『上手く書けない』『表現力が足りない』『反応がない』という人に読んで欲しい『正しい視点』の使い方
人によって、書くスタイルや癖、表現法は全然ちがう。小説の書き方は自由だから、これは特に問題ない。基本、楽しく書けているのであれば OK。
でも、中には『疑問』や『違和感』を抱えながら、悶々と書いている人も、いるかもしれない。
『なんか上手く書けないんだよな……』
『よく分かんないけど表現がおかしい気がする……』
『物凄く頑張って書いてるのに全く反応がない……』
小説書きなら、一度は感じたことがある症状だと思う。
この症状の原因は『視点の使い方が間違っている』可能性がある。『視点の使い方』に問題があると、読者はもちろん、書いている本人も、何かおかしな感じがするんだ。
『違和感』のある作品は、よい評価はされにくい。違和感ぐらいで済めばいいけど、場合によっては、内容が正しく『伝わっていない』可能性がある。これでは、どんなに面白い作品でも、評価されないのは、当然だよね。
でも、安心して。正しい『視点の使い方』をマスターすれば、書き手も読者も納得の『表現力のある』素敵な作品が完成するから。
これを読み終わったら、ガラリと『書き方』が変わる人も、いるかもしれない。なぜなら『視点の使い方』しだいで、同じ内容でも、全く別の表現になるからだ。
ただ、分かりやすく説明するために、ちょっと話が長いんだよね。なので、お茶とお菓子でも用意して、気楽に読んでみて。一度、理解できれば、そんなに難しいことじゃないんで。
あと、敬語を使わず『タメ口』で話すけど、あなたのことを大事な『同志』だと思ってるから、親しみを込めているだけ。また、敬語を使わないほうが、テンポよく説明できるので。そこんとこ、ヨロシクね。
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小説で最も重要なのは視点の使い方
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小説は、基本『技術』はあまり必要ない。これは、別のエッセイでも、お話しした通り。
なぜなら『楽しく書く』ことが、最も大切だから。あと、多少、技術がつたなくても、面白い作品は書けるからだ。
なので、できるだけ『技術論』は、語りたくないんだよね。あまり、技術を気にすると、のびのび書けなくなってしまう。技術は様々な『ルール』があって、作品に『制限』が掛かってしまうからだ。
あと、書くのが『辛く』なったり『つまらなく』なってしまう場合もある。技術って『諸刃の剣』なんだよね。
ただ、小説を書く際の『視点』だけは別。絶対に理解して、使いこなす必要がある。なぜなら『視点』が間違っていると、書いてある内容が、読者に『伝わらない』場合があるからだ。
どんなに面白くても、内容が伝わらなければ、評価はしてもらえない。もし、作品の『反応が全くない』場合。面白さよりも『視点の使い方』の問題で、伝わっていない可能性があるんだ。
視点については『小説 視点の使い方』などで、ググれば OK。『技術』や『小説作法』として、色んな情報が出てくる。
しかし、自分は、視点は『技術ではない』と思っているんだ。分かりやすく言えば、人間の『呼吸』と同じようなもの。
呼吸は、しないと生きていけないから、物凄く重要だよね。でも、呼吸の技術を、誰かから教わったことはないと思う。生まれた瞬間から、誰もが『無意識』にやってるもんね。
つまり、滅茶苦茶、重要だけど、普段『当たり前』にやっていること。小説の『視点』とは、まさに、こんな感じなんだ。
だから、技術として難しく考えずに、呼吸のように『当たり前』のものして捉えて欲しい。実際、小説を書く際は、必ず『視点』を使う。しかも『無意識』に使っているから、技術というほどのものでは無いんだ。
ただ、無意識に使う分『間違い』にも気付きにくい。特に、始めたばかりの人。また、長く書いていても『自己流』でやっていた人は、間違えた使い方をしている場合が多い。
でも、自分も昔は『視点の使い方』を、思いっ切り間違えていた。しかも、小説を書き始めて『数年』の間ずっとね。
コンテストで戦うための技術を身につけるため、技法書を読み始めて、初めて『視点』の存在を知った。『視点』を知らないと、絶対にコンテストには通らないことも、その時、初めて理解した。ここら辺の詳しい話は、あとでするね。
まず、視点にはいくつかの『種類』がある。実際には、色んな種類があるけど、今回は大きく分けてみようと思う。
小説の視点は
1:神視点
2:三人称視点
3:一人称視点
大きく分けると『3つの種類』がある。
