第91話「パスト・"ホスピタル"・トーキング」
ゾディアックとビオレは、南地区にある”ガーディアン専用”の病院に転移した。正門には転移魔法用のポイントが十数個置いてあるため、転移には困らない。
建物の階層は10以上に及び、隣接する建物と比べると非常に綺麗で、外観には汚れひとつ見当たらない。夜ということもあり、地上から建物全体がライトアップされている。病院というには仰々しい作りの建物だった。
ゾディアックは駆け出し、建物の中に入る。扉を開けると広いエントランスが広がった。
3階まで吹き抜けている大階段が奥に見え、入口の近くにあるいくつもの受付が目に入る。
中を進むと診察待ち、会計待ちのガーディアンたちが、据え付けのソファに座っていた。扇状に広がるそのソファは5列あり、空席が目立つ。
ゾディアックは周囲を見渡し、白衣を着た男性を見つけた。左肩に赤い線が入っている。それはこの病院に勤務する職員であることを物語っていた。
線の数が多いほど、その人物は”優秀”であるという指標がある。
男性は3本。線の最大は5本であるため、中堅以上の実力を持っているだろう。
ゾディアックは男性に走って近づき、その肩を掴んだ。
「あ、あ……あの!!」
突然のことに、男性は慌てて振り向いた。
そして肩を上げて後退りした。モンスターのような鎧を着た大男が突然話しかけてきたため、当然の反応である。
しかし、ガーディアンを見慣れている男性は、すぐに平常心を取り戻した。
「はい、どうされましたか?」
「あ、あの……えっと、あれ。怪我をした仲間がいて。ガーディアンの。病室というか……見舞いに来たのでどこにいるのかっていうのを知りたくて……」
「は、はぁ」
男性は苦笑いを浮かべて、たどたどしく喋るゾディアックの言葉を聞いていた。
それから5分後、男性がベルクートの病室を教えてくれた。ゾディアックは礼を言って大階段へと向かった。
場所は5階だった。魔力を使って動かす昇降機も使わず、階段を使って駆け上がった。
そして病室までくると、扉を開けた。個室だった。
「ベル!!」
声を上げて短い廊下を進み、部屋の奥へと進む。そしてゾディアックは見た。
ベッドの上に座りながら、煙草を吸っているベルクートの姿を。
「……え?」
「よぉ! 大将じゃねぇか。なんだよ、こんなすぐ見舞いに来てくれるなんて。嬉しいねぇ」
服装は患者用の布服になっているが、いたって元気そうだった。胸元からチラと包帯が見えたが、それでも重症ではないらしい。
「ベルさん、煙草吸ってるけど、大丈夫なの?」
ゾディアックの後ろにいたビオレも、その姿を見て疑問符を浮かべた。
「よぉ。ビオレお嬢ちゃんまで来てくれたのか。やっぱ持つべきものはパーティだな。優しい連中ばっかりで、涙ちょちょ切れるわ」
ゾディアックとビオレは呆れた眼をベルクートに向けた。
「なんか、元気そうだね」
「……心配して損した」
「おいおい。マジでやばかったんだって、さっきまで」
ベッド近くのテーブルに置いてあった、灰皿に吸殻を押し付けながら言った。
「本当? 信用できないんだけど」
ビオレの言葉に同調するようにゾディアックも頷いた。
「だから……ああ、もう。ちょっと待て。説明すっから」
その時、病室の扉が開けられ、カルミンが入ってきた。軽鎧や武器を持っておらず、白いニットセーターにロングスカートとという出で立ちだった。
沈んだ顔をしていたカルミンは、ゾディアックとビオレの姿を見て、パッと顔を明るくする。
「ゾディアックさん、ビオレ! 来てくれたんだ!」
「そりゃくるよ!」
「……重症だって聞いたからな」
「ああ、えっと……それについてはごめんなさい。焦っちゃってて」
カルミンは誤魔化すように笑って謝ると、ビオレに視線を向けた。
「ミカは?」
「セントラル。ある人……っていうか、存在を見つけて。その相談に行ってくれたの」
「存在?」
ビオレはカルミンに、亜人街で起こった出来事を話し始めた。
それを尻目にゾディアックはベルクートに近づき、ベッド近くにある椅子に座る。何の変哲もない、肘掛け付きの木造椅子だが、鎧の重りにも耐えられる特殊な加工が施されている。
「……とりあえず、軽傷なんだな」
聞くと、ベルクートはため息をついた。
「いやぁ、俺は慌てんなって言ったんだぜ? なのにあの嬢ちゃんと来たら、大慌てでこんな場所まで連れてきて、お前らに連絡入れてよ」
「……愛されているじゃないか」
「うるせぇよ」
吐き捨てるように言って視線を逸らした。
ゾディアックはベルクートの横顔を見つめた。
「何が、あったんだ」
「……変な獣人に襲われたんだよ」
そう言うと、ベルクートはゆっくりと、襲われた時のことを話し始めた。
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