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7.サンタの弟子

「司はともかく、秋葉までか」


 いつになく低くつぶやいた声が若干怒りをはらんでいる気配だが、顔が上げられない。忍がノーチェックなのはなぜなのかをオレは聞きたい。


「サンタさん?」


 エシェルはサンタ服を着ていない。しかし、今日はアイボリーのダッフルコートを着込んでいるため、トナカイのソリに乗ってプレゼントを手にしていれば、まぁ見えないことはない。

 忍が空気を読んで自分のサンタ(白)を放り投げた。エシェル、ついキャッチ。


「……」


 諦めたように、片手で頭に乗せた。幼気なこどもを前にブチ切れるわけにはいかないだろう。

 あとで怒られそうだが空気を読んで、任せるしかない。


「サンタさん来てくれたの!?」

「こんばんは。いい子にしてたかな」

「りな、いい子にしてたよ! 来てくれて嬉しい!」


 テンションものすごい上がってるけど、素直でかわいい感じの女の子の声だ。就学前の4歳くらいといったところか。ともかく近寄ってこられると困るので、より近い司さんの側のそりの縁を乗り越えてエシェルはベランダに上がる。


「はい、プレゼント」

「ありがとう! でも、サンタさん、おひげのおじいさんじゃないのね」

「……」


 ピンチ来た。幼気な女の子の夢を壊さないためにエシェル、頑張れ。相手に悪気がないだけに難題でもあることは重々承知だ。


「僕はね、サンタクロースの弟子なんだよ」


 切り返しが天才だ。


「でしってなに?」


 切り返しの切り返しは、天然だ。


「うーん、生徒とか……家族、みたいなものかな」


 うまいな。生徒ならさすがにわかるだろう。わからなくても家族はわかるだろう。

サンタとその弟子が家族とか、ハートフルすぎてほっこりする。

 演出までかけるとはさすが天才だ。


「今日は手伝いでまわってるんだ」

「そうなんだ! サンタさん、一人じゃ大変だもんね。お兄ちゃんもがんばって」

「ありがとう。それから、僕と会ったことは秘密だよ。他の皆には会ってないからね」

「わかった。りな、約束するね」


 すごいな、エシェル。子どもの扱いにもそつがない。人間関係不器用そうに見えたけど、意外と子供はいけるのか。どうでもいいところで感心する。

 扱いが流暢すぎて笑う暇はない。


 女の子が、部屋の中に入る気配はなく、エシェルがソリに戻ってきたのでオレは身を隠したまま手綱をエシェルに放って渡した。


 そちらを見ると、家の方に向かって手を振りながら手綱を打って、ソリが動き出す。


「三人とも……一体、この状況について」

「ごめん、エシェル。つい」

「姿を見られたら駄目だっていう前提の元」

「俺は普通にまずくないか? 明らかに仕事中なのがバレバレだ」


 三者三様の言い分。忍、姿を見られたら駄目とは言われてない。顔出しNGってオレは言ったけども。……見られたくないんだろう。サンタ服は強制だから、責められはしない。


「でもエシェルは子ども受けいいんだね」

「うん。オレたちの中で一番、何の問題もない感じがする」

「むしろ外見的にも金髪碧眼で、きっとサンタとして異国感は完璧なんだ」

「忍」

「対応も完璧だった。さすがエシェル」

「忍」

「静かに笑うと優しそうなところとか(滅多にない)、物腰も柔らかいし安心感がある」

「……」

「そうだな、俺の目から見ても安定感は断トツだな」

「子供の夢を一番壊さない、天才って頭がいいだけじゃないんだね」


 司さんも加わって、意図的なのかそうでないのか、褒め殺しが始まっている。そこまで言われるとエシェルも悪い気がしないのか、途中までは止めようとしていたが、ついに口を閉ざした。


 静かに笑うと優しそうなところとか(滅多にない)


 オレには(かっこ)の中身が聞こえた気がしたけど。

 黙っておこう。怒られる流れだったから、これでエシェルの機嫌がよくなってくれたら全く問題ないではないか。


「そうそう姿を見られることもないとは思うけど、よく考えたら明らかに日本人がサンタの格好してるだけって、子どもの夢を壊すと思うんだよ」


 忍にありがちなこと。最初はそういうつもりがなかったのに、ものすごい真実にぶち当たって割と本気の疑問が飛び出してくるところ。

 オレたちはその盲点に納得するしかない。


「エシェル、お願いできるか?」

「むしろできるのがエシェルしかいない」


 オレも何か言った方がいいんだろうか。

 エシェルの方を見ると……目が合った。


「うん、オレもエシェルが一番うまくやってくれる気がする」

「……仕方ないな。君たちのいうことには一理ある」


 割とあっさり折れた。


「じゃあ上だけでもサンタ服を」


 先ほどのようなことがあると困るので、忍がオーバーを脱いで渡した。

 手袋があるから問題ないが、羽織ると意外と袖が短そうなので服装のサイズはさすがにSではないらしい。


「……」


 なお、この微妙な沈黙は司さんからなので、たぶん同じことに気が付いた。が、今そんな話をするとそれこそ怒られそうなので、二人して黙す。


「白のサンタ服、似合ってるよね」

「似合うと言われても」


 心なし照れているので、まんざらでもなさそうだ。物はいいのでコスプレ感はなく、むしろサンタというより王子様みたいになっている。見た目が十代っぽいからだろうか。

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