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Ending Never Ending Story  作者: 檸檬
3/3

Never Ending Story Never Ends

 ……そうそう、目覚めが悪いってこういうやつだ……。


「おや、もう起きていたのですね」

「さっき起きたばかりだ」

「左様でございますか。では食事をお持ちしますので少々お待ちください」


 今までのことなんて全部忘れて、ただ眠気と戦うあの朝はどこへ行ったのだろうか……。


 お兄ちゃんまた戦ってあげるからさ。






 昨日は余所行きの格好で寝てしまったため、一通り身支度をしてもらうとハンが食事を持ってきた。


「カットステーキをお持ちしました」

「……おう」

「召し上がれ」

「……へい」


 重いなぁ……。ハンのやろう俺がステーキじゃない方が良いってこと分かってたな。


 むさ苦しい朝食を終えると胃もたれがどっぷりとやってきた。


「湯を沸かしてありますが、入られますか?」

「……ちょっとしたらな。少し休憩させてくれ」

「かしこまりました」




 カッコいい人ってどうやったらなれるんだろ……。


「ハン……一つ質問いいか」

「なんでしょう」

「カッコいい奴ってどんな奴だ?」

「ふむ……難しい質問ですね。私なら……強い意志を持った人、と答えるでしょうか」

「強い意志……具体的にはどういうことだ?」

「まぁ、言ったことをちゃんとやるとかですね。他意はありません」


 ウザ!


「『カッコいい』なんて俺には向いてないのかもな」

「そんなことは無いと思いますよ。王子なんて身分、意志の強さが無いとやっていけません」

「でも俺はハルノ村では戦わないらしいぞ」

「それは……まだ陛下と私にしか言っていないのでノーカンです」

「ノーカン……ね」

「何かご不満でも?」

「いいや……父上も冗談だと思っているだろ。悪くないな」

「それは良かったです。そろそろ湯浴みの方もいかがですか?」

「そうだな。話してるうちに大分楽になった」

「では、行きましょうか」






 ふぅ……さっぱりだぜ。


「今日は今のところ報告は無いか?」

「一件ございます。執務室に置いてありますので今から向かって確認しましょう」

「わかった」






「えーっとえーっと、要は俺の予算から一部戦時中の食料費が出るということか……何で!?」

「はて? 何かなさいましたか?」

「いや? あ……あれだ」

「参考までに」

「いやな、ハルノ村で食料をかっさらって来なかったから敵軍にその食料が取られるって言うんでこっちもハルノ村から徴収するはずの分と増えた敵軍の食料に対抗する分を調達しようって話になったんだ」


