その三十五 その男、吠える
この度、タイトルを『無念無想の煉獄走破者』を消去して、単純に『幕末武士が転生したら和風VRMMOの世界だった件』に変更しました。
どうも走破する気配ではなかったので……。
「確かこの辺まで走ってきていた筈であるが……」
先程のかぶき者を追いかけて来てみた所、ついたのはぽつんとした場所に仏堂(注:仏教寺院において仏像を安置し、礼拝供養するための建物。 この場合は境内以外に単独で建てられたものは境外仏堂と呼ばれるものである)が立っているだけで、それ以外にはない。見失ったとは考えられぬが……。
「やはり一度戻る……ぬぉっ!?」
「きゃっ!」
帰ろうとしていると後ろから何者かがぶつかってくる。
誰かと思えばあのときの女児巫女であった。
「おぬしは!」
「あ、あなたは……」
対面をしていると、入り口が何者かに塞がれる。
みるといつぞやの大男がずんと立っていた。
「待てやチョメェ!」
「ぬ?」
ドスの効いたダミ声が飛んできたので、そちらを見ると【南蛮組】の頭目……とっきー、だったか? が立っていた。
その怒り狂った様子を見る限り、ただ事ではなさそうだ。
「てめぇは……マサムラの所で会った」
「おうトッキー殿……であったか? ちょうど良いところに。先程往来で不体を働いていた者がいたのだが……」
「あぁ……誰かと思えば、テメーの仕業だったのかよ……うちの奴らをよくも可愛がってくれやがったな……?」
後ろから先程痛めつけたやつが出てくる。
……おかしいな。あそこまで痛めつけた覚えはないが……。
怯えた顔から察するに、どうやら頭目から制裁を加えられたのやもしれぬ。
愚かな。上に立つものが恐怖でどうにかしようなど、その集まりなど容易く壊れるというのに。
「やはりろくでもない場所であったか。申し訳ないが帰らせてもらうぞ」
「そのままはいそうですか、つって返すわけねえだろが。それとそいつは置いていってもらうぜ」
女児巫女殿がピクリと震える。よほどの目に合ったのだろう。
かすかに震えているのがわかった。
……ああ、駄目だな。堪えねば。ひとまずは話を聞かねば。
「……聞くが、この巫女殿になにかしたのか? 怯えているが」
「ふっ、いいこと教えてやるよ。このゲームを初めたやつにはな、熟練者にすぐに追いつくためのボーナス経験点がもらえるアイテム、【経験の書】ってのが配られるんだよ」
そこから先は聞くに堪えなかった。
やれ「言うことを聞かなければ首を跳ね飛ばした」なり「ろぐあうとをしてもめぇるに催促のものをいれた」だの……後半はわからぬが、首を斬り飛ばしたと言ったな。
右も左もわからぬものをいいように扱うなど、武士の、いや人にも劣る所業である。
「丁度いい。おら、お前も持ってんだろ。ソイツをくれたら、お前もそいつも見逃してやるよ」
下卑た笑い声が響く。ああ、苛々する。かろうじて後ろからは何も聞こえぬのが幸いか。
「巫女殿。改めて名を伺おう」
「え、あ、ち、チョメ……チョメです」
「チョメ殿か」
ふ、とチョメ殿に微笑む。少しでも安心させてやりたかったのもあったのだ。
「チョメ殿、決して俺のそばを離れるなよ。俺が守ろう」
そしてその後に俺は刀を抜き、かぶき者、いや無法者共にあらんかぎりの力で吠えた。
「我が名は山本五郎左衛門惟喬! 流派は無念示現流!! 犬畜生にも劣る貴様らに、冥土の土産として覚えて逝くがよいわ!」




