その二十一 その男、薬丸自顕流の達人の話をする。
織晴鉱。
素材あいてむというもので、生産職、特に鍛冶師には重宝されている鉱石らしく、加工にはかなりの手間がかかるがその分上等な物が出来上がる……。
というようなことを、道すがらデン殿から聞いていた。
「して、そこに行くまではかなりの手間がかかるようだな」
「ッスね。けっこー上位に位置する鉱石ッスから、採掘場所も限られてるッスよ」
「しかし金掘大工(※かなほりだいく。鉱石を掘る仕事をする人の事)のマネごとをすることになるとは思わなんだ……」
「こーいうMMORPGでは素材採集も一つの楽しみッスよ!」
「ふむ。それもそうか……。これも修行と思うも良し。そう考えると、自ずと鍛えられるというものだ」
険しい山道だが、マサムラ殿から教えてもらったまっぷを頼りに進んでいく。
「そーいや山本センセはどんな人と戦った事があるんスか? 上位ランカーってんですから、きっと今のやべー人たちとも戦った事あるんスよね?」
「じょういらんかぁ、というのはわからんが……そうだな。強敵との戦いというのであれば、思い出せる者はたくさんいるぞ」
「うお、まさかセンセってリアルでスポーツマンとかなんスか! どんな人と戦ったことあるんスか?」
「うむ。無念示現流を編みだすために俺は様々な地域を旅していたからな。下総、大和、備前や筑後にも行った」
「しも……? だ、大分と古風なんスね?」
「ん?」
なにか会話が噛み合わぬと思ったら、そう言えば今は下総や大和とは呼ばぬのであったな……。
しかし弱った。ともすればどのように呼べば良いものか……。
そう思案しているとデン殿が慌てたように、
「いや、地域はともかくとして、強敵との話を頼むッスよ~」
「おお、そうだな。本来はそれが肝心であった」
ふむ、強敵との話というのであれば……。
「うむ。薬丸自顕流の達人で楢原九郎座という人物の話がある」
「楢原九郎座……薬丸自顕流、ッスか?」
「おお。構えは八相……ちょうどデン殿と同じような構えだな。野太刀(※大太刀とも呼ばれる。現代においては長さ約90cmが分類される。ちなみに一般的な打刀は約60cmくらい)を用いて繰り出される、その変幻自在にして強力無比な太刀筋には当時の俺も驚かされた」
「野太刀ッスか」
「うむ。薬丸自顕流は元は『野太刀示現流』とも呼ばれる、示現流を祖とする流派。『初太刀を外せ』と呼ばれる示現流の強力な一撃を、野太刀の長さを持って振るうのだ」
「はー……モンハンの太刀みたいなもんスかね?」
「もんはん、はよくわからぬが……まぁ、分かりやすく見えるものがあれば、それを思い浮かべてほしい。もっとも、楢原殿が使われていたのは、野太刀の中でもさらに大太刀、五尺(おおよそ150cm程。日本人の平均身長は165cm程)の大太刀よ」
「そ、そんなもんで戦うんスか!?」
「うむ。初太刀が恐ろしい威力で飛んでくる。俺が立ち会った時にはその時は普通の野太刀であったが、それでも驚異と呼ぶにふさわしいものであったよ」
獣の牙ごとく刀が振るわれ、その突きは間合いをどう取ればよいかわからぬほどの速さで繰り出される。
懐に入る瞬間を見つけるのが、当時は非常に困難だった。
「勝てたんスか?」
「かろうじて、一本をな。だがその一本を取るために俺は百回は死んだぞ」
「うぇえっ!? どういうことッスか!?」
「かんたんなことよ。武者修行の青二才よりも、相手は薬丸自顕流を極めた達人。これが真剣勝負であれば、俺は九十九回死んでいたというだけよ」
「はえー……とんでもねえ人がいるんスねえ。あ、センセはリベンジできたんスか?」
「りべんじ……よもや再戦の事か?」
「そうッス。どうだったんスか?」
「ああ……再戦を望んだが、死んでいたよ」
「えっ……そりゃあ……すまねッス」
「デン殿が気にすることではないさ。構わんよ。……っと、そろそろではないか?」
「えっ? ああ、そうッスね」
織晴鉱があると呼ばれる場所にたどり着いた俺とデン殿は、鉱石を掘った。
加減がいまいち俺はわからなかったが、デン殿から教わり、十分な量の鉱石を採ることができた……。
だが、肝心の織晴鉱がまるで採れなかった。
楢原九郎座という人物の元となったのは、
実際に存在した薬丸自顕流の達人、奈良原喜左衛門先生という人物です。
弓術にも長けており、蛤御門の変においては隊長として活躍していたそうです。
慶応元年、京都二本松の薩摩藩邸にて亡くなったそうです。
(Wikipedia調べ)