「なるほど……ウィリーのせいですね」

「うっせぇ」

「抗議すれば少しくらい値切れるかもしれませんがどうなさいますか?」

「いや、構わん。金の方は気にならないさ」

「かしこまりました」

「じゃあ、仕事始めるか」






「今日も相変わらず早いですね」

「まぁな」


 能力使ってるんでね、考える時間はノーカンなのです。


「ただ、流石に疲れてきたな」


 時が止まると言っても気疲れはしちゃうぜ。


「もうすぐ昼食の時間ですから、疲れるのは当たり前ですよ」

「まじか! 早いな……なら食事にしよう。今日はちゃんとした場所で食べようかな」

「かしこまりました。では行きましょうか」






 ……もう夜か。一日ってこんなもんだったか? いや、昨日が濃すぎたんだ。


「なんだか損した気分だな」

「何がですか?」

「今日何をやったかっていう記憶があんまりないんだよ」

「と、言いますと?」

「……つまらん」

「はぁ……でしたら本でもお読みになりますか?」

「本か……それもありだな。いくつか見繕ってきてくれ」

「かしこまりました。何か希望はありますか?」

「そうだな……せっかく戦争が近いのだし戦に関連するものを選んできてくれ」

「かしこまりました。少々お待ちください」




「私のセンスでいくつかお持ちしました」

「ありがと。では」


「いつも思うのですが本当にそれで読めてるのですか?」

「あぁ、バッチリ」


 端から見ればパラパラとページをめくってるように見えるけどもちゃんと読んでますぜ。毎度時を止めてね。




 戦争における経済の話か……なかなか良いところを突くじゃないかハン。戦略的なところを書いた本を想像してたがコレはコレで面白いな。




「ハンはこれを読んだことがあるのか?」

「えぇ、大分前ですが、よく覚えております」


 なるほどねぇ……だから『食料は敵軍に取られるくらいなら燃やしてしまえ』なんてえげつないことが書いてあるのか。


 そこら辺のことは覚えてますぅ! あー悪かったですよ、敵軍に食料取られることになっちゃって。




 そういえばこっちもカッコ悪かったのか。意気揚々とココを出て行った昨日が恥ずかしい……。






「ハン、悪いが他の本も持ってきて欲しい」

「どのような本がよろしいですか?」

「もっと白兵戦みたいな、目の前の敵を倒すためのことが書いてある本が読みたい」

「……かしこまりました。他の本は返してきて構いませんか?」

「あぁ、よろしく頼む」




「どうぞ。私が言うのもなんですが、名著ですよ」

「ほぉ~。期待させるじゃん」






「名著って言うくらいだからこれも読んだことがあるんだろ?」

「えぇ」

「なら何のために読んだ」

「殿下をお護りすると誓いましたから」

「……誓うって、誰に?」

「殿下に」

「いつ」

「生まれたばかりの時、でございますね」

「……そりゃ俺が覚えてないわけだ」

「覚えられてるとは思っていませんよ」

「へぇ……カッコいいじゃん」

「明日からのウィリー程では」


 マジウザ!






「おはようハン」

「おはようございます。今日はどこかへ行かれるのですか?」

「そう見えるか?」

「はい、身支度をしてるので。私がやりましょうか?」

「い、いや、大丈夫だ」


 分かってるくせに。




「では、お気をつけて」

「あぁ、無理をするつもりは無い」


 窓から飛び降り、目的地を目指す……その前にヨハンのところに行かないと。






「早く逃げるぞーー! 食料!? 持ってけ持ってけ!」


 ハルノ村なう。


「私達はどこへ行けばいいのですか!?」

「近くのクリーブル砦に話をつけてあるから!」


 話つけたっていうかまぁ、職権乱用なんだけどね。




 城を出た俺はすぐさま馬小屋へ向かい世話係の目を盗んでヨハンを連れて行った。流石国一番の瞬馬だぜ。

 道中通りすがりの盗賊を懲らしめながらも到着したハルノ村でヨハンから降りて避難誘導を開始した。




 村全体が人流の波に包まれる中、俺はそれに抗うように村人を先導する。


 見たかこの野郎! 俺だってやるときはやるんだよ! ハン! 俺はカッコいいだろ! なぁ! ケイト!


「おい! あれは何だ!?」


 せっかく王子が気持ちよくなってるのに何かね? は?


 遠くに鎧を着た人の大軍がこちらに向かって行進している。




 おいおいマジか! 来るのは明日じゃなかったのかよ!?


 総数約600、ジャンセン王国軍が大方予想通りの人数で予想外のタイミングでやって来た。


「大丈夫だ! 俺に任せておけ!」




 時間くらいいくらでも稼いでやりますよ。


俺は意気揚々と敵軍の方へ歩いて行った。


「私はノア王国第三王子ウィリー・アルカンタラ・ノアだ! 少し話がしたい!」






 止まらないな。


 あれ? 王子だよ!? 国でもトップクラスの偉い人だよ!?


「俺はウィリー・アルカンタラ・ノアだ! 聞こえてないのか!?」

「そんなわけがないだろ!!」




 ......あ。俺こんなところにいるわけないんだったっけ。


「本当なんだ!」

「嘘をつくな! こんな日に一人でいる王子がいるはずない!」


 ごもっとも。


「いや、マジなんだって!」

「うるさい! こんな奴殺して進むぞ!」

「マズいマズいマズいマズい!」


 俺は来た道を颯爽と戻ることになった。




「お前ら走れ! 作戦は失敗だ!」

「時間を稼ぐっていうのは!?」

「無理だった!」

「「「えぇ!!!!」」」

「俺をカッコ悪いと罵ってくれ! いやその前に逃げよう!」


 走れ! 走れ! 誰より、も?


「うぇぇぇん! うぅぅ……」




 ガキンチョーー!!!!!!


 何かの鳴き声が聞こえて後ろを振り向くと少年が泣き崩れていた。そしてその少年に近づく鎧を着た男が見える。


 転んでる暇ねぇぞ! 早く立ってくれ……!






