その三十六 その男、放つ
言うや否や、彼奴らは一斉に踊りかかってくる。
無数にやってくる刀、槍。
馬鹿正直にやってくるそれをチョメ殿を抱えて横っ飛びで避けた。
「あ、あの、山本さん、私っ」
「背中に乗れ、チョメ殿! しっかり捕まっていろ……ゔぉっ!?」
若干首が締まるのを感じて少し緩んだが、ここはすでに戦場。しかし逃げ場はない。
一度守ると言ったからには、あのように多数で襲いかかられてはたまったものではないし、無念示現流には専守防衛をするものがない。
ならばどうするか?
守るものを抱えて、背中をとられずに斬り込めば良い。
「な、なんだァあのチビ! アイツを背中に背負ってやがる!」
「おい、動きが鈍るはずだ! 今のうちにもう一度大人数で畳みかけろ!」
動きが鈍る、と来たか。
それはいささか違うな。木っ端共。
「ほんの少しの手加減にもならぬわ!」
ぐるん、と刀を下段に構え、刃を腰の後ろに。後ろにいるチョメ殿にちょうど峰が水平に来るようにして構える。
「無念示現流――」
身体を押す左足に慢心の力を込めて、思い切り踏み込みつつ、返した刀を踏み込みと腕の力、そして身体も共に一気に薙ぐ。
「草薙!!」
一刀の下に多数の相手の胴をめがけて打ち抜く。
『破竹』が攻撃の隙を狙うのであれば、これは示現流の考え『二の太刀要らず』を俺なりに体現したものと言えるだろう。
髪の毛一本でも早く刀を振るえ。初撃ですべてを制する。
ならばどうするか。
ただの振り下ろしでは腕の力が必要だ。だがまだ足りぬ。
踏み込みの勢いを使え、まだ足りぬ。
己の身体をすべて使って、ようやっと二の太刀要らずの渾身の一撃が出来上がる。
最も、命名は草刈りをしているときに編み出した物だったので、あまり名前に関してつっこまれたくはないが。
だが、この身体では勢いがつきすぎたようだ。
「うっ、わ、わわわ!?」
ぐるん、と身体も一気に回転したものだから、もう一回転、止まってはならぬとまた踏み込むのでもう一回転……と続いていく。
己の身体がコマのように回転を続けていき、戦場を無尽に駆け回る。
終わる頃には、おおよその敵が倒れ伏していた。
「な、なんという……」
草薙はいうなれば一直線に進む技。それがこの体では軽すぎて何度も何度も回転と直進を続けることになったようだ。
「このようなこともできるか……!」
俺は、己の剣がまだ途上にあることを改めて思い知らされた。この煉獄でまだまだ強くなれることも、また同時に知った。
だが同時に視界がくるくると回るのも感じる。
「うっ、こ、コレは……」
「ゔぇぇぇ……」
「ちょ、チョメ殿……すまぬ……目が……」
そう、何度も何度も回転しすぎたため、目が回ってしまった。
これは俺の鍛錬不足とも言えよう。つまりは、うん。
敵を一掃はできたが、やりすぎた。




