ep,1-1 記憶を無くした勇者
――長い、道のりだった。
ここに来るまで多くの事を経験してきた。
信頼できる仲間達に恵まれ、沢山の人達に支えられながら今日、勇者は宿命を果たす。
「―――魔王ッ!!」
月光が差し込む建物の中で、辺り一面の瓦礫は崩壊を始めていた。
そんな中で全身黒いマントを被った人物はジッとこちらを見ている。
「遂に・・遂にここまで来た。 貴様を倒す為だけに俺は――僕はッ!!」
ほとんど感覚の無い両手に最後の力を振り絞り、長年扱ってきた愛剣を握り絞める。
今にも倒れそうなほど震えている足腰を一歩前に出して、最後の力をこの一撃に込めた。
「これで、最後だぁァぁアあああああああッ!!」
血反吐を吐き、目から血を流しながら特攻とも言える攻撃を魔王に向けて放った。
魔王城の最上階にある魔王の座から、大地が揺れるほどの爆発と衝撃が響き、夜中の空に一本の光柱が昇ったという。
この戦いの結末を知る者は誰もいない。
最後の勝者を知る者は、勝利して生きた者だけとなった。
◆ ◇ ◆ ◇
「――と、いう事になっているようです。 報告は以上です。 魔王様」
紳士な服を着こなして、人間の国から送られてきた報告書を朗読していたのは魔王直属の執事を請け負っている魔種、ゴブリン族のジェントルだ。
「・・・そうか。 ご苦労だったな」
ジェントルの前には青空が見えてしまっている建物の中で唯一残った玉座に座っている魔王が、空を眺めながら労う言葉をかける。
「ハッ。 それで、如何いたしましょうか?」
「何がじゃ?」
頭を深く下げながらジェントルは言葉を続ける。
「現在、魔界国では先日の勇者との戦いで壮絶な被害報告を受けています。 勿論、早急に復旧に取り組んでいる事で想定よりも早くに作業は終了しそうです」
「そうか。 それは良かった」
「しかし!! 私にはどうしても国の復旧よりも早急に対処すべき問題があると判断する所存です!」
下げていた頭を上げ、未だに空を眺める魔王の前に駆け寄りジェントルは片足の膝を床に付き先ほどよりも深く頭を下げる。
「どうか、どうかもう1度お考えください! 我々、魔種族において最大の問題なのです! このままでは再び魔種族が危険にさらされる可能性がございます!」
必死に声を荒げながら、それでも紳士でいようと冷静さだけは失わずに頭を下げ続けるジェントルに、ようやく魔王は視線を下げた。
「どうか、どうかもう1度ご再考願います! 我らが魔種の中で最強と歌われる魔人族であり、魔界国を治める王!」
―――魔の女王、サン様!
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