第18話 悪魔の使者
パットン少将は部隊を率いてオリエンカスタムに向かう。エゴン班も同行した。
「さっきの戦闘で悪魔を殲滅できたけど、まだ建物に隠れているかもしれない。気を抜くなよ。」
「訓練学校時代のCQBと市街戦の訓練が役立つな!」
「あの時勝手にやっていた訓練の状況が実際に起きるとは…」
「いつか来る奪還作戦に向けて、準備してきて、やっと役に立つ。」
「感慨深い!」
エゴン班はオリエンカスタムに突入した。
「このまま突き抜けるぞ。」
「了解!」
街の西側から突入し、そのまま東の端まで進む。
「随分と静かね。」
「この分なら戦闘にはならないかもしれない。」
「良かった。じゃあ私の出番はないね!」
「スージーちゃんはいてくれるだけで十分だから!」
「ありがとう!」
「おい…今何て言った?」
「どうした?」
「いつも戦闘するたびに俺が怪我するみたいな物言いだな。」
「おいアレックス落ち着けって、」
「ごめんなさい。そんなに深い意味で言った訳じゃないよ。」
「てめーらまとめてぶっ殺す!!!」
「おい!やめろ!」
装甲車が右往左往する。
「ここで止めろ。」
装甲車が止まる。
「アレックスここで降りろ。」
エゴンとアレックスが降車する。
「この道の左側にある建物の中に悪魔が潜んでいる。始末してきて来い。」
「何だ、まだ悪魔が残っていたのかよ!先に言え!」
アレックスは一人で走り去った。
「あいつ大丈夫なの?」
「あいつは悪魔の群れに放り込んでも生き残る。」
「まあ…そうだよな。」
「マイクとティオ以外はここで降車しろ。ティオは街の東側外周にある橋を全て破壊してきて欲しい。必要な爆薬は運ばれてくる。マイクと一緒にやって欲しい。」
「おいおいおいおい!」
「え…じゃあスージーちゃんとは離れるの?」
マイクとティオも装甲車から降りてくる。
「そうよ!あんたらはさっさと行って来い!」
マイクとティオはエルザに尻を蹴られる。
「ああ…わかった…」
「残ったみんなは防御陣地の建設予定地の確認と制圧だ。ついて来い。」
エゴン班は付近の建物を制圧しつつ、工兵部隊を迎えいれた。
「塹壕とトーチカは繋いで、その向こうには有刺鉄線と地雷原、普通の防御陣地で良いのですね。」
「まあ強いて言えば架橋車両と地雷原処理車両は近くに置いてもらえると助かります。あと地雷を埋めた場所は全て記録してくださいね。」
「わかりました。お任せください。」
「おい、エゴン。斥候用に橋を一つ残しておいても良い?」
「良いぞ。」
「ありがとう。作戦も一区切りついたし、どう?」
「やるか?チェス。」
「やろう!」
「戦闘要員は斥候を放って警戒していれば休憩していいぞ!」
「小さな土星作戦は成功だな。」
「まあ、一応な。にしても、忠誠派貴族の奴ら何か企んでいる。第二師団のロイスって奴、絶対俺たちを貶めるために撤退したよな。」
「まあ落ち着け、そういうのも全部ウィンザード新聞に書いてもらう。エルザに詳細な情報を伝えに行ってもらった。これで手柄は全部俺たちのものだ。」
「なら良いんだけど。」
「「…」」
「平和だな。」
「な。」
日が暮れる中、重機の音とグレースの狙撃銃の銃声が響き渡っていた。しばらくチェスを指していると大勢の兵士が慌てながらこちらに向かってきた。
「おい、何があったんだ?」
「第十三軍団がオリエンカスタムの北部を制圧したみたいよ。」
スージーが状況を伝える。
「え?第十三軍団?今頃?」
エゴンとフィンリーは目を合わせた。
「うん。我々が援軍に来たからにはこの作戦は必ず成功するって…」
「どの口が言っているんだ?全然役に立たなかった奴らがよくものうのうと!」
「私に言われても困るよ。」
「エゴン落ち着け、忠誠派貴族の工作員がいたら面倒だぞ。」
「ああ、そうだな。にしても今更ここに部隊を派遣して作戦に貢献したことにする気か。」
「どうするの?このままじゃ全部忠誠派貴族の奴らの手柄にされちゃうよ。」
「クソみたいな奴らだ。やっぱりああいう奴らが国を仕切っていると滅びる。」
「まあ、落ち着け。あいつらを前線に引っ張り出すことはできたんだ。今度はあいつらに血を流してもらう。」
「必ずそうしよう。」
バルデマー・ロイス少将は戦場で倒れた後、ヘリコプターで王都の病院まで搬送された。それを聞いた第十三軍団長ハリー・チェンバレン大将、第四軍団長アベル・ロイス中将が駆け付けた。
「仮病なんだから、宮殿に来てもいいのに。」
