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第4話 上手くいかねぇ

 俺は着任早々、仕えるべき主君に嫌われるというヘマをやらかした。

 タイミングが悪かったとしか言いようがない。

 幸い怒らせるほどではなかったようで、寛大にも解任だけは免れた。

 彼女に嫌われて、取り繕うことも考えたがやめた。

 十二歳といえど、女だ。

 女は一度へそを曲げると厄介だ。

 俺は無駄な足掻きをやめて、成るにまかせることにした。

 当初から守護者の護衛という至極退屈な職務には、全くと言っていいほどやる気がなかった。

 加えて主人にも嫌われ、近づくと嫌な顔をされる始末だ。

 益々やる気は低下する。

 しかし、始めてみればなんのことはなかった。

 なんともお気楽な仕事である。

 少し離れたところから、主人の様子を見るだけで事足りるのだ。

 それほど広くない、と言っても中流貴族の邸宅ほどの広さがある神殿には、俺の他に神官が三十人。

 癖のある連中だが、皆それなりに腕が立つ。

 神官以外にも、神殿の周辺には神兵も配備されており、神殿の警備体制は万全だ。

 神殿と守護者一人を守るのに、少々多すぎるほどだ。 

 神官内で週間に一度、二、三人が同時に休暇を取ってもまだ充分すぎる。

 繰り返される日々に、皆が適当に手を抜きながらの護衛生活だ。

 当初はこんなことで良いのかと疑問にも思ったが、半年もすると、俺も彼らの仲間入りだ。

 退屈すぎて筋トレ三昧だ。それに飽きると雑談に読書。これにも飽きたら次は何をすりゃいいんだか。

 平和過ぎて贅沢な悩みだ。

 それもこれも、王国騎士団が都の平穏を、日々汗水たらして必死こいて守っているからだ。

 神殿に来てみてその恩恵が身に染みる。

 おかげで俺は手持ち無沙汰だ。

 のんびり過ごして、騎士団時代より給料がもらえるんだ。考えてみればこんなに楽な仕事はない。


 巫女様はお勤めが終わると、俺たちを無視して静かにどこかへ向かわれる。

 勤めがそれほど疲れるものなのか、俯き加減に視線を落として緩慢に歩いてらっしゃる。

 なんとも精気がない。

 思春期だから、あるいは陰気な性格なのか、彼女は普段から寡黙で物静かだ。

 美人で大人びた顔つきに、凪いだエメラルドの瞳。

 口を開けば尊大で、子供らしさの欠片もない。

 扱いづらい娘だ。

 だから、他の神官たちも彼女の扱いに困り、触らぬ神に祟りなしとばかりに距離を置いている。

 彼女も俺たちが近づくと嫌がるので、どうにもならない。

 長官であればそこを改善せねばならぬ立場なのだが、今のところ特に問題がないのと、おれ自身も嫌われているので放置している。

 

 巫女様は、図書室に入られた。

 同じ場所に長時間留まってくれるので、こちらはやることもなく、なお退屈だ。

 唯一つ、ここで男色の部下と組んでいると、ケツや体に馴れ馴れしく触られるという不快極まりない危険が伴う。 

 そういう時は別の神官に護衛を変わってもらうに限る。

 この日は幸い女好きの軟派な男と一緒になった。貞操の危機に曝されずに済む。

 王国騎士団にも何人か男色家はいるが、ある程度の秩序は保たれていた。

 だが、退屈かつ、極めて閉鎖的であり、咎める者もいない神殿はまさしく無法地帯。

 俺は女が好きだ。

 野郎相手に欲情できるやつの気持ちが知れん。


 しばらく読書に没頭していた主がふらりと図書室から出てきて閑所に篭もられた。

 大でもしているのか、出てくるのが遅い。

 やっと出てくると、どこか青褪めた顔で出てきた。

 今度は自室に戻っていかれる。

 腹でも下したのか調子が悪そうだ。

 本当にそうであるなら、医者を呼んだほうがいいだろう。

 そう思って声を掛けてみることにした。


「巫女様、お加減が宜しくなさそうですが、いかがなさいましたか?」


 振り返った美貌が不機嫌に歪む。

 新緑の鮮やかな双眸に睨まれた。


「月のものよ」


「……失礼致しました」


 ああ、どおりでいつもより機嫌が悪いわけだ。

 俺は素直に後退して頭を下げた。



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