その零 その男、無念なり
というわけでみなさんどうもはじめましての人ははじめまして、そうじゃないかたはお久しぶりです、嫁葉です。
今回いろいろと触発されてVRMMO風時代劇っぽいものを書いてみました。
まったり更新をしていくつもりですので、よろしければどうぞ。
※なお一応時代劇と銘打ってますがひょっとしたらいろいろと間違えているかもしれません、その時は生暖かい目で見守りつつお楽しみください。
前書きが長くなってしまいました。それでは本編へどうぞ。
時は1868年。江戸も終わり、新たな時代に移り変わる頃。
山本五郎左衛門惟高は、東山道の道に居た。
ただ居たのではない。惟高は新政府軍を待ち構えていたのだ。
惟高の後ろにいる仲間を無事に逃がすため、惟高は自ら殿を務めた。
ただ一人で何ができようと思うだろう。だが惟高は違った。
この江戸の時勢でただひたすら、剣を磨き、己の流派を生み出した。
無念無想の境地で生み出された、示現流を元に編み出したこの剣術。
その名も無念示現流。知る者はもはや惟高一人であろう。
誰にその剣を教えるでもなく、惟高はただ一人、新政府軍を待ち構えていた。
すでに草履は擦り切れ、足袋はボロボロで、足には豆ができてはつぶれを繰り返し、足は松の皮のようになっていた。
青柳の羽織袴はすでに血で変わり、煤竹色になってしまった。
だが刀はまだ折れてはおらぬ。
惟高は刀が折れようとも、必ず生きて帰ると決めていたのだ。
「お陽」
刀馬鹿である惟高がたった一人惚れた、一人の女の名をつぶやく。
この戦いに行く前にもう離縁してしまったが、泣いてはいないだろうか。
腹の子は無事、生まれただろうか。
「っと、いかんな」
未練がましい、と惟高は思い頭を振るう。
今までなら刀しかなかったのに、今では女を思い浮かべている。
過去の自分がみれば軟弱な、と切り捨てるだろうか。
「だが、俺は強くなったぞ。見ているか」
誰に言うでもなく、惟高は新政府軍を待つ。
そして、奴らは来た。
山高帽をかぶりながら、洋剣を腰に差し、一糸乱れぬ様相で行進してくる。
惟高は刀を抜き、高らかに叫ぶ。
「我こそは山本五郎左衛門惟高! 流派は無念示現流! いざ、尋常に勝負されたし!!」
抜いた刀をそのままに、惟高は冷たい風をものともせずにびゅうと走る。
それをみた新政府軍は何をしたか?
銃を構え、惟高を撃った。
相手からすれば、相手に付き合う必要など無いのだ。
無数の砲音、惟高は撃たれながら思った。
無念だ、と。
真剣勝負もされず、ただ銃で獣のように撃ち殺される。
このようなものが、俺の最期なのか、と。
無念だ。
無念だ――――。