「すいません。軍団長閣下、演技を徹底したいものでして…」
アベル・ロイスは看護師などに部屋から出るように言い、部屋の中は三人だけにした。そしてベッドから起き上がった。
「大変な状況になってしまったなぁ。」
「はい、奴らに大きな犠牲を強いることができましたが、奴らは民衆の心を掴んでしまいました。申し訳ございません。」
「とりあえず、オリエンカスタム制圧作戦で第十三軍団を貢献させた。少しはマシになったのだか。」
「あのままでは、戦犯扱いされかねないですから、助かりました。御礼申し上げます。」
「それにしても、君は師団長に戻れるのかね。クリス・ネヴィルとか言うロビン・ネヴィル大佐の別妻の子どもが勝手に君の部隊を指揮したそうだな。」
「兵士たちがあんたに従うかわからないぞ。あの戦闘で市民義勇兵やネヴィルとの結束を強めてしまった。」
「申し訳ないです。」
「このままでは革命に繋がりかねない。」
「さすがにそれは大丈夫でしょー」
「ロイス中将、あなたはもっと危機感を持つべきです。これでは助かる命が助かりませんよ。」
「それは困る!」
「とにかく、パットンとエゴン・クリーガーを何とかして排除しなければならない。」
「そうですね。特にエゴン・クリーガーは我々を憎んでいるようなので。」
「でもな~、パットンも悪い奴ではないんだよな~」
「軍団長閣下、奴は危険です。あなたにすり寄っていいように利用しようとしているだけですから。騙されないで下さいよ。特に、あの計画をうっかり話さないようにお願いしますよ。」
「大丈夫、それはわかっている。心配するな。そろそろ、女の子たちのところに戻りたい。行ってもいいなか?」
「はい。」
「ありがとうね。細かいことは君に任せた。じゃあよろしく~」
アベル・ロイスは病室を去った。
「具体的に、どういう大義名分で奴らを抑えれば良いかわかりません。」
「奴らが軍事的に失敗することを利用するのは、難しいのかもしれないな。」
「軍事的才能では勝てませんからね。かと言って政治的にも…」
「今は奴らが有利だろうな。流石に下手に刺激できない。とにかく、機会を待とう。」
「…」
「私は宮殿で仕事がある。」
「本日はありがとうございました。」
「ああ。」
二人の表情はとてもどんよりしていた。
「敵を発見!距離6000、悪魔数体と小型巨人3体を確認!」
「了解!敵はこっちに来ているか?」
「いいえ、突っ込んで来る様子はありません。あ、ドラゴンが一体、上空に上がりました。しかしこれも突っ込んでくる様子ではありません!」
「エゴン、攻撃するか?」
「いや、弾薬を節約しておこう。ただし、監視は続行してくれ。急に接近してくるようであれば、撃墜、殺害を許可しよう。」
「了解!」
「中隊長!有刺鉄線があと少しで無くなりそうです!」
「了解!追加で持ってくるように伝えておく。」
エゴンは無線機の電源を入れた。その時声が聞こえた。
「私はクルト・クリーガー、人類が悪魔と呼ぶ生物の捕虜になった者です。繰り返します。私はクルト・クリーガー、人類が悪魔と呼ぶ生物の捕虜になった者です…」
「え?…」
エゴンはその場で崩れ落ち、涙を流した。その声は紛れもなくクルトのものだった。
「クルト…お前なのか…」
この通信は他の部隊でも傍受されていた。すぐに軍団合同司令部に内容が伝えられた。
「私は、いわゆる悪魔と会話をすることに成功しました。その結果、彼らは、人類が生き残るために、最良の選択肢を提示してくれました。それは、講和条約を締結することです。とても寛大な彼らは、人類と講和を締結することを望んでいます。もし、講和を締結できないのであれば、人類は滅亡するでしょう。安心して下さい。実際に私は彼らから可愛がられました。皆さんも可愛がられると思います。良い返事を期待しています。」
人類史上、悪魔と会話することに成功した人は存在しない。当然、講和することも無かった。
「おい、エゴン。クルト生きていたな!」
フィンリーはとても喜びながらエゴンの肩を叩いた。
「ああ…生きてたよ。」
エゴンの涙は止まらなかった。
「エゴン!」
「エルザ!クルト生きていたよ!」
エルザも涙ぐんでいた。エゴン班のみんなはクルトが生きていたことを喜んだ。この内容は新聞などを通じて全ての人に共有された。
パットン少将は深く考え込んだ。
「嫌な予感がする。」
一方、バルデマー・ロイス少将は一発逆転の可能性を見出した。
「良い予感がする。」




