その五 その男、傾く
またしても惟高さんの視点に戻ります。
……男主人公ってやってるけど、女主人公ってしたほうがいいなこれ?
お陽が居た。
この煉獄に。
そう思った俺は、たまらず抱きついていた。
「お陽! 何故お前!」
「ちょ、ちょちょちょちょちょ!? な、何を!?」
「このような煉獄にお前がどうして! ひょっとして俺を探しに来てくれたというのか!」
「だ、誰かと勘違いしていません!? あ、あんまりするとハラスメントコールしますよ!」
「勘違いなどしようものか! お前はお陽だろう! その格好はどうしたのだ! 神職にいつのまについていたというのか!」
「あー話聞いてないなこの人!? とりあえずごめんなさい!」
「おぐぅっ!?」
思い切り弾き飛ばされ、一度距離をとられる。
「な、何をするのだお陽……」
「だーかーらー! 私はお陽じゃありません! ハルです! ステータス見えてないんですか!」
「このような煉獄でそのようなもの知らぬ」
「まさかの初心者! そしてまさかのロールプレイガチ勢!?」
「ろーるぷれいなど知るか! お陽――――――!!」
「人の話を聞いてくださいこの幼女!」
「おぐぅっ!?」
今度は頭に向かっての踵落とし。
間違いない、この容赦のない殴り方は紛うことなきお陽……!
「とにかく、一旦落ち着いてください。ね?」
「う、うぅ……わかった……すまぬ」
閑話休題。ひとまず落ち着くことにした。
「先程は助けていただいてありがとうございます。私はハル。【陰陽師】をしています」
「陰陽師!? 呪い師か山師をしているというのかお陽!? 生活があまりにも苦しすぎたのか!? 俺がもう少ししっかりしていれば……! すまぬ!」
「違います、勝手に話を広げないでください。こういう職業です」
「しかし俺の覚えている限り、お陽は芸者だったはず……」
「芸者じゃありません! 高校生!!」
「高校生!? いや、俺は確かに親の顔は見たくもないといった親不孝者だが……」
「学生ですよ! あまりにボケが激しいとほんとにハラスメントコールしますよ!」
「ぬ、う、す、すまぬ」
「あーもー何なのこの人? 話が殆ど通じないと言うか通じてるけどちぐはぐというか……!」
「ということは……俺の名もわからぬのか?」
「いや、それは……というか、会ったことも無いですからね?」
がーん。
お陽が……俺のことを……忘れ……た……?
衝撃であった。
いくら俺が剣にかまけていたとはいえ、夫婦になった日には共にそば屋に行ったこともあるというのに……。
い、いや剣にかまけていたからか? 俺の接し方がまた悪かったのか?
「あの……それで、幼女さん? 貴方は一体……」
「幼女ではない、山本五郎左衛門惟高だ」
「さん……え?」
「山本五郎左衛門惟高」
「……それがキャラネームですか?」
「きゃらねえむというのはわからんが、俺はこの名前以外名乗った覚えはない」
「……なんかおかしいなぁ……え、このゲームに初めてログインしたんですよね? その、同じ時期に入った人とか居ないんですか?」
「俺は最初から最期まで一人だった。もっとも、お陽という伴侶はいたがな」
「…………」
なんかお陽から残念そうな目で見られている。
懐かしいなぁ。確か最初会った頃も一目惚れして土下座して俺と夫婦になってくれと言ったときにもそのような目をされたか。
「まあ、目が覚めたら、このような煉獄に居たのだ。一人で修行に明け暮れようと思っていたが、お陽が居るのであれば、この煉獄も悪いところではあるまいよ」
「いやさりげにそのお陽さん認定してますけど、違いますからね?」
「いや違わぬ。そなたはお陽だ。その激しい切り返しと時折くる一手一足の鋭さ、間違いなくお陽だ」
「……お陽さんがどんな人かわからないけど、すごく苦労されてるっていうのは分かりました」
「ああ。お陽には苦労をかけた。だから今度はその苦労を返さねばならんのだ」
「お陽さん見つけるために頑張ってくださいねー」
「おお……いや、だからそなたがお陽だと」
「だから違うと」
そんなことを言っていたら後ろから3人ほど近づいてきている。
なんぞ個性的な装束だな。傾奇者(注※江戸時代後期における派手な装束をして、社会一般からかけ離れた行動をする人のことのことを指す。歌舞伎役者とはまた別)か?
お陽がゲ、というような顔をしている。知り合いなのだろうか。
「あんたたち! 良くもさっきはなすりつけてくれたわね!」
「げぇ!? なんだこいつ生きてるぞ!」
「なんとか生きてるわよ! ほんとこの頭のおかしい人が助けてくれなかったら今頃死に戻ってたわよ!」
死に戻る!? なんだお陽!?
お前もすでに死んでいたのか!?
やはりここは煉獄なのか!?
「……その後ろでわなわな震えながら百面相してるやつが?」
「頭おかしいけど、あんたたちよりかは腕は立つわね」
「この幼女がか? 見た感じ、【ヘルゴブリン】の棍棒じゃねえか! そんなんが俺らに勝てるわけ無いだろ!」
「つーかこいつの装備も見たことねぇな。ユニークか?」
「じゃあこいつらちょっと殺すか! 少しでも儲けを持ってこねぇと団長に殺されるからな!」
「ちょっ……! やっぱりあんた達こっちを殺すつもりだったっての!?」
「あたりめーよ! そんな派手ユニーク装備してるやつが悪いんだ! こっちは侍3人、そっちは陰陽師と侍、どっちが強いか分かるだろうがよ! っつーわけで、殺されたくなかったら身ぐるみ全部置いていけ――」
刹那、その輩共がそれ以上何かを言う前に手に持った棍棒で顔面を殴り飛ばした。
その後、組み敷いて顔面をひたすら棍棒の柄で殴打する。
ひとしきり殴打すると、その輩は青色の砂になって消えていき、そいつが使っていただろうものが周囲に撒き散らされた。
まあ、そんなことはどうでもいい。
「今、何と言った?」
傾く……つまり気持ちがそっちに傾くこと。