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復活!NIPPON クリスマス!(後編)

「ホント―にカオスだな」


天使がやって来たその冬、お通夜のように暗く静まり返っていたことが嘘みたいににぎわっている。

その切り替わりっぷりが、思い切りおかしそうにダンタリオンは笑う。


「ボクもまさかクリスマスの街をふつうにお祝いモードで歩くことになるとは思わなかったよ」


あちこちで交わされる挨拶はメリークリスマスではない。それは神の子の誕生を祝う言葉であって、今回の挨拶は


「ハッピーバースデーミトラ様」

「違うよね、これ。それっぽい合言葉思いつかなかったとか明らかに間に合わなくてそのまんまロゴ作っちゃったやつだよね」

「いいんじゃないのか? ものすごく日本人らしい」


いや、ないよ。カミサマにハッピーバースデーはさすがにこの三年間でもないと思うよ。


「いいな。オレもハピバ-ダンタリオン様イベントやってもらうか」

「それ、違うファンイベントになりそうだから。やりたかったら武道館とか借りてやれな?」


もはやこの魔界の大使はイベント化するには身近になりすぎていて、素直に何かの大イベントの代替になれる感じではない。


「ツリー、大きい!」

「敢えてクリスマスの夜に出かけることがなかったから、俺も改めてみるのは久しぶりだな」


商業用ビルが集まる噴水広場には、いつにもまして巨大なクリスマスツリーがある。

ていうか、メリークリスマスがダメなら「クリスマス」というイベント名もアレなんじゃないかと思うが、そこは浸透しすぎて日本人にとっては無意味と変わらないのでスルーする。


「ライトの色が、朱色なんだね。近年はLEDでもっと派手っぽかったけど」

「アスタロトさん、近年の人間界のクリスマスの様子を何で知ってるんですか」

「これはこれで柔らかい感じがして、昭和レトロブームも来ているし、いい感じでは」


オレの口にした疑問は誰にとってもいつものことなので誰も答えはしなかった。言ってみただけなので別に気にしない。

アスタロトさんが人間界に妙に精通しているのは今に限ったことではないし、ダンタリオンなんて本当にもっとどうでもいいことを披露しまくってくれるので些細なことだ。


「そういえばサンタは聖人関係でアウトになりましたが、ツリーはいいんですか? 知識の悪魔様」

「さすがに今日出かけると思ってなかったから、予習してこなかったな? 忍」


その通り。今日はいつもの仕事で寄っただけで夕方には引きあげ予定だった。日本では冬至は一昨日だったがもう暗い。


「このツリー、よく見てみろ」


言われてみてみる。本物ではない。が、もみの木ではなく「樫の木」と書いてある。


「冬至の祭りは世界各地で行われていた。ミトラス教もそうだが、日本も昔から冬至は別にあるだろ?」


かぼちゃとかゆずとか食べるやつな。そんなに浸透しているようでもないが、廃れることもない不思議な伝統である。


「ツリーの方は北欧ゲルマン民族由来だ」

「どうしたらゲルマンからあっちの宗教になるんだよ」

「ゲルマン民族が樫の木を『永遠の木』として崇めていたから片っ端から宣教師が切り倒して、もみの木に変えたってのが定説だな」

「…………………すまん。宗教なのに、すごいドロドロした部分しか見えてない」


もうルーツを追求しない方がいいのではないかというくらい改変と捏造、それからパクリの歴史を持つイベントだったのかかつてのクリスマス。

でも日本人だから、気にしない。気にしないのでもう聞かない。

悲壮なことがなかったとしてももはやあれは日本独自の文化と化していたのだから。


「でもプレゼントの習慣は変わってないんだよなー。サンタいなくなったのに」

「感謝は七面鳥(ターキーの方から引っ張って来てるみたいだから、プレゼントはありなんじゃないかな」

「……説明を聞く前に何ですが、日本人は本当にこじつけでも楽しめればいいやというすごい民族であることはわかりました」


忍の言葉に深く頷いて同意を示している司さん。しかし肝心の七面鳥と感謝のつながりが分からず、ダンタリオンを見る。

見ただけで説明を求められていると読み、すでにその時点で謎のどや顔。

誰かこいつをなんとかしてくれ。


「開拓時代に飢餓で苦しんだ他大陸の人間が、原住民であるインディアンから施しを受けたのが七面鳥。それが感謝の日にちなみ食される」

「もはや宗教全然関係ないよ! その後開拓者たちインディアン追いやったんだよね!!?」


ほんとうの ほんとうに クリスマスという日が よせあつめのあれこれでできているということはわかった。



……ある意味、日本人の十八番でもある。日本人とものすごく相性がいい理由もわかった気がする。



「今日は24日、ミトラ神の祭りは明日。夜景は今日がメインになることには違いないな」

「せっかくだから少し歩いて、ターキーでもみんなで食べて帰ろうか」



そんなわけで。

街はにぎわう。意味をこじつけて楽しめればそれでいい。

ひょっとしたらそんな日本人の、大らかな気質が敗戦後のこの国を先進国まであっという間に押し上げたのかもしれない。



人も悪魔も神様も。


一緒に楽しむかつてないクリスマス。


「そういえば北欧では今もこの日は『ユール』って名前で祝われてるな」

「似たような名前から移行させないと浸透するには難しいのでは」

「お前らの会話。旧教から吸収合併させたローマ時代の人たちと何も変わってないんじゃないの……?」


一部に改善の余地を残しつつ。

本日のツイッターで「今日はイヴですね。イヴって何?」みたいな疑問に端を発して急きょ出来たお話です。ほぼほぼクリスマスとは元々なんぞやの雑識を小説化(なのであまりいつものドタバタは起きてません(;´∀`)。)


へぇーと思ってもらえたら幸いです。

勉強になりました。

雑学ついでに、ここでは触れていませんがキリストの誕生日はどこにも明記されておらず、あくまで「誕生を祝う日」とされています(これは本編で書いた気がする!)

イヴはキリスト教ではなくユダヤ教の一日のカウントの仕方であるのもポイント。なんで派閥で棲み分けてるのにそこは採用しているのか謎が増えた。



なお、せかぼくの世界はサザ〇さんワールドなので何年とっても季節話はほどよくループします。

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