普段、意識していない人でも、聴いたことぐらいは、あるかもしれない。なお、三人称視点は、細かく分けると、色んな種類がある。でも、この『3つ』だけ理解しておけば大丈夫。
先ほども話した通り、ググれば、色んな解説記事が出てくる。でも、見ても『なるほど、さっぱり分からない』もしくは『使い方がよく分からん』という場合が多い。
実は『視点』は、理解するのが、意外と難しいんだ。自分も、最初は、さっぱり訳が分からなかった。
なので、今まで意識していなかった人や、難しい勉強は苦手な人のために。今回は、ゲームに例えて『視点の使い方』を説明していくね。
『ゲームなら好き!』って人が多いでしょ? 何より、視覚的な捉え方ができるから、イメージしやすいと思う。なので、ここから先は『ゲーム画面』を思い浮かべながら、読んでみて。
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箱庭の観測者になるのが神視点
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最初に説明するのが『神視点』について。なんか、中二心をくすぐられるような、カッコイイ名前だよね。でも、自己流で始めた人は、この視点を使っている場合が多いんだ。
自分も小説を書き始めて、しばらくの間は『神視点』で書いていた。そもそも『視点』の存在を知らなかったので、神視点であること自体に、全く気付かなかったんだけど……。
分かりやすく言うと『箱庭系ゲーム』みたいな感じ。例えば『シムシティ』『A列車で行こう』『トロピコ』『シティーズ:スカイライン』など。やったこと無いい人は『街づくりゲーム』で、画像検索してみよう。
街づくり、国づくりなどのゲームで、上空から世界全体を『見下ろしている』視点のこと。プレイヤーは『神視点』で、世界のどこでも見ることができるんだ。
通常は『登場人物の視界』に入るものしか見えない。でも、神視点なら、世界の裏側はもちろんのこと、地下世界や天上界まで、何でも見ることができる。
そのため、全ての『視界』と『知識』を持っている神(作者)によって、物語が書かれていく。地の文に入る説明は、全て『神の声』なんだ。
子供のころ、昆虫や植物の『観察日記』を書いたことあるでしょ? あれと同じで、自分の作った世界の『観測者』になって、そこいる人々の『観察日記』をつける。それが、神視点なんだ。
神は、世界中のどこでも見えるし、何でも知っている。さらに、その世界に住むすべての人の『心の声』を聴くことも可能。なので、好きなタイミングで、あらゆる『説明』や、誰かの『心の声』を代弁することができる。
3つの視点の中で、唯一『制限がない』書き方で、何でもあり。何も気にする必要がないので、最も簡単で『初心者向き』な書き方だ。だから、視点を知らない人、気にしていない人は、この書き方になる。
ただ、神視点にも『欠点』があるんだ。『観測者』として書くので、あっさりした文章になりやすい。そのため『感情移入』しづらいのがネック。
あと、あらゆる情報を書けるため『説明文』が多くなりやすい。なので、第1話の冒頭から、いきなり『世界観』や『歴史』の説明を始めるような作品。これは『神視点』で書かれている場合が多い。
書き手が『楽しく書く』だけなら、これで十分。ただ、より高い『表現力』を求めている場合。また『コンテスト』に応募したり『プロ』を目指す場合は、別の視点を使いこなすことが必要になる。
あと、文章が『硬く』なりやすいので、ラノベとは、あまり相性がよくない。どちらかというと、一般小説向きの視点と言える。
ただ、何でもありの、チートモード。なので、書き始めたばかりの人は、しばらく『神視点』で楽しむのがおすすめ。自分も、小説を書き始めてしばらくは、神視点で、自由に楽しく書いていたので。
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登場人物の切り替えが三人称視点
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次に説明するのが『三人称視点』について。『○人称』とか出てくると『難しい文法の話……?』と引いてしまう人も、いるかもしれない。
でも、安心して。単に、専門用語だと難しそうに感じるだけ。別に、文法とかは関係ないから。
分かりやすく言うと『キャラチェンジ型ゲーム』みたいな感じ。『原神』『戦国無双』『FF7リメイク』など、アクションゲームに多い。
