第2話 耳障りな男ね
翌日、午前の勤めを終えて庭に下りてくると、陽射しに照らされる。
明け方まで起きていた目には眩しすぎる。
おまけにぽかぽかと暖かく、眠くなる。
こんな日は木の根元でお昼寝に限る。
うとうとしかけたところで、二人の神官がやって来た。
「よくそんな非礼を働いて無事にすみましたね。国王陛下に告げられていたら、免職どころか今頃牢獄行きですよ」
そう話すのは神官の一人だ。
もう一人は、着任早々主人となる守護者に非礼を働いた件の男だ。
二人は私のいる木の裏側で立ち止まり、私には気づかずそこで立ち話を始めた。
「俺もさすがに、終わったと思ったよ。巫女様だというからてっきり奥にすっこんでると思うだろう? まさか、仕える主が玄関口にいるとは誰も思わんさ」
守護者だからって、何でずっと奥にこもってなきゃならないのよ。
「巫女様は神殿から出ることは禁じられてますが、お勤め以外のときは殿内を自由にお過ごしになられます」
「そのようだな。まあ、こんな閉鎖された場所にいれば、うろつきたくもなるだろう。にしても見失うと、案外見つけにくいもんだな」
「静かに動かれますからね」
「まだ十二のくせに静か過ぎるだろう」
「その言い方は失礼ですよ」
「いないんだからいいじゃねぇか」
神官が呆れて溜息をつく。
「ディーン長官、言って置きますが、あなたのこれまでの噂も、ここに来られた経緯も存じていますが、いくら腕利きの騎士といっても、ここでは巫女様は絶対なんです」
「この国は守護者に守られているからな。国王陛下も巫女サマの我がままには逆らえないってか」
「口は謹まれた方が身のためですよ、路頭には迷いたくないでしょう?」
「まあな。……騎士団に戻れるチャンスも巡ってくるかもしれんしな」
「そうですよ。この国の有望な騎士なんですから、ここで失脚させられたら勿体ないですよ」
「なんだお前、俺のファンか」
「まあ、そんなところです」
「お前もしかして、いわゆる女より男ってやつか」
「さあ、どうでしょう?……そういえば、昨夜も都に出たそうですね」
「ちっ、図星かよ、話変えやがって。……出たって、あれだろう? 貴族の屋敷ばかり狙う強盗団」
「それもそうですが、その強盗団のアジトから、盗んだ物を盗み返す怪盗です」
「ああ、近頃出没してるなんちゃらか」
「『怪盗ガーディアン』ですよ。王国騎士団も、何度か強盗団の討伐にあたったことがあると伺いましたが、ディーン長官は怪盗ガーディアンに会ったことはあるんですか? なんでも滅法腕が立つそうで」
「腕は知らね。俺は出くわしたことないからな。金品には一切手もつけず、きっちり盗み出されたまま屋敷に返す。どっかのぼんくらが随分ありがたがって、守護者にあやかって付けたんだろう?」
「ええ、正義の味方ですからね」
「なにが正義の味方だ。お訊ね者だろうが」
「良いことしてるのに何でですかね?」
「何でって、立派な不法侵入罪だ。秩序ってもんがあるんだ、良いことならなにしても良いわけじゃあない。俺から言わせればそんなもん、正義の味方気取りでスリルを愉しむ偽善者だ」
煩い男達だ。
おかげで眠気も吹き飛んだ。
「意外と真面目なところもあるんですね、他人下半身がだらしなさ過ぎると、僕も思いますよ」
「身にしみてるっつの。なんなんだお前まで……お、おいなんだ?」
神殿勤めの長い神官は、木の裏側から出てきた私を見ると、素早く傅いたが、腕は一流と謳われる男は、油断しているのかどうにも反応が鈍い。
部下が頭を垂れるのを見てから、ようやくその先に立つ私に気づいた。
「不潔」
私のつぶてに、新任長官は上から落ちてきた重石を食らって、呆然と顔を引きつらせた。
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