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なんで嘘つくんだよ

「はい、なんでしょうか」


「例えば街の中で怪我した場合、個人的な喧嘩で怪我した場合とかって保険って効きませんよね?」


「? いや、街中での私的な決闘での怪我も補償の範囲内ですが」


「え? 本当ですか?」


「はい」リリーと名札をつけた受付の女の人は不思議そうな顔で言った。


「あの……ただ相手はまともなクランじゃなくて、黒龍団っていう危ない集団で……本当に命の危険があったんですが、いやそんなことはどうでも良くて、相手がまともな集団じゃなくても無料になるんですか?」


「はい。黒龍団のことは分かりませんが、相手が誰でも怪我した場合無料で治療の対象になります」


「あ……そうですか」嘘をつかれていた。


「はい……どうされました?」


「あの……クランのリーダーから街中での喧嘩は補償範囲外だって聞いたので……」


「あっ……そうかぁ……まぁそういう人もいますね」


「えっ? どういうことですか?」


「たまにそういう嘘をつく人がいるんですよ。良くないリーダーの人って。怪我人出したらクランの評価が下がると思ってる人がいるみたいで」


「え? 評価が下がる?」


「別に評価が下がるシステムとかがある訳じゃないんですけど……みなさんなぜかそこにこだわるみたいで……クランメンバーに怪我があっても隠そうとするんですよね。ひょっとして教会でのヒールをご希望ですか?」


「あ、はい」


「ではこちらの申請書にサインお願いします」と言って受付は書類を渡してきた。


俺はそれに記入する。



「今日雨降るらしいよ」


「降ったら降ったでまた休めばいいだけだろ」


カシムとサムソンが雑談していた。


「おい、来たか早く行くぞ」シドが俺に怒鳴った。俺たちは出発する。俺は疑心暗鬼でいっぱいだった。正直ムカムカしていた。なんでこんな嘘をつくのか。俺は受付の女性からギルドから認可を受けた教会の回復申請書をもらっていた。それを自分のかばんに入れている。シドに騙されていた。どうしてこんなことを。一体誰のために戦ったと思ってるのか。


「おい、受付でなに話してたんだ」シドが聞いた。


「なにって教会でのヒールの件でだけど」俺は怒気をはらみながら言った。


シドが一瞬動きを止める。メンバーが空気を察したかのように雑談をやめた。


「お前それとっくに済んだ話だよな」シドがこっちを見ずに歩きながら聞く。


「シドの説明と全く違ってたんだけど」俺が言った。


「違うってどう違うんだよ」低い声でこっちを見ずに歩きながらシドは言った。


「ちゃんと申し込めば無料でヒールしてもらえるんだって」


「それ言ったの誰だよ」とシドが聞いた。


「えっ? だから受付の人だよ」


「だから受付の誰がそんなこと言ったんだよ!」と言ってシドは俺を睨んできた。俺は答えることが出来なかった。確か受付の女性の名前はリリーだった。名前は知っていたが答えることは出来なかった。俺にはシドがあの女性になにをするのか分からないからだ。


「なんで言えねーんだよ」シドが言う。クランのメンバーがニヤニヤしている。


「それは……」


「お前嘘だろそれ」


「嘘じゃない。受付の名前聞いてなにがしたいんだよ……」俺は聞いた。


「そんな適当なこと言うやつはどこのどいつか教えてもらわねぇとな」


「もう大丈夫……もういいよ」俺はなにも言えなかった。話すたびに絶望する。こいつに何言っても仕方ないんだ。俺はシドと話すたび強くそう思い知らされる。


俺たちはクエストの目的地に向かった。ファビアン・ゴーティエの屋敷は迷いの森を抜け恐らく一時間くらいかかるだろう。


しばらく俺たちが歩いていると、とてつもなく巨大なスライムがいた。普通のスライムはもっと小さい。人の頭くらいの大きさだ。


しかしこのスライムは違った。まるで馬車ほどの大きさだった。それがゆっくりと他のモンスターを捕食している。色はむらさき色で毒々しい色をしていた。


「ありゃヤバいぞ。人食いスライムだな……」遠巻きにスライムを見ながらカシムが言う。


普通スライムというモンスターは薄い外皮がある軟体モンスターだ。体の中に他の生物を取り込んで捕食する。だが、あれは違った。あんなに大きなスライムは初めて見た。


「シド! あれ倒そうよ。スライムゼリーって美容にいいし、あれだけのスライムゼリーを売ればすっごいお金になるよ」エリザベスが言った。


「流石にあれは大きすぎるよ。怖い……」ユイが言う。


「みんなどう思う?」シドが聞いた。


「スルーして良くね?」カシムが言った。「クエストとして依頼されてるか分かんねーし、倒したとしてもあれだけのゼリー持ち帰るの骨が折れるだろ」


「俺もやめといた方がいいと思うけどなぁ。あれ6人じゃなくてもっと大人数でやらないと駄目な奴だぜ」サムソンが言った。


「えええーーー?!! なんで? なんで? もう出会えないかもしれないんだよ? ちょーもったいないじゃん! 


ここにいる5人で倒したら山分けに出来るんだよ?!」とエリザベスが言った。俺は人数に入ってないのか。俺はエリザベスの後ろ姿を軽く睨んだ。


「しかしなぁ……」シドは悩んだ。



「俺もやめといた方がいいと思うよ。誰か人の被害が出てるならともかく、聞いたことないし。案外おとなしいモンスターなのかも。向こうの強さも不明だし。それに聞いたんだけどアシッドスライムって体液が強力な……」


「ねぇーいいでしょ?! シド! シドってキレイな女の子の方が好きじゃん。 シドだったら余裕じゃん?」俺の言葉を遮るようにエリザベスは言った。エリザベスは自分の胸をシドの腕に押し付けている。シドがイヤらしい顔で照れたように笑った。


「あーまぁ余裕っちゃ余裕だけど……しゃーねーなぁ俺が全部責任とるからお前らやるぞ!」シドは言った。俺は驚いた。相手のモンスターの性質も分かってないのに? 金儲けのためだけに? 責任取るってなんの責任をとるんだ。


「おいいつものフォーメーションでいくぞ。サムソンとクロードが前列俺が中列、ユイ、エリザベス、カシムが後列だ」


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