例えば『レッド』『ブルー』『イエロー』の、3人のキャラが登場するゲームがあった場合。プレイヤーが操作できるのは、1人だけ。あとの2人は、オートで勝手に動く。ただ、好きなタイミングで、何度でも『キャラチェンジ』が可能。
レッドを操作する時。ブルーとイエローは勝手に動き回って、戦闘なんかも自動でやってくれる。ただし、装備変更やアイテムの使用。また、ステータスを見れるのは『操作キャラ』のレッドだけだ。
レッドの操作中は、ゲーム画面は『レッドの視点』で進行する。ブルーとイエローの行動は、ただ『観察』するだけ。
もし、装備変更とかしたくなったら『キャラチェンジ』が必要。レッドの操作中、ブルーとイエローは『NPC』みたいな存在になっているからだ。
次に、ブルーに操作をチェンジした場合。今度は『ブルーの視点』に切り替わる。ブルーは自由に操作できる代わりに、レッドとイエローは『観察』するだけ。
こんな感じで、キャラチェンジ(視点変更)しながらプレイするのが『三人称視点』なんだ。話の中で、好きなタイミングで、キャラチェンジができる。
ただ『神視点』のように、全てが見えるわけではない。でも、複数のキャラをチェンジしながら進めることで、より広範囲のものが、見えるようになる。
離れている場所のキャラと、チェンジした場合。別の国だったり、場合によっては、世界の裏側だって見ることができる。『キャラを経由』する必要があるが、世界中の『キャラの視点』を、活用できるんだ。
もちろん、離れたところのキャラと変わるには『理由』が必要。それに、急にガラリと『視点』が変わると、話が分からなくなってしまう。なので、通常は、見える範囲のキャラ同士で、視点を変更する。
あと、神視点とは違うので『神の声』は使えない。そのため、登場人物が『見えない場所』や『知らない知識』を出すことは、できないんだ。また、他人の『心の声』を、聴くこともできない。
あくまで『登場人物』だけで、話が進む。つまり、チートモードは使えないので、常に『登場人物の視点』を考えて、書く必要がある。
その代わり『キャラ視点』で話が進むので、神視点よりも『感情移入』がしやすくなるんだ。
三人称視点は『複数の主人公』がいる場合。また『沢山の登場人物』がいる作品を書くのに、向いている。もちろん、登場人物が、1人や2人でも、使うことは可能だ。
実際の使用例として『山田』『鈴木』『佐藤』の、3人の会話シーン。
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「腹減ったから、飯食いに行こうぜ」
山田は、2人に声を掛けた。今日カレーの気分だな。
「もちろんOK。今日はどこに行く?」
鈴木は、少し疲れた声で答えた。朝抜いてきたから、もう死にそう……。
「僕はガッツリしたものが食べたいなぁー」
佐藤は、元気一杯に答えた。肉だ……肉が猛烈に食べたい!
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主語の部分の『名前』が切り替わるごとに『キャラチェンジ』している。視点キャラが変われば、各キャラの『心の声』を書くこともできる。『心情』を表現したいキャラや『視点』を持たせたいキャラに、いつでもチェンジ可能だ。
なので『学園もの』や『戦記もの』で登場キャラが多く、複数キャラを『同時に活躍』させたい場合など。『三人称視点』だと、とても書きやすい。
扱いやすさとしては『中級者』レベル。なので、神視点から、ワンランク上を目指したい人に、向いてる方法だ。
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一人の視点だけで書くのが一人称視点
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最後に説明するのが『一人称視点』について。何か、ボッチっぽい名称だけど、まさにその通り。完全な『ソロプレイ』が、一人称視点だ。
ゲームで言うと『FPS』にあたる。『Doom』『Call of Duty』『バトルフィールド』など。主観視点 (1人のキャラクター視点)で行うゲームのこと。
主観視点なので、操作キャラの姿は見えない。自分の体で見えるのは、手・足・胴体の一部など。首と目の『可動範囲内』だけだ。
『リアルの視点』と同じで、『死角』になる部分は、一切、見えない。周囲の確認は、移動や方向転換が、常に必要になる。また、何かを確認する場合は、見える場所まで移動しなければならない。
どこでも見える『神視点』や、キャラチェンジで別の視界を得る『三人称視点』とは、大きく違う点だ。
