国の端の教会
「すいませーん」
「ハイハイいらっしゃいませ~」
古着屋さんに入っていくと、奥からまんまるい顔のおじさんが出てきました。
どう見ても人が良さそうな顔…
客からぼったくられそうなくらい商人としては頼りない。
でもお店は思ったより綺麗だし、揃えている古着も結構良いものが多い。
貴族や金持ちの平民がお得意様にいそうな感じだ。
こんな顔してやり手なのかしら?
「今日はどんなご用ですか?」
「ドレスを売りたいのだけど…
そこのサラの宿屋の、おかみさんに紹介してもらったの」
「そうですか、こんな美人さんを紹介してもらっちゃってサラさんにお礼を言わないといけませんね~」
うーん口が上手い。 そこは商人ぽいですね
私はドレスを机の上に出した。
「ほうほう、これはこれはずいぶん立派なドレスですね…売ってしまっていいんですか?」
「ええ、もうこういうドレスは着ないと思うので…」
「何か訳アリですね~ いえいえ不躾に理由を聞いたりいたしませんから、はい」
興味は分かりますけど、さすがに言えないんですよね。
「幾ら位になります?」
どれも50ベルはかがったドレスなんですけどね~
ちなみにさっきの宿は食事付で1日1ベルです。
「うーんサラさんの紹介だしね、それに、このドレスどれも1回位しか袖を通してないでしょう~?」
ずいぶん悩んでくれていますね。
おっしゃる通り2着は一度しか着てません。もう1着は気に入って2回ほど着ましたね。
「そうだね1着30ベル…と言いたいところだけど、35ベルでどうだい?」
「それで、けっこうです。 お売りします。」
おじさん結構頑張ってくれました。
私はお店のワンピースを2着買いました。
2着で5ベルでした。
私は差額の100ベルもらって宿へ帰りました。
「お帰り、おじさん高く買ってくれたかい?」
戻るとおかみさんが待っていてくれました。
心配してくれていたみたいです。
「はい、サラさんのお陰でサービスしてもらいましたよ。
ついでにワンピースを買ってきました。」
「それならよかった」
私はお礼を行って部屋に戻りました。
かさ張っていたドレスが減って、鞄の中にも余裕が出来ました。
さて、これからのどうしましょう。
もう少しこの快適な宿でゆっくりするのもいいのですが、ここにいると、家の者に、見つかってしまいそうです。
今のところ、王家も公爵家もどう出てくるかわかりません。
連れ戻されるのも、捕まるのも、どこかへ閉じ込められるのも、いやですからよく考えて行動しないとね。
私は暫く考えて、やっぱり王都を離れる事にします。
もう一度おかみさんの所へ行って
明日早く出ていきたいから、精算を先にお願いしました。
それと明日の馬車の手配もお願いしておきます。
「任せて、馬車はすぐに信用出来るやつを頼むから」
これで安心です。
朝、まだ夜が明ける前に起きました。
着替えて、玄関に向かうとサラさんが出てきました。
「サラさんわざわざ起きてもらわなくてもいいんですよ」
「気にしないで、いつももう起きてるのよ。それとこれはお弁当ね」
「え?そんなことまでしてもらっては申し訳ないです」
「いいんだよ、馬車で食べな
お嬢さん何か訳があるんだろうけど、また来ておくれ」
「サラさん… ありがとう、また来ますね」
私は待っていた馬車に乗り、隣国との境にある教会を目指すことにしました。
◇◇◇◇◇◇
2日後、やっと教会に着きました。
その間に仲良くなった御者のケイティと別れを惜しんでいます。
そうです、長旅になるのでサラさんが気を利かせて、女性の御者をお願いしてくれました。
何から何までお世話になりました。
ケイティとは同じ宿に泊まり、一緒に食事をして、とても仲良くなりました。
「お嬢さん、ずいぶんお世話になっちゃって、しかも馬車代もずいぶん多くもらってる気がするんだけど」
「いいのよ、とっても楽しかったし、ケイティにお願いしてよかったわ」
「また何かあれば、呼んでよ 直ぐに迎えに来るからさ」
「ええ、また会いましょうね」
そう言って別れました。
はあー サラさんといい、ケイティといい好い人と仲良くなれたのに、別れるのは辛いわね
さて、それでは次の出会いも期待しよう。
正面の大きな門の所へ近づき、門の横にある門番さんのいる小さな建物をたずねてシスター・ガブリエルに面会を頼みます
少しすると、中に取り次いでくれた護衛の騎士さんが戻って来て
「ご案内します」と言ってくれました。
私は荷物を持ち、後をついていきます。
この2日間で残りのドレスも売ったので、鞄は大きさの割には軽いです。
長い廊下をすすみ、1つのドアの前で止まると護衛の人がノックして、
「お連れしました」と挨拶してドアをあけました。
「どうぞ」
手で入室をうながされ、私は中に入りました。
「フローラさん久しぶりね」
中には懐かしいシスター・ガブリエルの姿がありました。
とても小さな初老の女性はその体とは反対にとても大きなオーラを纏っているような、神々しさがあります
「シスターお久しぶりでございます。急な訪問を、お許しください」
「何を言っているの、ここは誰の助けにもなる所ですよ
貴女がこんな所までわざわざ来たのには、よほどの事があったのではないの?」
「理解してくれる方がいるのって、とても安心するのですね」
そんな言葉が漏れてしまいました。
ここ数日、やっぱり相当気がはっていたようです。
大丈夫、平気だと自分に言い聞かせ
誰にも相談せず、自分1人で人生を抱え込んだような息苦しさと押し潰されそうな不安をひた隠しにして、ここまで来ました。
初めて涙が込み上げてきました。
「我慢しないで」
シスターは優しくそっと私の手を握ってくれました。
私は婚約破棄されて、悔しかったり悲しかったりしている訳でも、家を出たことを後悔している訳でもありません。
だけど、もう1人で頑張らなくていいんだ…って思ったら、不思議と涙が出たのです。