Ending Never Ending Story
来た道を戻ってきたケイトをお姫様抱っこしている俺は愛馬のヨハンに彼女を乗せる。
白馬と白い髪と肌が合うわ~……。
「これは……どういう……?」
「よ、予定が変更になった」
うん。100点の返答だな。さてさて、隊長さん達が来る前にとっとと行かないと。
ケイトのすぐ後ろに跨がると直ぐにヨハンを走らせた。
「きゃあ!」
『きゃあ!』だって! ヨハンもいい仕事するではないか! ここは俺もカッコよくキメないとヨハンに顔が立たんな。
「す、すまない。だが、少し飛ばすぞ。だから……捕まっていろ」
「は、はい……!」
キタぁぁ!!!! 俺の腕を掴んでおります! 父上にも感謝をしないとだな! ありがとー!!
「あの……」
はいはいどうしました?
「私は一体、どうなるのでしょうか……?」
……もう首がどうとかみんな忘れてるよね?
「とりあえず、その件は忘れてくれて構わない」
「では、戦争の方は……」
「そっちは……まぁ、なんとかしよう」
「本当ですか!」
ケイトの顔がパァっと輝く。
かわいい。っていうか初めて笑顔を見せてくれたよね! 俺は決めた。この笑顔を一生守ると。
「だから一度城まで戻る。それでいいか?」
「はい!」
最強。
部下を置き去りにして城へ帰ってくると使用人達はこの異様な状況に不思議そうにしていた。
俺はそれを気にせずに城内をケイトと共に歩くが流石に見かねたのかいつも俺に着いてくれるハンが声を掛けてきた。
「ウィリー殿下。失礼ながら、よろしいでしょうか?」
「構わない」
「そちらの女性はどういった方なのでしょうか……?」
まぁ、でしょうね。
「彼女はな……」
一時停止。
彼女はどんな存在だと? 正直に言えば『貰った人』か……。それで納得できる人っているか? 俺が思うのも何だが理解がこれを聞く人が俺なら理解ができないね。
ということでどうしましょうか。一番それっぽいのは人質、だけどもそれじゃ牢獄に連れて行かれちゃうだろうしなぁ……。俺としてはまぁ、つ、妻? と言いたいところだがこれは『貰った人』より理解されないだろうな。
じゃあ何がいいか……。拾った……預かった……? それじゃあさっきのと変わらない……。何か許される理由……そうだ! ここで雇うためってことにしよう!
「ここで雇おうと思っているんだ」
「雇う……と言われましても、具体的に何をさせるおつもりなのでしょうか?」
何を……だと? 彼女にできることなんて知らんぞ。何があるか……
「お茶汲み?」
「お茶汲み、ですか……。それは私たちでも出来ますが……この女性には特別な才能があるのでしょうか?」
飲んだことない。出されたけど流石に飲めないよ~。俺王子だぜ?
「……とにかく1回飲んでみれば良い。彼女は紅茶を作っていたんだ」
「なるほど……わかりました。それでは試してみましょう」
我ながら良い言い訳だったな。隣では世界一かわいい生き物が困り果てているようだけども。
「ティーカップにポット、そして茶葉はこちらをお使いください。お湯は……今届いたようですね。それではこれで、お願いします」
俺の執務室に来た3人はケイトの採用テストを行うことになった。
困り顔が張り付いたままのケイトだったが手際は思ったよりも良く、もう俺は採用で良いと思っている。
「出来ました……」
完成した紅茶は普通に良い香りがする。隣のハンを見ると少し匂いを嗅ぎ、すぐに口へと運んでいた。
というわけで俺も一口。
採用。
今まで飲んだ紅茶の中で一番好き。これ以上のものは無いね。
「……お茶の淹れ方は知っているようですが……はっきり言って普通……ですね」
イキってんじゃねぇよおっさん。
「申し訳、ありません……」
「俺は好きだったぞ、この味」
「本当、ですか……?」
ほんとぉほんとぉ~。もう全部飲んじゃったし。
「ですが、このくらいなら私達でも可能ですし……」
「やはり、そうですか……」
「いえ、殿下がどうしてもと言うのなら雇うのもやぶさかではありませんが……」
言ったな!? ハン言ったな!?
「何か理由がないとやはり多くの人は納得できないでしょう。今の彼女には正直雇う理由がないのです」
ぐぬぬ……。
「ですので少しこちらでも考えさせてください。何かあれば雇いますから……あれ?」
なになにそんな顔しちゃって……あれ?