実際に、やってみると分かるが、思った以上に視界が狭い。他のゲームの、キャラの後ろからカメラを引いた視点や、上から見下ろすクォータービューなど。これらに慣れていると、物凄く不便に感じると思う。
しかし、リアルの人の視界は、かなり限られている。都合よく『上』や『後方』からは、見ることが出来ないからだ。つまり『リアルの視点』に、完全に寄せて書くのが、一人称視点。
『神視点』や『神の声』は存在しないため、視点キャラの視界外は全く見えない。また『知らない知識』は語れないし、他人の『心の声』が聞こえないのは、三人称視点と同じ。
あと、都合よく『キャラチェンジ』することも不可能。なので、周囲の『状況』や『世界観』の説明が、かなり難しくなる。
他の2つの視点に比べると、物凄く『制限』が大きい。しかし、一人称視点には『大きなメリット』もあるんだ。
一人称視点は、視点キャラの『視界』と『心の声』だけで、話が進んでいく。世界観の説明なども、ほとんどが『心の声』で行われる。
もちろん、会話でも説明は可能。でも、あまりベラベラ話していると、独り言が多い、変なキャラになってしまう。なので、説明は『心の声』で行う場合が多い。
1人でいる時はもちろん、他のキャラと会話する時も、常に視点キャラの『心の声』が発生する。つまり『心の声』が、とても多い視点なんだ。
視点がずっと、1人に『固定』なうえに『心の声』が多い。そのため、非常に『感情移入』しやすいのが特徴。観測者である『神視点』や、常にキャラチェンジが行われる『三人称視点』には、無いメリットだ。
例えば、ある女の子が、視点キャラの場合。
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「……」
私は黙ったまま、熱い想いを込めて彼の目を見つめた。でも、彼は顔を赤くしたまま、ソワソワしているだけだった。
なんで何も言ってくれないのよ? いちいち言葉で説明しなくても、空気で分かるでしょ? もう、これだから、気の小さい男は――。
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このように、セリフが無くても『心の声』で話が進んで行く。
『無口』や『内気』なキャラで、セリフが少ない場合。または、言いたくても、自分の気持ちが『素直に言えない』キャラなど。
一人称視点なら『心の声』や『心の中の葛藤』を、リアルに書くことができる。キャラの『内面』が大きく出るのが、一人称視点だ。
なお、視点キャラの主語は、私・俺・僕・我・自分など『一人称』を使う。『名前』を表記する『三人称視点』とは、混ぜないように気を付けよう。
『メインキャラ』の魅力を、存分に表現したい場合。また『少人数』で進む話の場合は、一人称視点が向いている。
ただ、視界が非常に狭いのと、出せる知識が限られるので、扱いが難しい。キャラチェンジも出来ないので、最も『制限』が多い視点だ。
緻密な『計算』と『表現力』が必要なので、3つの視点の中では、最も『上級者』向け。ただ、使いこなせれば、リアルと全く同じ視点で書くため、非常に『リアリティのある表現』ができる。
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視点は複数使用は禁止
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視点は『複数を同時』に使ってはいけない。また、一度、使い始めた視点は、最初から最後まで『使い続ける』のが原則。1話ごとやシーンごとではなく、作品の最初から最後まで『1つの視点』で、統一する必要がある。
もし、100話で完結するストーリーを『一人称視点』で書いた場合。1話から100話まで、全て『一人称視点』だけで書く必要がある。
話ごとに視点を変えたり、シーンごとに都合よく変えてはいけない。もちろん、別の視点との『合わせ技』も NG だ。
なぜ、視点を変えたり合わせたりしては、いけないのか? これは『ゲーム』で考えてみると、分かりやすいと思うよ。
先ほどもお話ししたように、視点とは『ゲーム画面』と同じようなもの。ゲームによって『視点』が違うため、プレイする『ゲーム画面』も違う。
例えば、こんな状況を想像してみて。
キャラの後ろから見る視点が、急に主観視点になったり、クォータービューに切り替わったり。ちょっと移動する度に、視点がコロコロ変わってしまうゲーム。
「うおっ、訳わかんねーよ!」
「目が、目がぁー!!」
訳が分からないし、目が疲れて、まともにゲームができないよね。
もう1つの例として、
主観視点の『FPS』をやっていて、突然、見たこともない、別キャラの視点に変わったらどうだろうか?
