その七 その男、泣き濡れつつ出会う
今回も分割。前半は惟高さん、後半は三人称……ですが会話しかないです(遠い目)。
俺とお陽の追いかけっこは割と続いた。
時折出てきた子鬼やしゃれこうべはもはや倒し飽きているから、急所さえ見抜けば一撃で倒すなど造作もない。
鬼だけはちょっと手こずる。なんせ体躯が違いすぎるのだ。
だがまあ、飛び上がって背を蹴って首をぶっ叩けば良い。時折棍棒が折れるが、その時は新しく子鬼から拝借するまで。
だが今はそんなことはどうだっていい。
「お陽~……お陽~……」
俺、この煉獄に来てから心が折れそうになったのは初めてである。
さながら周囲の子鬼やしゃれこうべのように徘徊する亡者のごとく。
だが、せっかく見つけたのだ。お陽……! 待っているのだぞ……!
「はーいそこの人止まれー」
そうしていると、妙な白装束の男が止めてきた。
※――――
遡ること十数分前。
ヤマトオンラインの運営、管理をしているコンピュータールームにて。
「主任、いよいよッスね」
「おう」
無精髭を生やした主任という人物と、その部下なのだろう、メガネをかけた男が話す。
「アップデートで手に入る錬成素材、それと新たなエリア、ついでにチーター達のアカBAN祭りだ」
「でもそれ言ってこないだのアプデでもとっ捕まらなかったッスよね」
「言うんじゃねえよ悲しくなる」
「ゲームを純粋に楽しんでるんだったら主任も満足言わないのに、チートとか使うやつはなんなんスかねぇ」
「アレじゃねえの? 俺TUEEEEしたいとかそんな欲求」
「んで、フェアじゃないから、俺らがそれを除去に回る……いたちごっこッスねぇ」
「ああ。……んでヒゲ。地獄ヶ原にはなんも異常はないんだな?」
「あ? ああ、ねぇっす。チーターとかも見当たらなかったッスしね」
「ならいい」
「主任、ひょっとしてアプデの前から上がってた走るヘルゴブとか不自然に倒されてるヘルオーガを気にしてるんスか? AIが勝手に同士討ちしてやられただけッスよ~」
「そういうのがないってのは、俺とお前でわかってんだろ」
「なんスけどねぇ……異常はどこにもなかったッスし……おっ、ハラスメントコールキタコレ、っと」
「なんだどうした」
「ああ、ハラスメントコールッス。まーたいたずらかなぁ……っと、お? こいつは?」
「どうした、エロ画像系か。そういうのはスクショしてからとっとととっ捕まえに行け」
「いや、ちがうんスよ。画像にプレイヤーが一人映ってるだけで、あとはなんにもないんス」
「あ? お前きちんと調べたのか?」
「しらべてるッスよ、エリアは【地獄ヶ原】……って、アプデエリアッスね」
「ほーん……」
「どうするッスか? 様子見にダイブするッス?」
「ああ……そうするわ」
「んじゃ主任、行ってくるッスよ」
「なんで俺なんだよ、お前行けよ」
「主任ここ最近缶詰じゃないッスか。こういう時にはちょっとチーター相手に吶喊するのがいいッスよ」
「……それもそうか。ま、ちょいと行ってくるわ。透明化チートつかってるんだろうし、そこらへんのしてくる」
「はーい。アカBANも忘れずにッスよ~」