朧の記憶
「鏡、持ってるか? 澪月との思い出の」
「これの事ですか?」
大家さんが言っているのは赤銅で楕円の鏡の事だろう。勿論今も持っている。私にとってはお守り代わりだ。基本的に何処に行くのにも一緒。ポケットを漁り、彼に見せると、すっと顔を近付けて、まじまじと眺め始めた。
「良いかい、嬢ちゃん。今からあんたの記憶をこの鏡に封じ込める。澪月との思い出の品だから、きっと上手く行くだろう。いいか?」
「はい」
そう言うと、鏡の乗った手を上下から包み込んだ。仄かに暖かい空気が互いの空間を対流する。一つ不思議な事が起こった。幼い頃の澪月との思い出がほんのりと霞んでいったのだ。
初めて会った時。二人で遊んだ記憶。餞別として渡された赤銅の鏡。どれも昨日の事のように一つ一つが鮮明に記憶に刻んであったのに、段々と溶けて粒のように拡散していく。
一度瞬きをする。瞼の裏に広がる気配がなくなり、再度目を見開くと、上目遣いの大家さんが。
「あんたと澪月との思い出をこの鏡に移した。どうだい? 記憶は」
「ほんの少し。朧になりました.......」
嘘だ。ほんの少しなんて。あぁ、記憶を霞ませるのは、これを意味するのか。あれだけ明瞭に覚えていたのに。セピア色の写真の如く色褪せている。
これ、澪月の特注なんですよね。
だからこんな芸当が出来るという。
過去作のあらすじ作ってたんですけど、文字起こしはしてません.......。




