婚約破棄ですか
「フローラ・ガウディ、お前との婚約は破棄してもらう!」
はて?
私は目の前にいる婚約者の顔をまじまじと見てしまった。
「カイロン殿下何の冗談ですか?」
「冗談?
はっ!ふざけるな!
お前みたいな性悪女と婚約していたと思うと後悔の念に苛まれるわ!」
「性悪女ですか…ずいぶんな言われようですね」
チラっと睨みつけると、ビビって目を逸らされた。
ふん!相変わらず気の弱いこと。
なのに、なぜいきなりこんな事を?
「こんな衆人観衆の前でそんな事を言われる理由を教えていただいても?」
「ふ、ふん!いいだろうエイミーおいで」
すると、おずおずと出てきたのは、ベル何とかと言う男爵令嬢だった。
「フローラ、お前はこのエイミー・ベルガーゼに陰湿な嫌がらせをしていただろう」
「は?なぜ私がそんな事を?」
「とぼけるな!全てエイミーから聞いたぞ」
「エイミーと言うそこの令嬢を私は知りません。
そしてその令嬢が一方的に言っている事を鵜呑みにして私を性悪女呼ばわりですか?」
「う、うるさい!お前はエイミーが嘘を言っているというのか?」
「では、私の言うことは全て嘘ですか?
どちらも証拠も裏付けもないのにそちらの方は全面的に信用されて、長年婚約者だった私はひとつも信用されないと?」
「そ、それは…」
すぐ言い淀むんだから…
私と言い合って勝ったこと等ないくせに…
馬鹿な人。
周りもやっとこの馬鹿げた婚約破棄の真相が分かってきたみたい。
最初侮蔑の目線を向けられていた私だったが、今や同情と哀れみや応援の視線に変わって来ていた。
「エイミー様、わたくし挨拶すらしたことないと記憶しているのですが…」
「う、怖い~」とカイロンに抱きついている。
なんでしょう?小動物とか何かなのかしら?
「あなた、このような公の場で殿方に抱きつくなんて、貴族令嬢のする事ではないわよ?」
「えーん、いじめられましたーライアン様 あの人ひどいですー」
あらら、みんな呆気にとられてますよ。
「なんだ、あれは?」
「殿下も正気か?」「フローラ様が可哀そう」
「あれでも貴族なの?」
ほらほら、やっぱり常識のある方たちはちゃんと見てくれてます。
「はぁー 話が通じないみたいですね。
ライアン殿下いいでしょうか?」
「な、なんだ!」
抱きつかれた状態で、何も咎めない時点でこの人も大概愛想がつきてますけどね。
「先程の話に戻りますが、要は私と婚約破棄するって事でいいですか?
一応言っておきますけど、私はエイミー様を知りませんし、苛めてもおりません!」
「し、しかし…」
「最後まで聞いてもらいますか!」
「は、はい!」
「この方の事は全く存じませんが、私と婚約を破棄したいなら、それでもかまいませんよ?」
「へ?」
「全く未練はありませんし…
大方その令嬢から私が嫉妬に狂っていじめるとでも言われたんでしょうけど、殿下の事を何とも思っていない私が嫉妬する訳ないじゃないですか」
「…ひどいじゃないかその言い方」
「ひどいも何も破棄したいんですよね?
婚約破棄したいような女に好きだと言われた所で嬉しくもないのでは?」
周りからもヒンシュクの目を向けられ、私からも三行半を突きつけられ
瀕死の状態ですね
そして隣の方はまだくっついてますけど…
「と、言う事で婚約破棄お受けします」
そう言って私はお辞儀をして、この場から去ることにいたしました。
◆
「お待ちくださいガウディ公爵令嬢」
足早に廊下に出ると、後ろから大臣が追ってきた。
向き直り大臣と対面すると
「只今陛下も会場の方に向かっていますので、どうかお戻りを」
「いいえ、私はもう殿下に愛想をつかされた身ですので、国王陛下にはもう顔向け出来ませんわ
どうぞ大臣からお詫びをお伝え下さいませ」
私はそう言って踵をかえした。
一方会場では、騒然とした中で、
まだエミリーを抱えたままライアンは呆然といていた。
「なんだ、この有り様は…
ライアン、お前は公衆の面前で何をしておる」
「ち、父上これは、あの…」
一生懸命言い訳しようとしても、女をくっつけては説得力は皆無である。
「そのふざけた女は誰だ」
「ひゃっ!」
やっと、状況に気づいたエミリーはビックリしたように座り込んだ。
国王陛下が眉を潜める
陛下は今まで貴族の令嬢でこんな真似をする者を見たことがなく、王宮にこんな人物がいる事が信じられなかった。
そこへ大臣が戻ってきて、フローラの件を報告した。
陛下はみるみる顔を赤くしていく、そしてライアン殿下を睨み付け
「お前はなんて事を…」
「誰かこいつをこの場から追い出せ!そこの座り込んでるのも一緒にだ!」
陛下が周りの護衛騎士に命を出します。
「なっ!父上なんで…はなせ!僕にさわるな!」
ライアン殿下は両脇を抱えられて会場を出ていきました。
後ろからエミリー様も連れられて行きます。
「みなの者、今宵は悪かった。改めて夜会は開催する」
陛下からの宣言のもと夜会はお開きとなった。
◇◇◇◇◇◇
私は邸に戻り、自分の部屋で荷物をまとめた。
ある程度の宝石と高く売れそうなドレスを多く鞄に入れた。
そしてそっと屋敷を出る。
両親とは良好な関係だけど、2人とも良くも悪くも貴族なのだ。
婚約破棄などして、王家からのイメージが悪くなったらお咎めなしとはいかないだろう。
今日起こった婚約破棄の事、
私を公爵家の籍から抜き、追い出した事にしてほしい事
を簡単にまとめて手紙にして部屋に置いておいた。
そして、辻馬車を拾い町中の宿屋まで送ってもらった。
宿は中の上くらいのランクで平民の金持ちが利用する感じだ。
目立たないように宝石類は全部取って、ドレスもコートで隠している
鍵のかかる部屋を取り、ひとまず部屋の中を確認した後、楽なワンピースに着替えた。
宝石は全て小さな専用バックに入れ、それを持って食堂へ向かった。
ドレスや着替えは部屋に置いておけても、さすがに貴重品は自分の身から離せない。
こぢんまりと、してはいるが清潔でおしゃれな雰囲気の食堂だった。
今日のおすすめコースを頼んでから一息ついた。
お腹が減ったわ、パーティーに出て30分も経たずに帰ってきちゃったしね
な~んにも食べてない。
すぐに、サラダとスープをもってきてくれたので、早速食べ始める
うーん美味しい パンも焼きたてだわ
この宿当たりね。
メインのお肉もデザートのケーキもみんな美味しかった。
「お口にあいましたか?」
給仕をしてくれたおかみさんが話しかけてきた。
「とっても美味しかったです
ここはずいぶんと良心的というか…
もっと高い値段でもいいんじゃありません?」
「え?そうですか?
でも、安くて美味しい食堂
清潔で綺麗な宿をめざしてるんですよ」
「素晴らしいですね!すてき!」
私は感心しました。
「そんな大したことじゃありませんよ」
とおかみさんは照れてます。
その後もいろんなお話を聞いて、これからの事を考えています。
おかみさんから、二軒先にまだやっている古着屋さんを紹介してもらいました。
早速、なん着かドレスを売りに行きます。
「私の名前を出してくださいな、少しは高く買ってくれると思いますよ」
早速三着のドレスを持って古着屋に向かいました。