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ETERNAL PROMISE【The Chronicle】  作者: 小林汐希
1章 卒園式をしよう
3/9

【1章2話-1】:サプライズにはサプライズ




「結花先生、お時間いいですか?」


 ようやく1日の最後に行う一人一人の業務日誌に目を通し終わった時には、職員室には誰も残っていなかった。


「花菜ちゃん、どうしたの、こんな遅くまで?」


「3月の終わりに、イベントを開きたいんだけど、なかなかその内容が決まらなくて……」


「そうか……。日程だけは押さえたのよね」


 そう、来月に迫った3月末に健と茜音がそれぞれ引退となる。


 この年の3月31日は月曜日だから、新年度に向けての準備に追われる中ではゆっくりした時間もとれない。


 考えたのは直前の土曜日の午後。これなら卒園生だけでなく、これまで教室に通っていた親子なども参加できるから。


「『送別会』って名前にしたくないなって思っていて……」


 やはり花菜もそう思っていたのか。あの二人のことだから、自分たちの送別会となれば迷惑をかけたくないと言い出しかねない。


 そうでなくても、送別という言葉で場が萎んでしまうことは避けたかった。


「まだ31日があるから、『卒園式』は変ですよね?」


「そうなのよねぇ。今年度は定年退職が多いから。でも、千夏先生や和樹先生はしばらく残るって言ってるし。 ……でもそれもアリかもしれないね。ここまで人も施設も育ててくれた二人だもん。たぶん、31日は早く上がっちゃうと思うから、みんなの前で卒園式っていいじゃない? でも、それは二人には内緒にしておきたいって言ったらどう思う?」


「もぉ、結花先生は昔からサプライズ仕掛けるの大好きですもんね?」


 結花と花菜が出会ってから20年近くが経つから、お互いのことは手に取るように分かり切っている。


「春先だし、お茶会ってのはどう? 桜は散っちゃうかもしれないけれど……」


「それいいかも! で、その中に卒園式を組み込んじゃうとか?」


 本来ならば、副園長との会話なのだけど、結花は茜音から、仕事時間が終われば立場をフラットにして誰とでも気軽に話せる体制を受け継いでいた。


「お茶会だと年寄りくさくなっちゃうんで、『アフターヌーンティータイム』ってのはどうかなぁ。それなら、お茶だけでなくジュースやお菓子も軽食も出せるし」


 さすがは調理場を仕切る花菜だ。その程度の用意は彼女にとって朝飯前のことなのだろう。


「うん、その線で行きましょ。イラストとかポスターとか準備もお願いできる? もちろん私も手伝うから。少しずつ夜にやって行かなくちゃね」


 会場に押さえていたのは一番大きな多目的ホール。常時開放の年少用プレイルームの他に、健が設計段階で譲らなかった部屋だ。


 防音パーティションで区切ることも出来るから、会議にも教室などにも使える。


 その週末には花菜の作ったポスターがあちこちに貼り出されて、参加したいという声がすぐに返ってきた。


「結花先生、自分たちにも何か手伝うことありますか?」


 この二人が面白そうなことをやってくれそうだと分かった他の先生たちからも協力の申し出があり、役割を少しずつ分担でお願いしていった。



 そんな二人の姿をドアの外からそっと見ている姿がある。


「陽人先生、あの二人楽しそうにやってるじゃないですか。本当によかった」


「知らないフリをしているのも大変じゃないですか?」


 もちろん、スケジュールを打診されたときから、自分たちに関係した何かをやるという予想はしていた茜音と健。


 そこに、すっかり園長として定着していた陽人が少しずつ情報を流していたから。


「ふふっ。でも、それがあの二人の味だもの。それでいいの。好きなようにやってもらいましょ。わたしたちも結花ちゃんたちに負けないように準備しなくちゃね」


 茜音は笑って、健と陽人の耳元に囁く。


「えっ! あれを持ってくるんですか? 危ないから夜は無理ですよね……」


「ええ、結花ちゃんと花菜ちゃんがサプライズでやるというなら、わたしたちは堂々とお返ししないとねぇ」


「これじゃ、どっちがメインイベントになるか分かったもんじゃねーな」


 驚いている陽人の横で、当日は面白いことになりそうだと健がニヤリとしている。


「搬入の手配はこっちで進めるので、陽人先生はお家でも結花ちゃんにも黙っていて下さいね?」


「狐と狸の化かし合いだな、こりゃ……」


 やはり珠実園をここまで大きくした二人だ。ただでは終わらない。


 そんな感想を持って陽人たち三人は先に引き上げることにした。


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