「えぇっ!? 誰? てか、ここどこ?」
「ちょっ、何だよ、このクソゲーは!!」
ここまで行くと、完全に『バグ』でしかない。もし、こんなことが起こったら、プレイ不可能。ネットで大炎上は確実だ。
しかし、これらの酷い状況が、小説では日常茶飯事に起こっている。視点がコロコロ変わったり、視点を無視しする『バグ』が、頻繁に発生しているんだ。
読者は、視点がコロコロ変わると、状況がよく分からないし、視点キャラが誰だかも分からない。
もちろん、状況が分からなければ、作品を楽しむことも、キャラに感情移入することも不可能だ。
だからこそ、視点だけは、気を付けなければならない。『面白い作品』を書く以前に、視点を『正しく』使わないと、内容が読者に『伝わらない』からだ。
もしかすると、物凄く面白いのに、視点の使い方のせいで、全く『伝わっていない』作品もあるかもしれない。これは、非常にもったいないよね。
では、なぜ、このような『視点のバグ』が発生するのか? 1つは、視点を理解していない場合。しかし、一番の問題は、作者自身が『気付かない』のが原因だ。
仮に、視点が『おかしい』場合でも、書いている『本人』だけは、全ての状況を把握している。三人称や一人称視点で書いても、作者は常に『神視点』で見ているからだ。
その作品世界の上空から、世界中が見えている。また、作品の中のことは、全て知っている。だから、どんなに視点が滅茶苦茶でも、状況が把握できてしまうのだ。
状況の『見え方』は
・作者 ⇒ 視点に関係なく全ての状況を把握している
・読者 ⇒ 視点が1つに固定されていないと状況が分からない
作者と読者で『違う』ことを覚えておこう。
なので、作品を書く際には
『読者視点で、どう見えているのか?』
『読者視点で、ちゃんと伝わっているのか?』
これを、常に考えることが大切なんだ。
書き上がったばかりの小説は、読者に『伝わらない』部分があることが多い。なので、見直しの際は『どう面白くするか』よりも『ちゃんと伝わるか』を意識しよう。
面白いかどうかは『伝わったあと』の話だからね。
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よくある視点の間違った使い方
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『視点の使い方は分かった』と思って、いざ書いてみると、意外と間違えていることが多い。長年の癖になっている場合『無意識』にやらかしてしまうからだ。
あと、先ほどもお話しした通り、書いている本人は、視点が滅茶苦茶でも、ちゃんと『状況が把握』できる。だから、ミスしても、なかなか気付かないんだ。
なので、実際に『間違った書き方』を見たほうが、どこに注意すべきか、理解しやすいと思う。いくつか、例文を出していくね。
まずは、ロミオとジュリエットが、追っ手から逃げているシーン。
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「どちらに行く、ロミオ?」
ジュリエットは、2つに分かれた道を見て、ロミオに尋ねた。
「なら、左に行こう。俺は勘が鋭いんだ、信じてくれるかい?」
ロミオは、ジュリエットの手を強く握りしめながら答える。
「もちろんよ、ロミオ。左に行きましょう」
ジュリエットは、ロミオを見つめながら頷いた。
だが、この時2人は知らなかった。昨日の大雨で、左の道の先で、土砂崩れが起きていたことに……。
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これは『三人称視点』の文章。ぱっと見、特に問題なさそうに見えるよね。しかし、最後の一文が、視点を崩してしまっている。
最後の一文は、登場人物の視点ではなく、完全な『神視点』だ。『三人称視点』や『一人称視点』では、登場人物の見えないものは、当然、知ることはできない。
実は『この時○○はまだ知らなかった』というフレーズは、漫画・アニメ・ドラマなどでは、割とよく出て来る。『伏線』や『フラグ』を立てるのに、便利な表現方法だからだ。
しかし、漫画・アニメなどの、絵や映像で物語を表現するものは、小説とは視点が違う。
漫画の場合、冒頭部分では、四角い枠で『世界観』や『状況』の説明が書かれていることが多い。これは、登場キャラではなく、神の声。
また、複数のキャラが、常に『視点変更』しながら、話が進むので、三人称視点。しかし、視点キャラ以外の『心の声』も聞こえるので、神視点。
つまり、漫画の場合は『三人称視点 + 神視点』で表現されている。これは、アニメやドラマも同じこと。
ただ、小説が好きな人も、漫画やアニメなどは、結構、見ていると思う。また、多くの人は子供のころ、漫画・アニメ・ドラマを、小説より先に見始めた場合が多い。
そのため『映像の表現手法』と同じ視点で、小説を書いてしまっている。映像の視点を見慣れているので、癖になってしまったのだ。
だから、視点キャラ以外の『心の声』が聞こえたり、登場人物の『知らない知識』を出してしまったりする。『会話文』だらけの小説を書いている人も、漫画などの影響が大きい。
しかし、自分も最初のころは、もろに『三人称視点 + 自神視点』で書いていた。また、会話文だらけで、ほとんど『地の文』を書いていなかった。
これは、まさに『漫画感覚』で書いていたから。しかし、小説と漫画は『全くの別物』なので、視点の使い方には、注意が必要だ。
映像の場合、視聴者(読者)は『神視点』で見ている。登場人物には見えないものや、分からないことも、全て知っている。
背後から忍び寄る影も、登場人物のいないところで進行している悪だくみも、全部、見えているからだ。人の心の声や、過去や未来も見えてしまうから、想い人や過去の出来事まで、分かってしまう。
