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Let's enjoy April Fools' Day

作者: 高見英利

初めての小説投稿です。どうぞ楽しんでいってください。

あれは、高校二年生の春。ちょうど四月一日のこと。


私は、男子ながら、キラキラと輝くもの、例えば、宝石なんかが好きでした。

休日なんかには、宝石店などにいっては、ショーケースのなかの宝石を眺めていました。


そんなに好きなら集めればいいじゃないかって?それは難しい話です。


私の母校はアルバイトが禁止されていたので、親からのお小遣いで集めなくてはなりません。しかし、月に渡されるお小遣いは五千円程度。頑張って貯めれば、買えないこともないですが、友達との付き合いもありますし、貯金をして買うというのはあまり現実的ではありません。


そこで、考えついたのが、ビー玉やおはじきといった安価で買えるキラキラと輝くものを買うことです。

百円程度で買えて、宝石とは違いますが、日光に照らせば、なかにある複雑な模様が、キラキラと輝いて、私の目にはそれはもう美しく見えました。


こうして、高校時代、私は、ビー玉やおはじきといったものを集めていたのですが、男子で、そういったものを集めているというのは、それだけで、笑いものの対象にされてしまいます。

今でこそ、多様性を重んじる時代ではありますが、昔は、男子の趣味、女子の趣味と明確に分けられていました。


例にもれず、私も笑いものにされていましたが、別段、気に留めていませんでした。

当時の私は、だれが何と言おうと、自分の趣味は、自分だけのものです。誰に馬鹿にされようとも、他人にとやかく言われる筋合いはありません。

それに、私の趣味を肯定してくれる幼馴染で親友でもある男子生徒がいたので、馬鹿にされることに対して、なおのこと気にしていませんでした。


しかし、ある日のこと、二人で学校までの登校中、私が、たまたま持っていたおはじきを落としてしまいました。なんとか拾い、ポケットにしまったのですが、わたしは、その後、信じられない言葉を耳にしたのです。


「まだ、そんなもの持っているのか。一緒にいる俺の身にもなってくれ。恥ずかしい」


耳を疑いました。そして、同時に、腹の奥からむくむくと怒りが湧いてきて、顔はマグマのように熱くなっていくのを感じました。

何か言い返すだけではもの足らず、私は噓をつきました。


「こんなものとはなんだ。お前知らないのか?おはじきというのは、様々な種類があって、うねった模様の入ったものは、スパイラル。葉っぱのような模様が入ったものは、リーフ。様々な色が組み合わさっているのが、カオスと呼ばれ、その手の界隈じゃ高額で取引されているんだぞ」


もちろんこれは、私が作った作り話です。私はただ、少し見返してやりたかっただけなのです。しかし、彼は、私の予想に反して、私の作り話に、興味を示しました。


「へぇ、そうなんだ。知らなかった。他には何かあるのか?」


意外と話に食いついてきたので、私は少し調子に乗ってしまい、さらに、噓を重ねました。


「他には黄色のスパイラルを持っていると金運アップ。青と赤のカオスを持っていると学力アップ。そして、極めつけは、ピンク色のリーフの中でも、桜の花に似ているものを持っていると、その人の恋を必ず成就させると、いわれている」


「おぉ、すごいな。学校のみんなにも話してみよう」


「え、それはやめたほうがいいんじゃないか」

こんな作り話を信じてくれる人などいるはずがないし、私は別に、彼を陥れたいわけではなかったので、彼が、話すのを止めようとしました。


「なんで?もったいないよ。そんなにすごいものなら、みんなに知ってもらったほうがいい」


濁り無き眼で、言う彼を、止めることが、私はできませんでした。


まぁ、どうせ、話したところで信じてもらえないだろう。そう思っていました。

学校に着いて、彼が、クラスのみんなに私の作った話を話し始めました。

彼は、学校では人気者で、snsでも名の知れた有名人でした。


クラスのみんなは、彼の話を疑いもせず、聞き入り、私の作った噓は、噂となって、瞬く間に広がりました。


学校が始まって、一限目の時点で、クラスメイトのなかで、話題になり、二限目には、学校中に広まり、すでに何人かは、おはじきを持っており、自分のおはじきのほうが貴重だとか、こちらの持っているおはじきのほうが、色合いが美しいだとか、談義をする生徒まで現れました。


