第14話 怪盗ガーディアン
私と雇った九人の男達は、私の指示で目的の場所から少し離れた林の中で、馬から下りた。木に馬を繋ぐと、今度は彼らの頭目に指揮を任せ、それにしたがって目的の屋敷へと侵入する。
隙をついて門番を静かに眠らせると、眠った男を縛り上げて口を塞いで物陰に隠した。
そして替え玉に仲間の一人を門に立たせた。
小規模の古びた屋敷は静まり返り、仲間が開けた一階の窓から音もなく侵入する。
手分けして、屋敷内を調べていく。
人がいたのは、一階の玄関付近にある一室だけ。
三人の男がいた。
広めの部屋の片隅に酒樽を見つけると、全ての樽に持ってきた薬を流し込んでいく。
それを終えると、私と仲間達は身を潜めて時を待った。
半刻と経たずに、正面玄関が騒がしくなり、馬に騎乗した男達がぞろぞろと敷地内に入ってくる。
大小さまざまな木箱が、その部屋へ次々と運び込まれていく。
随分と多い。
私たちだけで運び出せるかしら。
今日は、一人熱を出した為に大事をとらせて休ませた。
不安が過ぎったが、走り出したらもうやるしかない。
「間抜けな騎士団になんぞに捕まるかってんだ」
広めの部屋に集まった男達は椅子に座り、陽気に酒を酌み交わす。
「ここ数年で同業者が随分増えたからな」
「おかげで別のやつらが騎士団に追われてる間に、俺達は上手く逃げられた。ついてるぜ」
「まだわかんねぇぞ、怪盗ガーディアンなんてのもいるからよぉ」
「俺達にゃ関係ねぇよ。何百回って盗みに入ってるが未だ俺達んとこにはこねぇんだ」
「町からちと離れてるからな。さすがに探し出せやしねぇよ」
「ああー、一仕事した後の酒は最高だな……おい、何だもう寝んのかよ」
「んんー、なんかすげぇ眠くなってきた」
「言われてみりゃ、俺も眠くなってきたわ」
「もう夜中とっくに過ぎてっからな、ふわぁー」
気を張り、疲れてアジトに戻れば気が緩む。
そこにクスリの入った酒を飲めばてき面だ。
一人、二人と突っ伏していく。
「ど、どうしたんだ、おまえら、急に……なんだ、この眠気は……」
中にはクスリの効きが遅いやつがいるが、時間の問題だ。
私は身を潜めている男達に指示を出し、部屋へ突入させる。
まだ起きていた男が一人、まるで死神を見るような恐怖に染まった目で私たちを見た。
「き、貴様ら、なんなんだ」
「盗んだものを盗み返す闇の仕事人だ」
私が一瞥して無視を決め込むと、頭目が盗み出された箱を次々と味方に運ばせながら教えていた。
「か、怪盗ガーディアンッ!」
「に雇われてる盗賊だ」
「は? じゃ誰が……」
盗賊団の男が頭目から私へと視線を移すその前に、別の仲間が男を蹴り倒した。
「ぐえっ」
わき腹を蹴られた男は醜い声を上げて床に崩れた。
「そんなの、我らがお嬢に決まってんだろうが」
気絶させてからそんなことを言って何か意味があるんだろうか。
その仲間はどこか誇らしげに口の端を上げていた。
「私も持つわ」
「んじゃ、これ頼んます」
両脇に幾つも箱を抱えた頭目に声を掛けると、軽めの小さな木箱を渡された。
以前、盗賊団から奪い返した品を、盗みだされた屋敷へと返す道すがら、騎士団に遭遇して腕を切りつけられたことがあった。
彼らが応戦し、幸い腕に受けた一太刀だけですんだが、十二針ほど縫うことになった。おかげで翌日に、腕に巻いた包帯を神官長のディーンに気づかれることになった。上手く誤魔化したが、怪しまれる材料をまた一つ増やすことになった。
そんなことがあってから、盗賊仲間は私に極力荷物を持たせなくなった。
闇に紛れてそっと侵入すると、私たちは盗難品を持ち主の屋敷に、一つ残らず返した。
子供達の眠る拠点へと帰ると、厩へと乗り馬を戻した。
「今日もありがとう」
私はあらかじめ用意してきていた報酬を、頭目に差し出す。
いつもの三倍の額だ。
「おいおい、前より多くなってるぞ」
強面に困惑を滲ませながらも、ゲイツは布で包まれた札束を受け取ってくれた。
「エル、潮時じゃねぇのか? 子供たちは俺らが引き取るから、もう手ぇ引けよ」
そうはいかない、と口を開きかけた瞬間、背後からヌッと伸びてきた腕に抱き込まれた。
「言われなくても今日で仕舞だ」
ここにいるはずのない神官長の声に、私は息をすることも忘れて硬直した。