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ペルセウス座流星群(後編)

森はそれを見て、メッセージを一言だけ友人にあてて送る。


『忍ちゃん、今、一つ目見えた』


すぐに返事は返ってきた。


『私も見た。司くんと秋葉も見てるといいね』


ふたつ、みっつとそうしている間にも暗い空が戻った街の上空に、尾を引いて流れる星。

デジタルのその画面を消して、森は空を見上げる。


挿絵(By みてみん)



流星群。

月明りもなく、信じがたいことに都会のど真ん中から天の川も見えていた。

そうして空を見上げはじめた人々は、誰もがその事態は大がかりなサプライズであると理解をし、暗い街から、家々のベランダから、高層ビルの窓の外、星が流れる度にこぞって指をさし笑いあった。



「司さん、また流れましたよ!」


年甲斐もなく、先ほどまで緊急事態かと緊迫していた同僚は、やはり嬉しそうにそう言って空を指さした。


相変わらず歩道橋の上から、空を見上げる司。


あぁ、これか。


そして理解する。このサプライズは、忍の仕業だ。……正しく言うなら、ダンタリオン公爵の。

必要な灯りは最低限。都心のど真ん中からこれほどの星空が見えるのは……これほど日常のなにもない時間にそれを見られるのは、おそらく前例のないことだろう。


確認するまでもなく。しかし、本部の局長自らこの事態は全く問題のない旨の無線が入っている。全警官に向けて。その理由は告げられなかったが、ただ「たまには空でも見てみやがれ」と上司らしからぬ一言で無線は切れた。


挿絵(By みてみん)


星は、いよいよ流れ、不安の声はやがて歓声に変わった。もう誰もうつむき、スマホになど目を落としてはいない。


「珍しい。まさかこの街でこんな天体ショーを見られるなんてね」


雑踏に紛れていた足を止め、振り仰ぐ。アスタロトにとってもそれはなかなか趣のある光景だった。


「ちょ、なんか流れ星すごいんだけど!?」


日常インドアな一木は人生で初めてそれを見た。


「ステキねぇ。人の文明の中で過ごすのも悪くないけれど、やっぱり夜空は静かな方がいいわ」


女神たちは自らの屋敷の庭からそれを見上げた。


ただ、誰もがその晩、歓喜とともに空を見上げ続けていた。



ひとりを除いて。


「忍―! お前か! これやったの、お前だろ!」

『秋葉、わざわざ確認してくる暇があったら空を見て』

「見てるよ。大停電ですっごい星見えてるよ。帰省したやつら絶対うらやましがるくらい!」


ダンタリオンに何か頼んでいたことを思い出して、この大がかりな事態に、思わず、電話。


『最低限の明かりは落とされてないから大丈夫だよ。神魔からのサプライズ、ってことで』

「………………確かにこんなことは、人間にはちょっとできないよな」


閑静な住宅地だったが、ネットのニュースでも速報が入ったのか気づいた人々が道やベランダに出て空を見上げている。子どもたちの喜ぶ声が聞こえる。

少し冷静になって、スマホを耳元から離して少し見上げる。また、星が流れた。


『今年は好条件で見られる珍しい年なんだよ。秋葉も、電話してる暇があったら空見てね』


通話は切れた。見上げる。

その度に、星の尾が視界をかすめ、消えた。


挿絵(By みてみん)


遠くに見慣れた赤い東京タワーの光が見える。空は暗闇。都会ではあるまじき、暗さ。


けれど、誰もその闇におびえる人間はいなかった。

人間だけではなく、神も魔も、等しくその久方ぶりな……あるいは魔界では目にできない瞬間の瞬きを眺め続けた。


それは一年に一度訪れる彗星の欠片。空からの贈り物。



大停電を起こしたその日。

これまでにないくらい、都心は穏やかな夜を迎えていた。


挿絵(By みてみん)


* * 以下、後記 * *


モチーフは三大流星群のひとつ「ペルセウス座流星群」です。

更新された2021年は8月13日4時頃が極大日(一番流れる。流星群は1か月くらいかけて通り過ぎていく)。月齢4でほとんど月明かりがなく、12日日没後から13日未明にかけてが見ごろということです。

作中では一日ズレてるけど何、問題ない。


晴れれば一晩中観測できるそうで、これだけの観測条件(月齢とピーク時刻)が揃うのは8年ぶりだそうです。

次は2024年ですが、晴れるとは限らないのでもし晴れたら、空を見上げてみてください。


南西の空には木星や土星もあるそうです。

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