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第15話 ピリオドは俺が打つ

 背後からそっと忍び寄り、ようやく捕まえた巫女様を腕に抱き、俺は心底安堵した。


 遡ること四時間前。

 俺は神殿から抜け出した巫女様と思しき影を追って、以前彼女が出入りしていた都の屋敷へと乗り込んだ。

 部屋にいた男を捕まえ、刃物で脅して彼女のことを聞き出していた。


「てめぇらでやりゃぁいいもんを、なぜ、彼女を巻き込む?」


「ご、誤解だぁ、怪盗ガーディアンはエルで、盗みに入った盗賊団の情報を持ってくるのはあの子だ。俺達はあの子に金で雇われてるだけだ」


 俺の脳裏に、布で包んだ札束が蘇る。

 今いる屋敷の子どもたちに、以前、巫女様がそれを渡していたのを俺はこの目で見た。

 男を放すと、俺は額に手を当てて天を仰いだ。

 嘘だと思いながらも、妙に納得している自分がいた。

 狡猾な盗賊らから盗品を盗み返し、騎士団にさえもその足取りを追わせない怪盗ガーディアン。神官どころか、俺までも出し抜いた巫女様。

 どこかにからくりがあるのだろうが、同一人物と思えなくもない。


 だが……。


「なぜだ、なぜそんなことを……」


 巫女様がする必要があるんだ。


 だってそうだろう。

 なんで、この国を守る神殿の守護者が、怪盗なんてやってんだ?

 それに神殿に篭もっている巫女様が、なんで強盗団の情報なんか握ってんだ?

 情報を流してんのは、神官か。あるいは宦官か。

 いや違うな。

 守護者の外出を止める立場にあるやつらに、まして国を守ってもらわねばならぬ守護者を、危険な目に合わせる理由などない。

 そうなれば、やはり本人の意思か。

 俺の脳裏に、神官らを冷酷に見下す冷たいエメラルドの双眸が蘇る。


 あざ笑ってるのか。

 だがそれだけの為に、大金を支払い危険を冒してまですることか。


「わっかんねぇな……」


 俺は混乱する思考を漏らしながら、イライラと頭をかきむしった。

 手近にある椅子を引くと、俺はどかっと腰掛けてテーブルに肘を突いて頭をもたげた。


 そんなことを考えてる場合じゃねぇ。

 今はとにかく、一刻も早く巫女様を探し出すことが先決だ。


 騒ぎを大きくすることを避けたがために、単独行動をしてきたことが悔やまれる。


 焦るな、落ち着け。 

 

 早くなる呼吸を深呼吸で整えると、努めて冷静に巫女様捕獲作戦を練る。

 

 見失った巫女様を漠然とした情報だけで追うのは危険だ。

 闇雲に探した挙句、行き違いになることも大いに考えられる。

 では先回りするというのはどうか。

 怪盗ガーディアンの行動は一貫しており、盗賊団から盗難品を盗みだすと、決まって持ち主宅へ返しに行く。

 ならばその日強盗にあった貴族の屋敷で待ち伏せすというのはどうだ?

 いや、それは無理がある。

 屋敷を特定することが困難だ。

 今の王都は栄える一方で格差が大きく、盗賊が横行し強盗は日常茶飯事だ。

 一晩に強盗団が出没する件数も一件や二件じゃない。

 的を絞るために、騎士団本部へ駆け込むって手もあるが……。

 こいつも名案とは言えない。

 盗賊団討伐に乗り出す騎士団本部ならば、ある程度の情報を掴んでいるだろうが、神殿で神官長をしている俺が下手に駆け込めば、怪しまれかねない。

 巫女様が町に出ていることや、ましてや噂の怪盗ということが明るみになれば俺や神官の首が飛ぶだけではすまなくなる。

 王家の沽券に関わる一大事だ。

 騒ぎだけはなんとしても避けねばならない。


 結局俺は、脅して巫女様の行方を吐かせた男が言ったように、悔しいが大人しくそこで待つことにした。

 待つ間、以前俺の知らぬうちに腕に傷を負っていた巫女様を思い出した。

 こうしている間にも、巫女様に何かあったらと思うと、俺は生きた心地がしなかった。

 弟が言っていた。


 『怪盗ガーディアンに関しては、今朝から捕獲禁止令が出されたんだよ』


 巫女様を傷つけたのは、騎士団にいる俺の弟だ。

 騎士団がガーディアンを、巫女様を見逃してくれていることを、俺は切に願った。

 ただ、巫女様の無事を、俺は祈った。


 

 厩の前で巫女様の無事な姿と、元気そうなお声に、俺は心底安堵した。

 それこそ、身体中に入りすぎた力が一気に抜けていくほどに。 

 


 安堵から再び気合を入れると、俺は気配を消して背後から巫女様に近づいて一思いに捕まえた。

 俺が開放した男から聞いたのか、屋敷へ入ったはずの男達が、早くも庭へ出てきて周囲を囲った。

 頭目は突然現れた俺の顔を見るなり、やれやれと溜息をついた。


「諦めたのかと思ってたが、まだうろついてたとはな。悪いが取り込み中だ。勝手に入ってくんじゃねぇ、『寝取りのディーン』」


 顔見知りの男だ。

 どんな金庫でも開けてしまう手先の器用な盗人だ。

 俺が騎士団にいた頃に、追っていた盗賊団の一味の一人だった男だ。当時は盗んだ品を確認できず、証拠不十分で捕らえることはできなかった。

 ゲイツは盗賊業から足を引き、その後何をしているのか、この屋敷にいる男達のリーダー的存在だ。


「ヤメロ、ゲイツ。その二つ名は返上中だ。今はこの人に夢中なんでな。それに、俺は外野じゃねぇ」


「おいおい、何言ってんだこいつ」

「美女ばっか掻っ攫う〇リ〇ン男がッ。ざけんなよっ」


 嘘はついてないんだがな。

 素行が悪いせいで周囲から酷い野次が飛ぶ。

 それをゲイツが手で制止て俺に言う。


「使い古しの次は処女狙いか。だったら他を当たれ。何もこの子じゃなくたって、あんた好みの女はいくらでもいるだろう」


「そうだ、そうだ」

「お嬢にまで手ぇだすな、ロリ野郎め」


「てめぇらうるせぇ、何時だと思ってんだ。ご近所サマにメイワクだろうが、黙ってろ」


 煩い連中にゲイツが睨みを利かす。

 俺の腕の中では、巫女様が逃げようともがいていたが、俺はいっそう腕に力を込めて胸に引寄せた。


「お前らの気持ちはよおく分かったぜ。だがエルは俺のもんだ。俺と将来を誓い合った俺の婚約者(フィアンセ)だ」


 俺は嘘を付いた。

 それもあからさまな嘘を。

 こいつらとの繋がりを断ち切らせる為に。



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