また、映像だけで状況が分かるから、いちいち『説明』がなくても、会話だけで『状況が理解』できる。
しかし、小説の場合は、そうはいかない。映像がないから、全て『地の文で説明』しなければ、会話だけでは、状況が分からないのだ。
さらに、登場人物の視点以外は、一切、見えないし、分からない。つまり、小説の読者は、神視点では見ていないので『キャラ視点』の情報が全て。
なので、漫画やアニメなどを見る時の『神視点』は、完全に切り離して考えよう。小説を書く時は『キャラ視点』で、キャラになり切って書くことが大切だ。
もう1つ別の例を。これは一人称視点の主人公。
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「ふざけるなっ!! そんな横暴な条件が飲めるものかっ!」
俺は怒りの表情で、敵の使者に怒鳴りつけた。
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一見すると、特に問題なさそうだよね。でも、よく見ると、おかしな部分があるんだ。
おかしいのは『怒りの表情』の部分。一人称視点は『主観視点』だから、自分の顔などは見えない。だから、どんな表情をしているかは、分からないんだ。
鏡でも見ない限りは、自分の表情は分からない。でも、普通は、自分の顔を、鏡で見ながら会話する人なんていないよね。それじゃ、ただのナルシストだもん。
実はこれ、自分が初めて、プロの小説家に、原稿を添削して貰った時に『自分の表情は、自分では見えないよ』と指摘されたこと。言われて見れば、当たり前なんだけど、意外と気付かない。
この場合、正しく書くと、
『俺は頭に血を登らせながら、敵の使者に怒鳴りつけた』
『俺は怒りを込めて睨みつけながら、敵の使者に怒鳴りつけた』
『俺は心の中で怒りを煮えたぎらせながら、敵の使者に怒鳴りつけた』
表情は見えないから『内面を表現』する感じになるんだ。
もちろん、他の視点キャラから見れば『怒りの表情』で OK。ただ『視点キャラ自身』を書く場合は、気を付けよう。
最後に、もう1つ例を。これも一人称視点。
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「あっ、頭に桜の花びらがついてる」
私は自分の後頭部に手を伸ばし、サッと花びらをつかんだ。
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よく注意して見ると、何がおかしいか分かるよね。そう、後頭部、背中などは、完全に『死角』になっているから、見えるはずがないので。
仮に、誰かに教えて貰ったとしても、本人は見えないんだから、ピンポイントで掴むことなんて出来ないよね。手で払い落とすのが、やっとだ。
このように、死角にある物は『見えない』『気付かない』『自由に触れられない』のが当り前。もし、見えない物が、普通に見えたら、その時点で『神視点』になってしまう。
視点には必ず『死角』がある。『視点キャラ』の目線で、知覚できるか判断しよう。
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一人称視点はラノベと相性バツグン
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3つの視点の違いは、今までの説明で、だいたい理解できたと思う。でも『結局、どの視点で書けばいいの?』と迷っている人も、いるかもしれない。
3つの視点は、どれも正解・不正解はないので、選ぶのは自由。ただ、個人的には『一人称視点』がオススメ。これには、いくつか理由があるんだ。
説明を分かりやすくするために、ちょこっとだけ、昔話をするね。
自分は、高校生の時に、小説を書き始めた。ラノベを読みまくっている内に『自分でも書けるんじゃね?』と思い込んだ。小説好きの若者には、よくある話である。
ただ、その当時、完全に自己流だったため、視点のことは全く知らなかった。そのため、滅茶苦茶な視点で、かなりフリーダムに書いていた。でも、凄く楽しかったので『自分、才能あるんじゃね?』と、息まいていたのだった(笑)
人間、楽しく出来ていると、基本とかを全く知らなくても『上手い』とか『才能ある』と、思っちゃうんである。これは、小説・絵・音楽、どれも同じこと。
で、何回かコンテストに送ってみたものの、全て予選落ち。当時、視点が適当では『評価すらされない』ことに、全く気付いていなかったのだ。
その後、数年の時が経ち……。
社会人になってから、小説を書くことも、読むことも、全くしなくなった。忙しいのもあったが、自然に熱が冷めてしまったからだ。
しかし、あることをきっかけに、再び書き始めた。いつも、ちょっとした出来事で、唐突にやる気が湧いて来るんである。
ただ、その際に『自己流じゃダメだから、ちゃんと勉強しよう』と思い立ち、技法書を読み漁った。社会人になってから、ビジネス書をたくさん読むようになり、勉強の大切さを知ったからだ。
技法書を読んでいて、ある本に、こんなことが書いてあった。
『コンテストに送るなら、神視点は論外。一人称視点、一択』
この本の中では、神視点だと『絶対にコンテストには通らない』と断言していたのだ。この時、自分は初めて『視点の大切さ』を知った。
「やべぇな――。自分、今まで送った作品、全部、神視点じゃん。なら、今日から書き方変えるぞ!」
プロの小説家が言っているので、間違いないと信じ、その日から『一人称視点』に切り替えることにした。素直というより、非常に影響を受けやすい性格なんである。
