その三十三 その男、甘味に出会う。
「すまない、団子を3つ頂きたい」
「あいよ」
軒先で俺はそう言って床几に座り、他の二人も座らせた。
「実はこうみえて俺は甘いものに目がなくてな。お陽にも『団子侍』とからかわれたものだ」
「まぁ、今の格好の山本さんだと、食いしん坊の女の子にしか見えないもんね」
「確かに。そうやって足をぷらぷらさせてると子供っぽいですぜセンセ」
「ぬぅ……」
忘れていた。今の俺は童女の姿だったな……いや、まてよ?
今のこの姿であれば、好きなだけ団子も菓子も食えるのではないか?
確かに、前の俺の姿であれば、甘いものなぞ食っていたら通りすがりの男からやれ軟弱だとか女みたいだとからかわれていたが、今のこの姿であれば団子もあんみつも好きなだけ食えるのではないか……?
そう考えたらよだれ思わずよだれがでてきていたらしい。俺は袖で拭おうとすると、ハル殿が「あーもー」と言いながらハンカチを出して拭いてくれた。
「山本さん何想像してたんですか? 口からすっごい勢いでよだれが出てましたけど」
「いやなに。この姿であればたらふく甘いものが食えるなと思ってな」
「たらふくって……そこまで好きなんです? 甘いもの」
「ああ、好きだぞ? 団子に饅頭、あんみつ、落雁、干し柿……ああ、そう言えば一度きりであったが、金平糖も食べたことがあったなぁ。ううむ、思い出したら食べたくなってきたな」
「なんかすげえ古風なもん食ってるんスね。プリンとかパフェとか言うと思ってたっス」
「ぷりん? ぱふぇ? 何だそれは?」
「あー……となると……あるかな?」
ハル殿とデン殿が笑いながら奥に行き、なにか話している。
するとハル殿がそれを出してくれた。
出されたものは見たことがないものだった。
黄色い姿をした豆腐……いや、上に黒い蜜が乗っているので、豆腐というにはちょっと違うか? 卵焼きにしては光沢がありすぎるし、なによりすごく震えている。
「は、ハル殿、デン殿、コレは……?」
「山本さん、いいから食べてみてよ」
「多分仰天するっスよ」
「う、うむ」
おそるおそる一緒にでてきた匙でひとすくいして食べる。
――瞬間、口の中に甘いものが広がった。
とろり、と口の中をほんのり冷たく滑り、黒蜜の甘苦さと中和し、素晴らしい組み合わせとなり、渾然一体となって俺と一つになる……。
なんだ、これは……。
「は、ハル殿、デン殿、これは一体……」
「それがプリンだよ、山本さん」
「いやぁ、言ってみるもんっスねぇ。ここユーザーの店だったからひょっとしたらと思って聞いてみたらやっぱりだったっス」
「お、おお……なんだこれは……」
まさか団子や饅頭よりも凄まじい、このような甘味があるとは……!
「店主! 店主殿おられるか!」
「あいよ」
出てきたのは強面の頑固一徹そうな男であった。
「先程のぷりんとやらは、貴殿が作られたのか」
「そうだ。うまいか」
「いや大層良いものであった! もっと食いたい! 団子と饅頭もほしいぞ!」
「わかった。だが金はあるだろうな?」
「これで足りるか?」
と言って一番最初にウンエイ殿から当座の資金として貰った小判を出す。
「いいのか? これは課金アイテムだろう?」
「た、足りなかったか?」
「いや、多すぎる。普通の金はねえのか?」
「あー……いや、あいにくそれしか……」
「なら私が建て替えるから。それでいいかな、店主さん?」
「ならいい。食い逃げが最近多いからな。【ギルド】でも警戒してるんだ」
食い逃げが居るのか……それは大変だな……。
そんな事を考えていると、来客がやってきた。
※筆者調べでのちょっとした補足
江戸時代の甘いものといえば団子や饅頭なんかがよく時代劇に出てきていますが、調べてみるとほとんどの和菓子がすでに江戸時代までに登場していたということです。
なんと山本さんが死ぬ前(1867年。戊辰戦争が始まる1年前)にはビスケットやパン、バターの広告があったそうです。
山本「パンやビスケットがあったのは知っているが、食うような事態でも時代でもなかったからな……」
ハル「それよりも甘いものほうばってエクスタシートリップしてる山本さんが可愛すぎた件について」
デン「だからつってリスかなにかみたいにいっぱいあげちゃ駄目っすよ……?」
山本「二人共俺をなんだと思っているんだ……?」




