おい! これでそいつを殺せ!
「コカトリスって人に懐くんだ。ヒナのうちから育てたら一緒に戦ってくれるようにもなる。本当は頭の良いモ……」
「だからどうするんだって言ってんだよ!」シドが怒鳴り声を張り上げた。洞窟内に大声が響く。
「だから……育てるんだよ。ヒナのうちから」
「育てる? はぁ?」シドは複雑そうな顔で俺を睨んだ。
「さっきも言ったけどコカトリスは頭が良くてよく人に懐くんだよ。大学でもヒナのうちから育てて使役してる人がいて……」
「そのモンスターが人を襲い始めたらどうすんだよ!」
サムソンが大声を張り上げた。シドはちらりとサムソンを見てそれから俺をどうなんだ? といった顔で睨みつけた。
「ヒナから人に育てられたコカトリスを何匹か見たことあるけど、どれもよく懐いて逆に人の仲間になって……」
エリーことエリザベスがこちらに近づきヒステリックに叫ぶ。
「やだ! これキモいって! こんなのと一緒に旅するの嫌! なんとかしてよシド! こいつ頭おかしいって!」と言って俺を見た。
シドはふぅとため息をつくと腰に挿してあるダガーを抜きヒナのそばの地面に突き立てる。
「おい。これでそいつを殺せ」
俺はその言葉が信じられなかった。一瞬頭の中が真っ白になる。
俺は地面に突き立てられたダガーをしばらく呆然とみる。そして作り笑いを浮かべてシドに聞く。
「え?……殺すってどういうこと?」
「そのモンスターが大きくなって人を襲い始めたらどうするんだよ! 殺せ。男見せろ!」
「でも大丈夫だよ……人を襲うようにはならない」
なにを言ってるんだ。こいつは。信じられない。頭おかしいのか? 俺はシドに分かってもらおうと必死で笑顔を作り説得した。
「はぁ? お前に責任とれんのか?! そいつが人を殺すようになったらよぉ?!」
「だからその時にはちゃんと俺が……」
「はぁ? お前がなんとかするって? ギルドのお荷物のお前が?」メンバーの中に笑いが広がる。
「じゃあお前がやらないなら俺がやってやろうか? このダガーなら一瞬で終わりだ」
そんなこと絶対に駄目だ。勘弁してくれ! 俺はその場の緊張を解きほぐすように笑って言った。
「まだ産まれてまもないのに、殺すなんて……駄目だよ……そんなこと」
「じゃあもういいわ。お前どけ」
そう言うとシドは俺を突き飛ばしてコカトリスのヒナをひったくった。潰れるくらいに握られて激しくピーピー!! と泣くヒナ。
「うるさいからやるなら外でやってよ!」
エリザベスが叫んだ。ヘラヘラと笑うメンバーたち。その中でユイだけが真顔で焚き火を見つめていた。
「ピーピーピー!!」
羽を激しく羽ばたかせて抵抗するヒナ。
シドはヒナを片手で持ち、地面にあるダガーを引き抜きそのまま洞窟の出口まで歩き出した。
「ピピーピー!! ピー!」激しく鳴くヒナ。その音がだんだんと小さくなり、やがて消えた。
死んだ。あんなに可愛いヒナが。あんなに小さかったのに。産まれたばかりだったのに。
「あー手に血が付いちまったじゃねぇか。きったねぇなぁ」そう言ってシドは戻ってきた。
「誰かが余計な仕事ばかり増やしてくれたおかげでよぉ」
そうシドが言うとメンバーがギャハハ! と下品な声で笑った。それにつられたように俺も卑屈に笑う。
しばらくした後カシムが口を開いた。
「しかし、魔法大学出って役に立たねぇよなぁ。実戦のことがなにも分かってねぇんだから!」笑うギルドメンバー達。
「ホント大学でなに学んでんだよって感じだよな」サムソンがそれに同調した。
「ついさっきもコカトリスのヒナを育てようって。モンスターだよ? もうヤバいでしょあいつ」エリザベスが言う。
「結局実戦では生きるか死ぬか。実力だけしか評価されないのになぁ。理屈ばっかり言うからなアイツらは。あ、シドは違うよ?」
とカシムがシドに気遣った。シドも大学出だった確か名門イーストシティマギ大学だった気がする。シドは分かってると言わんばかりにカシムを見てニヤリと笑う。
そうだ。これは俺に対する嫌味だった。こうやって直接的に名指しせずにネチネチ言う。本当に暇な連中だと思った。
いや逆に嫌がらせの方法にも色々あるのだなと逆に感心する。
「英雄の力持ってるって聞いたけど全然駄目じゃん! 期待ハズレもいいとこ。実戦やらせても駄目駄目だし、ねぇ、シドなんであんな奴入れたの?」
「だってしゃあねぇじゃねえか。入団希望者に他にパッとした奴居なかったんだから。それに大学首席で卒業したっていうからよぉ。あいつが」
「英雄てのも全部嘘なんじゃねぇの?」みんな口々に悪口を言う。俺はいたたまれなくなって、
悪口が聞こえないように洞窟の入り口の方に逃げた。
背中からギャハハハハ! と下品な声が聞こえる。
俺は入り口の近くで休むことにした。
地面に水たまりがあった。俺はそれを覗き込んで自分の顔を確認する。
色黒の肌がやけに青ざめているようだった。そしてくせっ毛の黒い髪が肩ぐらいまで伸びていた。
なんだか自分の顔とは思えないような疲れた顔。顔はむくんでいるのに、なんだかゲッソリと痩せたような。なんだかアンバランスな、老人のような顔をしていた。
俺は水面に写った顔を見て独り言をつぶやく。
「駄目だこのままじゃ……クビになる」入口と少し離れたところにさっきのコカトリスの死骸が無造作に落ちていた。
絶望する。あの子はさっきまで生きていたのに。
「役に立たなくっちゃ……このままじゃ本当にお荷物だ」そして心の中で役に立たなくっちゃ! と何度も何度も強く思った。
せっかく大学を卒業して一流の王宮直属ギルドに入ったんだから。役に立たなきゃ。このままじゃ本当にお荷物だ。役に立たなきゃ。役に立たなきゃ……俺はみんなのところに戻った。
「みんなゴメン」みんなのそばに行くと俺はそう言う。
「荷物持ちでもなんでもするよ。確かにみんなの役に立ってないけど、出来ることはなんでも頑張るから」
俺はそう言ってみんなの反応を見る。みんなは互いの顔を見回して笑い合っていた。またこれだ。俺を追い詰めて笑って……追い詰めて笑って……頭がおかしくなる。
「おい、お前さ。髪切ってやるよ」カシムが可笑しそうに笑いながら俺に話しかけてきた。
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