その後、さらに腕を磨くべく、あることを思いついた。プロの小説家の元に、直接、指導してもらいに通うことにしたのだ。片道2時間半の距離だったので、ちょっとした小旅行気分だった。
行きの2時間半、暇なので小説を読む。現地に着くと、2時間の講義を受ける。帰りの2時間半も、小説を読みながら帰って来た。ただの小説馬鹿である。
ある時、先生にこんな質問をしたことがあった。
「三人称視点と、一人称視点って、どっちのほうがいいんですか?」
その時返ってきたのが、
「どちらでもいいけど、できれば一人称視点がいいよ。一人称のほうが、審査員受けがいいから」
この答えだった。
プロでも『三人称視点』で書いている人はいる。しかし、今は『一人称視点』が主流。そのため、審査員によっては、三人称視点だと、それだけで『マイナス評価』を付ける人も、いるらしいのだ……。
『視点の使い方だけで、評価が変わるなんておかしい』と思うかもしれない。でも、それだけ『視点の使い方』が、重要視されているということだ。
さて、ここまでは、あくまでも、プロの意見。コンテストに応募したりする人は、参考までに覚えておいてね。
ただ、個人的には、そういうのを抜きにして『一人称視点』をオススメしたい。なぜなら、一人称視点は『ラノベと相性がいいから』なんだ。
3つの視点は『視野の広さ』意外に、登場人物と読者の『距離』が違う。最も距離が近いのが、一人称視点だ。
一人の視点で表現するため、視界が狭く『心の声』が多い。1人の人物の『心』や『考え』に触れ続けるので、距離が近くなるんだ。
一般小説の場合は、割とあっさりした表現が好まれる。ただ、ラノベの場合は『強い感情の爆発』や『心の中の葛藤』などが、書かれる場合が多い。
エンタメ作品だし、読者層が若いから『派手な表現』のほうが、好まれる。また、登場人物も若者が多いので、喜怒哀楽が激しいからだ。
あと、キャラクターの個性や魅力も、ラノベではとても重要。ラノベの登場人物って、個性的だったり、癖の強いキャラが多いよね。
そのため、メインキャラや主人公を、魅力的に見せたい場合は、一人称視点が向いている。より深く『内面を掘り下げて表現』できるからだ。
最初は、プロに言われたから使っていたけど、今は一人称視点が、一番しっくりくる。やはり、キャラクターの『内面を表現』するのに、最も適した視点だからだ。
『心の声』を中心に、物語が進行するので、嫌でもキャラクターの『内面』が浮き彫りになる。あと『FPS』と同じ『主観視点』なので、読者は『感情移入』しやすい。
ただ、視野が狭いため『周囲の状況』や『世界観』の表現が難しい。しかし、一人称視点でも、広い世界を表現するテクニックはある。これは話が長いので、また別のエッセイで……。
もし、群像劇や戦記物など、登場人物が多く、淡々と進んで行く話ならば『三人称視点』でもいいと思う。
ただ、キャラの魅力を重視する場合や、内面的な表現をしたい場合は『一人称視点』に挑戦してみて欲しい。
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視点とはリアルな表現力を極めること
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小説に『視点』が大事な理由は、理解できただろうか? 間違った視点で書くと、書いた本人は分かっても、読者には分からない作品が、出来あがってしまう。なので、視点は常に『意識』しながら書く必要がある。
あと、スタートからエンディングまで、ずっと『1つの視点』で統一しなければならない。だから、作品を書き始める前に『どの視点で書くか』を、決めておく必要がある。
長くなったのでまとめてみると、
・神視点 ⇒ 見下ろし方の視点・どんな表現でも無制限に OK
・三人称視点 ⇒ 複数キャラの視点をチェンジ・全てのキャラの視点が使える
・一人称視点 ⇒ 一人のキャラの視点で固定・一人の視点以外は見えない
こんな感じになる。
ただ、どの視点を選ぶかは自由。小説とは、自由に書いていいものだからだ。ただ、プロの見解や、自分の個人的な意見も、参考までに覚えておいて欲しい。
視点の使い方とは、言い換えれば『リアルな表現力』のこと。登場人物の目に映る、景色や情景を『正確に表現』して、読者に『正しく伝える』力。
特に『一人称視点』は、制限が大きい分、上手く使いこなせば『表現力』が確実に上がる。ただ、一人称視点とは、本来『人が持つ視点』そのままだ。
リアルの世界では、自分の視界に入らない物は見えないし、知らないものは分からない。もちろん、他人の心の声も聞こえない。
つまり、一人称視点を使いこなすのは『リアルな表現を極める』のと同じこと。リアルな表現力は、小説書きにとって『強力な武器』なので、身につけて損はないと思う。
ただ、別のエッセイでも書いたが、小説に大切なのは『楽しんで書く』こと。じゃないと、途中で辛くなって、投げ出してしまうから。ただ、楽しくやるにも『最低限の実力』は必要だと思う。
自分の大好きなスポーツ漫画で『本当に楽しむには強さがいる』という名言がある。つまり、普通にやっても楽しいけど、実力があれば、もっと『深い楽しみ方』ができるということ。
楽しさには2つあって
・初期のころ ⇒ やってるだけでとても楽しい(初心・ワクワク感)
・中期以降 ⇒ 実力があってこそ見える楽しさ(高次元な楽しみ方)
どちらも必要なもの。
初心の楽しみ方は、常に持ち続けるべき大切なもの。でも、そこに実力が加わると、もっと楽しくなる。なので、今まで、ワクワクだけで楽しくやっていた同志は、是非、視点の使い方をマスターしてほしい。
新しい力を得るには、苦労がともなう。でも、その先には、今まで見たことのない、新しい世界が広がっている。
自分たち小説書きは、未知なる世界を旅する、冒険者なのだから。恐れずに、前へ進んで行こう!!
