喫茶店 【月夜譚No.36】
レトロな雰囲気漂うあの喫茶店は、善哉が絶品だ。丸眼鏡をかけた柔和なマスターが淹れた日本茶を添えれば、最高のおやつになる。あそこはコーヒーも美味しいが、やはり善哉には日本茶がしっくりくる。
木目の浮き出た重厚なテーブルに、薄らと彫刻が施された椅子。十字に格子の入った窓からは柔らかな陽光が注ぎ、隅の本棚には客が寄贈した写真集やら小説やらがジャンルも雑多に詰め込まれる。照明が抑えられて暗めの店内には、微かなジャズが流れる。
帰りに寄ろうと思っていたのに、店の様子を思い出していたら今すぐにでも行きたくなってしまった。そういえば、鞄の中に読みかけの小説がある。あそこで読み始めると時間を忘れて没頭してしまうのだが……まあ、良いだろう。
これから予定していた事柄を先に延ばすことにして、革靴の向きを変えた。