「俺のカップが無くなってる……」
「ですね……」
「あの……片付けない方が良かったでしょうか……?」
またそれかーい。かわいいから良いけど。
「なるほど……彼女を雇うことにしましょう」
「え!? まじ!」
やべ……心の声が漏れた……。でもまじでいいの!? 何で!? 何でもいいやありがとーハン!
「私達に一切気づかれず食器を片付けることが出来るのは非常に稀有な才能です。『お茶汲み』の仕事はまだ任せることは出来ませんが、他の誰もが出来ないことが出来るのは間違いないです。それだけの理由があれば皆納得してくれるでしょう」
やったーーー!!!!
「ありがとうございます!」
「良かったな。ケイト」
「はい! でも……私の名前はどこで……」
「え?」
どこでっておじいちゃんが言ってたからだが……俺初めて『ケイト』って呼んだ!? 俺呼んじゃった!? きゃー恥ずかしい!
「お、おじいちゃんが言っていたからな」
「そうでしたね。そういえば、ウィリー様は『おじいちゃん』と言う御方なのですね」
「まぁ、まぁな」
「……礼節の方はこれからキチンと学ばせますので、しばらくはご容赦ください」
「構わん。ほどほどにしてやれよ」
「かしこまりました」
呼び方なんて俺だと分かれば番号でも良いんだから。
ちょっと待った! 俺を『ウィリー』って呼んだのか!? 前言撤回! やっぱり呼ばれるなら『ウィリー』が良いです! ハンそれでよろしく!
「それでは、私は彼女を連れて紹介がてら他のメイド達に挨拶をしてきます。もしどこかへ行かれるようであればそとの騎士が同行させるようにいたします」
「うむ。気をつけてな」
俺もついて行く、といきたいところだが俺は俺で父上にハルノ村の報告をしなくちゃならないからな。
軽い身支度を済ませると扉を開けた。
「ニック! ついてきてくれ!」
「え、は、はい!」
「失礼します」
やあ愛しの父上よ。
「ウィリーか。早かったな」
「はい。ですのでその報告に来ました」
「そうか……損な役を、させてしまったな」
何をおっしゃいますか。一番の当たりくじでございましたよ。
「それで、結果はどうだったか」
「はい。ハルノ村の前で敵軍を止めることになりました」
「は……? それは本当か?」
「はい。なので、頑張りましょう」
「いやいやいやいや! 何のために息子を出向かせたんだと思ってる!」
うん、いやね、申し訳がないことは重々承知なんだけれども、不思議と後悔の念が湧かないんですよ。
「しょ、食料の方は……?」
「食料もそのままハルノ村にあります」
「全て?」
「全て」
「そうか……」
「ですので、至急兵を集めましょう」
「それは無理だ」
「え……」
無理とか無いんですよ。いやまじで。
「もうあの村は捨てるしかない。食料はもう取られるしかないだろうからこちらも追加で食料をどこかから持ってこれるようにしてくれ」
「元はと言えば父上があの村のすぐ近くで行った爆発実験の破片がジャンセン王国領に落ちたのが悪いのではないのですか!」
凡ミスにも程があるだろ。
「あれは! この国の発展に繋がるものなんだ!」
「だからと言って民を危険に晒して良い訳がありません!」
「お前には魔法を必要としない兵器の価値が分からないからだ! これは世界を変える!」
「それで死ぬ人々に何も思わないんですか!」
「発展に犠牲はつきものだ! ウィリーもそうやって生きてきただろ!」
「……」
イライラする……。
「わかりました。なら俺は勝手にやらせてもらいます。それでは」
「おい! 待つんだ!」
父上の制止を無視して部屋を出ると、ニックがオドオドしていた。
「帰るぞ。扉を閉めておけ」
「え、は、はい……」
再び執務室へ帰ってきて中に入ると光で幻惑されたような感じがした。
「お、お帰りなさいませ、ウィリー殿下」
そこにはハンと、メイド服に身を包んだケイトが立っていた。
……涙が出そう。尊いとはこのような意味だったのか……。
「あ、あぁ、戻ったぞ」
油断したら鼻がブヒブヒ言いそう。
「ハン、メイド長の婆さんには受け入れてもらえたのか?」
「はい、ウィリー殿下のお墨付きということですんなり受け入れてもらえました」
ぐっじょぶだぜ。
「陛下にハルノ村の報告をしてきたのですか?」
「そんなところだ」
「ハルノ村ですか!」
「ハルノ村がどうかしましたか?」
「ケイトはハルノ村の出身なんだ」
