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帰宅と不安と

 クレイドと一緒にマンガと資料集、ついでにスーパーに立ち寄りマーブルチョコ(大きな筒形のケース入りのやつ)を購入して弟のマンションに戻ると、アルドラが紙袋に入れた何かを持って待っていた。


「書き方の基本を教わって、トール先生の書いた小説というのを貰ったの。これは帰ったら全部読まなくてはね。私はマンガ家ではなく、小説家というものになるわ! まずは次の時に書いたものをトール先生に見て指導して頂くことになっているの」


 かなり気合の入った感じのアルドラだが、いつの間にか先生呼びになっている。げっそりした顔の弟がするりと私の横に立って小声で囁いた。


「年齢的に大先輩だし呼び捨てで良いって言ってるのに、どうしても先生って呼ぶの止めてくれないんだよ。姉ちゃんからも何とか言ってよ」

「大丈夫よ。私だってホーウェン国では、生徒やクレイドからリリコ先生って呼ばれてるから。教えを乞う側のケジメらしいわ。恥ずかしさもいずれ慣れるって。気にしない気にしない」

「でも魔王に先生って呼ばれてもさあ」


 弟はブツブツ言っていたが、多分まんざらでもないのだろう。次に来るまでにプロットと、四百字詰めで二十ページ分は仕上げて持って来るように、などとアルドラに指示をしていた。


「それじゃまたね。姉ちゃんも無理しないようにね」

「トールもね」


 私たちは公園の男子トイレからこっそりホーウェン国に戻ったが、日本で四時間にも満たない滞在だったのに、戻ったら既に空には月が出ていた。

 朝の八時頃にはこちらを経ったはずだが、やはり流れが早いと改めて思う。

 クレイドたちと別れて自室に戻りながら考えた。

 ただ逆に言えば、こちらで三年経とうが日本では一年しか経ってないので、こちらにいる自分にとっては、三倍の時間を使える気がして何となくお得感を感じる。


(年を取るのが三倍だったら嫌だなあ……)


 と考えて、あれ、死んでる人間って年を取るのかな、と疑問に思った。

 そもそも寿命という点から言っても既に終わっているのだから、霊体としてこちらで実体を持って普通に生きている状態がイレギュラーなのだ。


 となると、このまま今と変わらない状態で生きるのだろうか? ……いや、逆に死ぬタイミングとはいつになるのか? まさかこのまま世界の人が全部死に絶えても私だけ生きている、なんてことにならないか?

 そんな先のことよりも、百年千年と時が過ぎて行き、生徒たちが死に、クレイドたち長命な魔王たちが死に、身近の親しい人たちが皆居なくなった後も、私は一人残され生きるのか。そう考えると恐ろしさにゾッとした。


 だが、私があの世に行ってしまいそうなところを助けてくれたクレイドにそんな恨みがましい話は出来ない。弟に死後に会えたのも彼のお陰なのだ。


「……まあ考えても分からないことを悩んでも仕方ないか」


 最悪、五十年百年経っても年を取らず死ぬ気配すらなければ、日本に連れて行って貰って、クレイドから貰ったペンダントを外してしまえばいい。魂が成仏して輪廻の輪だか何だかに入れるのではないか。

 うん、これはいい考えだ。ジー様になった弟に挨拶して一足先に成仏と。いつまでも私が教師をやらずとも、生徒たちが成長してくれ後を継いでくれるだろうし、お役御免になるもんね。


 あっさり死ぬのは後悔があったけど、いつまでも死ねないのは孤独で退屈だ。そこまで考えて、クレイドたちも長生きしすぎて、時にしんどくなることもあるんだろうな、と感じた。だからいくら時間をかけても、自分たちで何かを生み出すことに力を注ごうとしているのかも知れない。


 寝間着に着替えてベッドに横になりながら、とりとめもないことをうだうだ考えている内にいつの間にか眠っていた。


 朝目覚めた時に、私は昨夜のモヤモヤを振り切ることにした。

 ここで生きていた証として、私には私の出来ることをやろう。恋愛だの何だの言ってる場合じゃないよね。自分の先行きすら不透明なのに。


「……よっしゃー、今日も一日頑張るかー」


 外を見ると雲一つない良い天気だ。私はベッドから出て思いっきり伸びをすると、仕事の資料の準備を確認し、洗面所に向かうのだった。





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