三限目を過ぎたころには、snsの有名人が、おはじき談義を始めたり、ピンク色の桜の模様に似たおはじきを持って、告白している生徒まで見受けられました。


私はだんだん怖くなっていきました。

本当は全部真っ赤な噓だと知れたら、どうなってしまうのだろう。この話をクラスに広めた親友は、何かひどい目にあわされてしまうのではないか。噓をついたことで、親友との縁が切られてしまうのではないか。もう何もかもが不安でたまりませんでした。


四限目になるころには、学校中、どこを見渡してもおはじきのことばかりで、私の作り出した用語であるスパイラル、リーフ、カオスや運気アップのことだけでなく、用語や秘話はどんどん派生を繰り返し、私の知らない用語まで出てきました。


私は、なんだか気味が悪くなって、席から立てなくなってしまいました。


すると、教室の外から、バタンと誰かが倒れるような音と女子の叫び声が聞こえました。さすがに気になって見に行くと、そこには、一人の男子生徒がおはじきを持って、倒れていました。


その場にいた生徒の一人が、先生を呼びにいってくるといって、保健室に向かったとき、周りの生徒が、小声で話している声が聞こえたのです。


その内容は、彼は、灰色と黒色のカオスを持っていたから、死神に魂を取られただとか、赤のスパイラルを使って誰かが呪ったんじゃないか、などというものでした。


この異常事態に、私は腰が抜けてしまって、その場でへたり込んでしまいました。

すると、周りの人が駆け寄ってきて、大丈夫ですか、と、手を差し伸べてくれました。


私はその手を取り、何とか立ち上がり、手を貸してくれた生徒にお礼をいいました。

「ありがとう。少し体調が悪くてね」


「ほんとう?それは大変だ。これを持っているといいよ」


そういって、その生徒が手渡したのは、緑色の柄が入ったおはじきでした。


「これ、緑色のリーフ。持っていると体調が良くなるらしいよ」


屈託のない笑みで、差し出すその手に、私は恐怖を覚えました。

まさか、自分が、今朝は、親友に話した噓が、短期間でここまで、人に影響を与えるとは、思ってもみなかったからというのと同時に、あんな荒唐無稽な話が、ここまで大ごとになっていることに、一種の不気味さを覚えました。


唯の緑の柄が入ったおはじきを、本気で心配したうえで、手渡そうとする生徒におののき、私は恐怖と不気味さでいっぱいになった胸が爆発して、貧血を起こし、意識を失いました。


気がつくと、すでに、放課後で、保健室のカーテンの隙間から夕陽が入ってくるのが見えました。


「あ、起きた?」


声のする方を向くと、そこには、椅子に座っている親友の姿がありました。足元には彼のカバンと私のカバンがありました。


どうやら、彼は、私が起きるのを待ってくれていたようです。


その後、職員室に寄ってから、私たちは帰路につきました。

不思議なことに、午前中、あれだけ盛り上がっていたおはじきの話を耳にするどころか、もう誰も、おはじきを持っていませんでした。


帰り道の途中で、私は彼に、今朝話したおはじきの話について、あれは噓だ。作り話なんだと、告白しました。

すると、彼は、不思議そうな顔をして、私を見つめた後、ゲラゲラと笑い始めました。


「何笑ってるんだ? もしかして、怒ってるのか?」


「いや、別に」


何度聞いても、彼は答えてくれませんでした。


分かれ道につきました。親友は右、私は左。


じゃあ、また明日と手を振って別れる直前、彼が呼び止めました。


「あ、そうだ」


「どうしたの?」


「Did you enjoy April Fool's Day?」


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