第13話 エゴンの知らない世界
チャスタイズ作戦終了の約一か月後、涼しくて過ごしやすい気候の8月、悪魔の軍勢は要塞に攻撃を仕掛けてきた。第四軍団と第十三軍団の部隊がこの攻撃を迎撃する中、エゴンは悪魔側に逆襲を仕掛ける、小さな土星作戦を計画していた。
「師団長閣下、敵の攻撃が始まりますね。」
「そうだな。」
「今回の作戦は敵の攻撃を利用して、敵を包囲殲滅する作戦です。敵が攻撃を始めれば、作戦を始める機会がいつ訪れてもおかしくないです。」
「うん、今度はエゴン、お前が根回ししろ。」
「はい。」
「貴族らに民衆のパワーを見せつけろ。革命をちらつかせれば要求を呑ませられる。」
「悪魔との戦争の最中に革命は起こせないって師団長閣下は…」
「行使されないパワーは不気味だ。可能性を少しでも示せば無視できなくなる。それと、参謀を連れて行くと良い。一人で抱え込むな。」
「わかりました。上手くやってみせます。」
エゴンは仲間の元に戻る。
「次の作戦に向けて準備を始める。エルザ、フィンリー、ついて来い。」
「おい、俺らはいいのか?」
「頭が悪い奴らは連れて行かない。」
「「え…」」
「何なんだよ!俺バカじゃねーし!」
「なめてんじゃねーぞ!」
マイクとティオはエゴンに襲いかかるが簡単にあしらわれる。
「おいアレックス!お前もエゴンにバカ認定されているぞ!」
「何?俺が弱いとか言い始めたのか?」
「いや弱いとかじゃなくてバカにされてい…」
「頭は悪い方がいいわ!そんなことよりお前ら俺をバカにしただろ!殺すぞ!」
「いやどっちなんだよ!」
「おいヤバいぞ、逃げろ!」
アレックスがマイクとティオを追い回し始めた。
「スージー、マイクとティオの手当は任せた。」
「うん…わかった。」
「グレースは射撃練習に行ったし、留守を任せられるのはお前しかいない。」
「まあ、街に出て暴れることだけはないように頑張る。」
「頑張れ。」
エゴンとエルザとフィンリーはジープで乗って地元の新聞、ウィンザード新聞の本社に行った。
「お待ちしておりました。エゴン・クリーガー様。こちらへどうぞ。」
ウィンザード新聞の本社ではスーツを着た50代の紳士がエゴンを迎えた。一方、エゴンは汚れた戦闘服を着ている。エゴンは軽く会釈しつつも相手を警戒しながら本社のビルの中に入った。エルザとフィンリーもついて行く。
「申し遅れました。私、ウィンザード新聞社社長のマルクス・シュミットと申します。」
「クリーガーです。」
「そちらはクリーガー様の側近の方々ですか?」
「まあ、側近というより同期の仲間です。ベフトォン中尉とムーア中尉です。」
「「よろしくお願いいたします。」」
「こちらこそ。早速ですが、本題に入りましょう。例の作戦の概要を教えていただけますか?」
「…」
エゴンがエルザとフィンリーの顔を見る。
「何やってんのよ。さっさと教えなさいよ。」
「ああ、うん。こちらが小さな土星作戦の作戦計画書です。本作戦は…」
小さな土星作戦は要塞から悪魔に陽動攻撃を仕掛けて悪魔らを要塞付近に引き付けている間に戦線の北側にある山岳地帯から主力部隊を迂回させて、要塞を攻撃している悪魔の背後や側面に回り込み、十字砲火で悪魔を一気になぎ倒す作戦である。十字砲火は様々な方向から砲火を浴びせられるため、回避は困難であり、通常の射撃より威力を発揮する。このように要塞を攻撃する悪魔を壊滅させた後、逃げる悪魔を追撃しながら、悪魔に占領された街、オリエンカスタムを奪還する。
「素晴らしい作戦ですね!成功すれば、ヴィマナ王国は十数年ぶりに悪魔から領土を奪還することになります。早速今日の夕刊の記事にしましょう。」
「良かったのか?これで。」
「何で?」
「だって…」
エゴンは小声で話す。
「あんたもしかして知らないの?シュミット社長はパットン少将に王都の政治情勢に関する助言をする参謀の一人よ!」
「え!!!そうなの。」
「ベフトォン中尉、あまり大きな声で言わないでください。」
「あ…すいません。」
「こちらをお見せするべきでしたね。パットン少将からの委任状です。私は軍の広報活動を任されているのです。」
委任状のサインは筆跡を見る限り本人のもので間違いはない。
「本当だ…」
エゴンは手のひらで転がされている気がしてもどかしかくなる。
「何で先に教えてくれなかったんだ!フィンリーも!」
「流石に知っておいて欲しかった。一応王都の政治情勢に関する報告書に名前出ていたし…」
「そういうことか…」
「まあまあ、クリーガーさんこれからよろしくお願いしますね。」
「はい、こちらこそ。」
「皆さんには私の裏の顔も知っていただきましょう。私はマスメディアとして取材する名目で、様々な人に接触して諜報活動をしています。まあ、それは色々な方法で…」
「どんな方法ですか?」
「例えば貴族の側近に賄賂を渡して情報を得たり、ハニートラップを使ったり…」
「何か凄そう!」
エゴンの目は輝いていた。
「単純な奴だな。」
「そんなもんよ、エゴンは。」
「細かいことはとにかく、クリーガー大尉はこれから色々な人に関心を持ってください。例えばその人がどんな趣味を持っているとか、どんな性格だとか、そんなことでもいいんです。そういう情報が何か要請する時、圧力をかける時、色々な状況で役に立つのです。」
「いやでもそんな細かいところまでは調べられないし…」
「それは我々にお任せください。」
「そういうことですか!」
「これからはクリーガー大尉、あなたの命令で我々は諜報活動を行います。」
「「え!」」
「何なんだよお前ら。」
「いやだって心配じゃない。」
「俺らがしっかりしないと、宝の持ち腐れになる。」
「何だって?」
「いや何でも。」
「それで、話を本題に戻します。小さな土星作戦を新聞に載せるに当たって、治安維持局の検閲は何とかしないといけません。」
「それは、俺が101特殊中隊を率いてここを護衛するので安心してください。」
「ダメよ、前線で戦闘が激化したらどうするのよ。」
「じゃあどうするんだよ。」
「賄賂を渡しましょう。治安維持局の末端は汚職がはびこっているので簡単に買収できます。」
「そうなのか。初めて知りました。」
「とは言え彼らも上に仕事をしていることを示さないといけないのでクリーガー大尉は市民義勇兵を数百人集めてここを護衛させて下さい。揉めているフリはしないといけないので。」
「わかりました。」
「とにかく、クリーガー大尉は私を使いこなせるように成長してくださいね。ではこれで失礼します。」
エゴン達は第一師団の仮兵舎に戻った。
「エゴン、お帰り。」
アレックスに殴られてやつれたマイクとティオが迎えた。
「お前ら、次の戦闘には参加できるか?」
「まあ、何とか…」
「そうか…あいつ昔は何人も病院送りしていたのに…賢くなったな。」
「いやあいつ今も単細胞だろ。」
「そうだ、命令がある。お前らは数百人の市民義勇兵をここに集めろ。マイク、ティオも協力してかかれ。俺は軍団合同司令部に作戦内容を正式に提言しに行く。悪魔との戦闘に備えつつ、最悪の事態も想定しておけ。」
「了解!」