 ……あほが。




「「ダーーメーー!!」」


 小刻みに時間を停止させて男の動きを確認して次の行動を予測すると、攻撃を回避しながら顔面に一発食らわせた。


 と、もう一つ。他の奴いる?




 声の先、俺の足元に視線を向けると、強烈に焼き付いた記憶が蘇る。


「ケイト?」

「ウィリー殿下……?」


 ケイトが転んだ少年を抱えて座っていた。




 また時止めちゃったよ。なんだかおねしょみたいですね……えーっと、どうやって話しかければいいんだ? 『生きてたんだ!』か? 『久しぶり!』とか? いや一日ぶりだし!


「お前……生きて……」


 俺ダッセェ……。


「危ない!!!!」


 何!? えっ!? どしたの!!? 止めたよ! 後ろ向けば良い!? いくよ!?


 解除・停止!




 アァァァ……。


 大男が俺に向かって大剣を振りかぶってるよ……。このまま時が進んでたら俺は真っ二つになってたんだろうな……。


 よしっ! やってやるか!


 時を進めてそのまま大男の手首を掴みながらタックルした。


 テイクダウンだぜ。


「ヒィィ……!!」


 お?


 後ろを振り向くとケイトの直ぐ隣に大剣が地面に突き刺さっていたのが見えた。


 地面に刺さっちゃうなんて素晴らしい切れ味ですね。じゃないよ! ふざけんなデブ!


「ケイト! そのガキ連れて早く逃げろ!」

「え? うん!」


 さぁ……今度こそ時間を稼いでやりますか。


 大男にタックルしたままの抱きついた状態で交渉を開始した。


「ちょっと俺の話聞かない?」

「うるさい! この王子もどきをどかせ!」


 もどきって……。もうそれでいいや。


「とにかく! 一旦話して……」


 その時俺は兵士に首根っこ掴まれて大男から離された。


「おい! 離せ!」

「そいつは捨てておけ! 後さっきの娘を捕まえろ!」






 あ゛ぁ……?


「どういうことだ」

「貴様には関係無いだろ!」


 スパッ。


 自分で聞いたわりに話も聞かず横に突き刺さっていた大男の大剣と抜き取り首根っこを掴んだ兵士の腕を断ち切った。




「うわぁぁあぁぁ!!」

「だ、誰かこいつを殺せ!」


 思ったより軽いな。切れ味もやはりいい……。


「俺がお前らを殺してやる」


 手始めになぜかM字開脚してる大男の顔を切り裂いた。その後、周りの男を能力を駆使しながら次々と切り捨てていった。




「団長がやられたぞ!」


 どこかからそんな声が聞こえてきた。後ろを振り向くと未だにM字開脚してる大男とその他20人くらいが倒れていた。




 あいつが団長だったのかよ……っていうか俺はこんなに人を殺していたのか……。


 前を見ると兵士達が四方八方へ逃げていた。


 団長様がやられたぐらいでそんなに騒ぐなよ。でも、逃げてくれた方が良かったんだよな。




 ……。




 大剣をそこら辺に捨てて自分の手を見る。




 はぁ……ちょっと汚いな。




 この場を離れようと歩き始めるとヨハンがトボトボとこちらへやって来るのが見えた。


「ヨハン……今日は歩いて帰ろうか。俺の体ばっちいもんな」


 俺とヨハンは誰もいない村を歩く。前回来たときとは違う冷たさがあり、かえって音や匂いが敏感に感じる。


 すると覚醒した耳にさっきも聞いた声が聞こえる。


「ウィリー殿下!」




「ケイト……ケイト!」


 どこだ!? どこにいる!


「こっちです!」


 村長の家の窓からひょっこり顔を出しているケイトが見えた。


「今そちらへ行きます!」


 おいおい嘘だろ……? さっき逃げたはずじゃ……


「なぁ! 何で! あ……?」

「ハァ、ハァ……どうされました?」

「いや、だから! ちょっと待て! 一旦止める!」

「止める?」


 ……口滑らした……。まぁ、ギリギリ無かったことに出来るか。いやそんなことはどうでも良いわ! 情報が多い! どうやって城から帰ってきたのか!? それは後でも良い! 今は……鑑賞だ。











「なぜ逃げなかった!」

「え?」

「なぜさっきガキと一緒に逃げなかったのか!」

「それはおじいちゃんが動けなくって……」


 またおじいちゃんかーーい!!!!