「だから今日いきなり連れ帰ってきたのですね……殿下、ちょっとこちらへ」
ハンが俺を部屋の隅に連れて行く。
「どうした」
「彼女はハルノ村が消えることを知っているのですか?」
「なんだそれは?」
「いえですから、あの様子ですと村のことが大好きであるように見えるのですが」
「多分大好きだぞ。なんてったっておじいちゃん子だからな」
「おじいちゃん子はどうでも良いんですよ。とにかくあの様子はハルノ村を潰す予定だと知らないのだろうと思いまして」
「そういうことか。それに関してはその作戦の方が潰れたんだ」
「そうだったのですか!? なら陛下はどうやってこの戦いに勝つおつもりで……」
「この決断は父上じゃなくて俺がしたんだ」
「ん……?」
「だから、俺が決めたんだって」
「内容は分かってるんです。ただどうすれば陛下の意見と食い違うものを通すことが出来るのですか?」
「あぁ……独断?」
「……またまた」
「……独断」
あ~ぁ、頭抱えちゃってるよ。
「それで? ウィリーはこれからどうするのですか?」
「戦うしかないよね」
「誰が戦うのですか?」
「……戦う兵っている?」
「流石にいないでしょうね。陛下にも必要ない戦いの兵を止める権力はありますよ」
「じゃあ……俺?」
「却下」
「なんでよ! それしかないじゃん!」
「それが一番あり得ません!」
「俺しかいないんだから良いじゃん! 俺って結構強いよ?」
「知ってますけども! 1対600なんて聞いたことないですよ!? 死にます。犬死にして終わりです」
「そんなこと言ったらハルノ村消えちゃうよ!?」
「だから消えるんです!」
「あの……『ハルノ村が消える』って何ですか?」
……聞こえてた……?
「いや、これは違うんだ! これはな……」
「はい。ハルノ村は消えるのです」
「止めろ! ハン!」
「ハルノ村はこの戦争で……
俺は今、時を止めたのか。
分かってるよ? こんな時は能力を使っちゃいけないって。何年この能力と付き合ってると思ってんだ。ここで時を止めてしまえば、もう一度時を進めることが怖くなる。そうしてこの永遠を享受すればするほど、次の一瞬が大嫌いになる。
なぁ、ケイト。俺が時を進めれば君はとても悲しむかもしれない。
君に出会ってから何度もこの能力を使わされてるよ。
その度に俺は素晴らしい決断をしている。
俺はこの世の誰よりも強い男さ。
なぁ、ウィリー?
…………消滅することになっています」
「え……? でもウィリー殿下がなんとかするって……」
「それは殿下が言っただけです。他の誰も、村を救おうという人はいません」
「うそ……なんですか……?」
「嘘を言ったつもりは無いんだ……でも、俺についてきてくれる人はいないみたいだ……」
「嘘じゃないですか! 私の首一つでどうにかしてくれるのではなかったのですか!」
「……すまない」
「帰ります」
「おい! ちょっと待ってくれ!」
……行ってしまったか。
「あなたが、失礼なんですよ」
「……一言余計だ」
「申し訳ありません……ただ、無事に帰れるでしょうか……」
「これ以上話すな」
「わかりました……」
「食事を用意しておけ。今日は早く寝たいから寝室に持ってこい」
「かしこまりました」
「サンドウィッチをお持ちしました。紅茶は今淹れます」
液体がこぼれる音を聞きながらパンを一切れかじった。
空いた腹に全く反応がない……俺は何か食べたのか……? まぁ良い、とにかく腹を満たそう。
ハンに追加を持ってこさせ、それも速やかに平らげた。
「ハン……一つ質問いいか」
「なんでしょう」
「俺ってどんな奴だ?」
「……面倒くさい奴、ですね」
「やっぱりか……」
「いきなり少女を連れてきたかと思えば無理難題を押しつける。それを無理難題だと言えばこうして拗ねる。まぁ、無理矢理推し進める暴君よりかはマシですが、正直面倒です」
「一言も二言も余計だな」
「どうぞ私に暇を与えてください」
「……眠いから出てけ……明日は朝食に肉が食いたい」
「かしこまりました」
カチャッ
「……面倒くさい奴、か……次があるはずだよな」
幸せなんていつまでも続く訳がない。幸せは次から次へと食い潰さないといけないんだ……1回食べたら我慢しろって?
そしたら不幸になってしまうだろ、だから早く次の幸せを探しに行こう。
――Ending Never Ending Story――
カッコよくなりたい……。