補足説明――
何点か質問があったので『補足説明』をしておきます。
まず、視点キャラ自身の表現について。『怒りの表情で~』『悲しい表情をしながら~』などが、セーフかアウトなのか?
これ自体は、実際には、普通に読者に通じます。むしろ、おかしさに気付かない人も、結構いるはずです。しかし、見る人が見れば、すぐに『間違い』を見抜かれてしまいます。
自分は以前、プロの小説家に指導を受けていました。毎回、講義のたびに、重箱の隅をつつくように、細かい部分を指摘されていたのです。
当時は『これ、普通に通じるよね?』『こんな部分まで、誰も気づかないよ』なんて、結構、不満に思っていました。
しかし、先生自身、何度もコンテストの審査員をやったことがあるため、審査員視点で、厳しくチェックしていたのです。
あるコンテンストに送った際『評価シート』が送られてきました。その内容を見て『こんな部分まで見てるのか?』と、凄く驚きました。
言葉づかい、表現力、語尾の書き方、視点の使い方など。内容以外も、かなり細かいところまで、見られていました。
つまり、趣味で書いて、一般読者に見てもらうだけなら、グレーな表現でも OK。しかし、コンテストなどで、プロに見てもらうなら、グレーな表現は、全て NG ということです。
なので、何を目指すのかによって、どこまで厳しくルールを決めるかが、変わって来ます。ただ、個人的には『厳しいルール』で書いたほうがいいと思います。
ルールを厳しくするほど、より『表現がリアル』になるからです。
次に『五感』の表現について。今回は『視点』がテーマなのと、初心者向けなので、あえて本文には、説明を入れませんでした。
もちろん、目で見えなくても
・スーツの中のガンベルトから銃を引き抜く
・脚の武器ホルダーからダガー引き抜く
・背中に背負っている大剣を引き抜く
・ズボンの後ろポケットから財布を取り出す
これらは可能です。
ただ、目以外の五感を使う場合、視点キャラの『能力』でかなり差が出ます。
例えば『目で見ずに武器を抜く』場合は、
・ベテラン ⇒ 目にもとまらぬ速さで引き抜き敵を攻撃
・素人、新人 ⇒ 武器に手が届かない・中々武器が抜けない
経験や感覚の差により、同じ動作ができるとは限りません。
特に、初戦闘のキャラの場合、緊張で手が震えて、まともに武器が掴めない可能性もあります。
このように、目で見ない場合『キャラ差』がかなり出るため、難しいです。そのため、今回は説明しませんでした。
これらの、キャラごとのリアルな表現のしかたは、また別のエッセイで、お話ししようと思います。
最後に『視界の差』について。厳密に言うと、キャラごとに『視界の広さ』が違います。視力0.1と、視力2.0のキャラでは、当然、見える範囲が違うからです。
ただ、自分の場合は、キャラの視力ごとに、表現を変えています。複数人で歩いていても、あるキャラには見えていても、あるキャラには見えない。
現実世界でも、これは『視力の差』によって、ごく普通にあることだからです。
このように、本当にリアルに表現する場合。登場キャラの『五感』や『経験』など、あらかじめ『細かく設定』する必要があります。
ただ、ここまでやるのは、上級者向け。なので、自分のレベルや、目的に応じて、設定してください。視点がブレていなければ、ルール設定の厳しさは、個人の自由ですので。
『よく分からん』『これってどうなの?』という、疑問などがある場合は、ご遠慮なく、感想欄で質問してください。