 ダメだ、身体の力が完全に抜けた。


 そのまま俺は地べたにへたり込んでしまった。


「お前は命を狙われてたんだぞ……」

「そうなのですか?」

「敵兵が『娘を捕らえろー!』って。だから戦ったってのに……」

「あの……申し訳ございません……?」

「もう良いよ。なんだかケイトらしいし」


 そう言いながら立ち上がろうとするとケイトが咄嗟に肩を貸そうとする。


「大丈夫だ。お前を血まみれにするわけにはいかない」


 それに理性も持たないし。


「構いません」

「おい!」


 俺の話も聞かずにケイトは俺の腕の中に頭を入れてきた。




 ピャーーーー!!!!


 これは止めてはいけないぞ……俺は抜け出せなくなる……。


「とりあえず家に来てください。少し休みましょう」

「……分かった」


 俺は甘えることにした。




 家に入ってダイニングのような部屋に通されると椅子に座るように促された。


「おじいちゃん! ちょっと待ってて!」


 遠くからおじいちゃんらしき者の返事が聞こえてきた。


「そういえばあのじいさんに何かあったのか?」

「あー……腰を痛めちゃって」

「腰か……」




 それ俺のせいだな……気を使わせてごめんよ……。


 一昨日のじいさん制圧を思い出す。


「今紅茶淹れますからね。ちゃんと毒は入っていませんよ」

「信用してる」


 ぶっちゃけ毒入ってても飲みます。


「そういえば、無事に帰って来られたんだな」

「無事? あ、一昨日の城を出た後ですか?」

「あぁ、そ、そうだ」

「村のみんなが直ぐ近くまで来てくれてて、私のことを助けに来ていたんですって」

「そうだったのか……愛されてるんだな」

「みんないい人なんです」

「そっか……」


 湯が沸騰する音が響き渡る。


「どうぞ」

「ありがとう」




「これを飲んだらじいさん連れてクリーブル砦に行こう」

「え? こちらにいれば良いのではないのですか?」

「敵軍がまたいつ来てもおかしくないからな。今のうちにここを離れておかないとまた命が狙われることになるぞ」

「それは流石に……でもおじいちゃんはどうやって連れて行きましょうか?」

「一昨日乗っていた馬があるからそれに乗せて行こう」

「本当ですか!」

「あ、あぁ」


 いきなり目をキラキラさせるんじゃないよ……。


「ありがとうございます!」

「な、ならすぐに飲んでしまおう」

「はい!」




 紅茶を飲み終わった俺とケイトはじいさんを連れてクリーブル砦へ向かうため、ヨハンを連れてくるとじいさんをおんぶしたケイトが家の前で楽しそうに会話しながら待っていた。


「着いたぞ」

「ありがとうございます。では、よろしこお願いします」

「おう、じゃ、ヨハン頼むぞ。あんまり揺れるなよ」


 ヨハンがヒヒーンと鳴くとじいさんがビクッとしていた。


「行くか」






 クリーブル砦に着くと村の住民が俺たちに気づいて周りに大勢集まってきた。


「村長! 無事だったのですね!」

「ケイトちゃん! 心配してたのよ!」




 この村はみんな仲良いんだな。


「ウィリー様も本当にありがとうございます!」


 どこかからそんなおっさんの声があがると他の村人からも俺への賞賛の声が聞こえてくる。


「良いんだよ別に! 俺は帰るぞ! 実はここまで勝手に来てるんだよ! 早く帰らないとマジで怒られるの!」


 ゼェ……一息で言い切ったぜ……疲れた……。


「そんなこと言わずに!」

「うるせぇ! じゃあな」


 村人の声を無視して俺は帰ることにした。


「本当にありがとうございました!」

「また村にいらしてくださいね!」

「今度はお礼させてください!」


 俺は振り向かないで手だけ振った。




「またいらしてくださいねーー!!!!」


 ケイトの声が一際大きく聞こえたので振り向くと走ってきたのだろうか、他の人よりもずっと前で膝に手を突いているのが見えた。






 行く。やっぱり行くよ。




 思ってたのと全然違う結果になったけど、一度言ったことはちゃんとやりきったし、またケイトと会う約束を取り付けちゃった!


 酸いも甘いも一緒に食べると意外と合うんだよね。




――Never Ending Story Never Ends――




 俺の一番のファンは俺みたいだ。明日の俺はどんなショーを見せてくれるのだろうか。

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