なに言ってるの? 勝手に決めないでよ」
憎たらしい男はスッと真顔になった。
「万一あなたがご本人で、それが陛下の耳にでも入れば、我々は皆極刑に処されるんです。見過ごすわけにはいきません」
「だから別人だって言ってるでしょう? そんなに疑うなら、神殿に戻って本人がいるか確めればいいことじゃない」
「あなたは足の速い方だ。この街に精通し近道もご存知なのだろう。私が急いで戻ったときには、あなたは既に涼しい顔で神殿にいらっしゃる」
「分からない人ね。そこにいるのが妹で、私は姉だって言ってるでしょ?」
「事実であるなら証明を。確認が出来るまではあなたから離れることはできない。それと、騒がないほうが身の為です。あなただって目立ちたくはないでしょう。ただでさえ、この都では私は少々有名人の部類に入りますので、気をつけたほうがいい」
知ってるわよ。
『寝取りのディーン』ってダサい二つ名。
「脅してるの?」
「背中に切っ先を突きつけられているのは、こちらの方です。神官である私が護衛するのは唯一我が主のみ。巷で別人と思しきあなたの後を付回すことになれば、傍からあなたが怪しまれることになるでしょう。それよりは寧ろ、恋人にでもしていただけた方が怪しまれず、自然に見える」
この男なにを企んでるのかしら?
「幼女趣味なの?」
不意にディーンの口元が緩む。
「まさか。美人は好きですが、子供にまで手を出すほど飢えていませんよ」
何気に自慢するのはやめてよね、気持ち悪い。
「そう。いいわよ、フリだけなら。私の下僕にぐらいはしてあげる」
くっ、とディーンが笑いを零す。
「ドSだな。あなたらしいといえばあなたらしいが。では、早速、おみ足にでも接吻させて頂きますか」
ただの大見得だ。本気じゃない。
呆れさせたかっただけなのに、ディーンは人通りのある往来で籠を置いて膝をつこうとする。
逆にこちらが慌てさせられる。
「ばっばかじゃないっ、冗談に決まってるでしょう?」
籠を手に立ち上がったディーンは、苦笑する。
「ええ、バカですよ。着任そうそう失態を犯すような男ですから」
違う。
新任の長官が来ると分かっていたから、わざと待ち伏せて聞き耳を立て、そうなるようにしむけたのは私だ。
「もういいわよ。勝手についてきなさいよ。でも家には入れないわよ」
立ち話は目立つので、私は歩き出し、ディーンは言わずともついてくる。
「それは困ります」
「どうしてよ」
「あの家には子供ばかりか、得体の知れないゴロツキが十人もいる。何かあってからでは遅い。何が何でもついていきます」
本当に調べていたのね。
いい加減な男という噂はどこまで本当なのかしら?
うんざりして溜息しか出ない。
私は家に入るのを諦めて、庭で遊んでいた数人の子供達を門まで呼ぶことにした。
籠を二人がかりで持たせ、布にくるんだ札束を別の子に持たせて、頭目に渡すように伝える。
「お姉ちゃん、今日は一緒にごはん食べていかないの?」
「ごめん、今日は時間ないから」
「そっかぁ、仕方ないね」
「また一緒にごはん食べてくれる?」
「もちろんよ」
寂しげな子供達の頭を撫でると、彼らに見送られて、渋々屋敷から立ち去る。
さてどうしたものか。
ディーンはきっとどこまでもついてくる気だ。
逃げ出す隙を見つけて、彼より先に神殿に戻らなければならない。
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