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リスペクト上等じゃい

 クレイドがマンガを描きたいと宣言した翌日。

 いそいそと私の手紙を持って弟のところへ向かった彼は二日後、弟の返事と大荷物を持ってホーウェン国に戻って来た。まあ二日後とは言っても、日本との時間の流れの違いでホーウェン国は時間の流れが早い。恐らく日本には半日と滞在していない。


 猫の姿ならば魔力消費を抑えて一日は確実に居られるものを、と毎回愚痴をこぼしているが、猫のままだとマンガを読むこともままならないだろうし、そこは我慢するしかないだろう。


「リリコ! 買わなくても個別の部屋が与えられ、安価で大量のマンガが読める夢のような店があったのだ」


 とまるでお姉さんが沢山いるお店に行ったサラリーマンのように夢見るような顔で語っていたが、恐らく弟がネットカフェか何かに連れて行ってくれたのだろう。

 これ幸いと、


「それなら毎回山のように中身を読まずにマンガを買って、読んだ後に余り好みでなかった場合に勿体ないですから、そのお店で気になった本を読んでから、自分が好きそうな作品だけ厳選して購入する方がいいですよねえ。クレイド様の感性に合う物を」


 と上手いこと洗脳した。自分が厳選したマンガだけを本棚に並べる、というのがお気に召したらしい。うむ、確かにそうだな、と深く頷いていた。


 いくら私の遺したお金もあって今は何とかなるにしても、毎回大量に無作為に買われては、弟だって困ってしまうだろう。全く、クレイドは世の中にどれだけマンガが出ていると思っているのか。全て買おうと思えば城中の部屋をほぼつぶして読書室にしても足りないぞ。日本のマンガ本事情を舐めて貰っては困る。少しは自粛することを覚えて貰わねば。


 日本へも、余り頻繁に行ってはトールに迷惑が掛かるゆえな、とクレイドも我慢して一週間か十日に一度ぐらいの訪問にしているようだが、弟からすれば時差もあって二、三日に一度は現れる訳なので、彼女がいた時もこんなに頻繁に人が来たことねえわ、と手紙でこぼしていたが、生の魔王と話が出来るのも滅多にないことだから、と現在は全く苦にはしていないらしい。何やら生鮮食品みたいに言われているクレイドは、読んでいた私のマンガの原作を書いたのが弟だったということが判明してから、敬意の眼差しを向けてくれるようになったらしいので、魔王に尊敬されてる俺カッコよくね? という頭に虫が湧いたようなマインドイキリも発生しているのではと邪推している。



「おおリリコ! 今戻ったぞ。これはトールからの返事だ。それと、ラーメンとマーブルチョコと、あと何だったか……ええと、ポチだかテチだかいう菓子も持たされた」

「ああ、ポテチですね。ジャガイモのお菓子です。久しぶりに食べたくなったので頼みました。後で皆さんも一緒に食べましょう。これも中々美味ですよ。きっとこちらでもすぐ出来るんじゃないかとは思いますが」

「おおそうか。それは楽しみだ。──あと、マンガを描くのに必要なものも一通り用意してくれた。トールは本当に親切な男だな」


 クレイドが取り出したのは、マンガの原稿用紙に油性ペンから鉛筆、インクにペン先、カッター。トレーシングペーパーや最低限の陰影用のトーン数種。プロット用の無地のノート。それとサービスなのか、『マンガ初心者マニュアル』と書いてあるハウツー本まであった。

 私はお礼を言うと、弟の手紙を受け取って開く。


『姉ちゃんへ


 ねーねー魔王がマンガ家になりたいってどゆこと?(笑)

 まあ俺からも「なりたいからって簡単に出来るもんじゃないから、姉ちゃんに師事して立派なマンガ家になってくれ」とは言ったけどさ。

 でも、マンガの素晴らしさを自分の国にも広めたいってのはすごく伝わって来たから、応援したいと思ってる。姉ちゃんほど描けるまでに何年かかるか分からんけど。

 こっちの一日がホーウェン国では三日なんだろう? もし上手く描けるようになったら月刊誌でも三カ月かけられるってことだよね? 連載楽勝じゃん! 面白いの描けたら俺にも見せてよ。読んでイケると思ったら編集者さんにも見せるからさ、日本でデビュー出来たりするかもよ?

 あ、でもそうするとお金関係とか発生するか。まーそん時は俺が描いてることにしてもいいし。印税とか原稿料をクレイドにあげられるから、自分のお金で好きなだけマンガも買えるじゃん。そちらで広めるのもいいけど、面白いマンガは沢山の人に読んで貰いたいもんね。

 それにしても、退屈しなくて済みそうだね。姉ちゃん休みでも絵を描いてたぐらいだし、描くの大好きだったじゃん。死んでからすることなくなって困ってたんでしょ? クレイドが一人前になるかは分かんないけど、魔王をマンガ家に出来たらきっと世界で初めてだよ。いや前人未到かな。俺一生姉ちゃんリスペクトだわ~。

 ふぁいとーおー♪     トール』


(他人事だと思って呑気な……)


 私はため息をついたが、流石に弟だ。私が退屈だろうとしっかり読んでいるところが憎たらしい。


「リリコ、私はまず何から始めればいい?」


 私が手紙を読むのを見守っていたクレイドが、ワクワク顔で尋ねた。


「そうですね……私はこれからのスケジュールを立てますので、クレイド様は基本として、そのマンガ初心者マニュアルを熟読しておいて下さい」

「うむ。分かった」


 大事そうに画材とマニュアルを抱えて部屋を出て行く彼の背中を見て、よしマンガ家になって貰おうじゃないか、と決意を新たにした。

 トールよ、一生姉上リスペクトにさせてやる。





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