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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert3.ブルーベリーマフィン
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第81話「コール・"ヴォイス"・タクティクス」

 夜も更ける頃、亜人街がより一層盛り上がりを見せていた。これからが本番だと言わんばかりに人間、亜人が通りに溢れかえる。

 普段は絶対にありえない光景だが、ここ最近の妙な事件のせいで、ガーディアンもキャラバンもすることがなくなっていた。


 来る者は拒まない。例え踏みにじられようと価値が変わらない金が欲しいと願う亜人街の住民たちは、道行く人々にひっきりなしに声をかけている。

 そんな人々が溢れかえる通りを尻目に、ふたりの男が細路地に入って蹲っていた。


「どうだった?」


 ひとりがそう問うと、もうひとりは俗っぽい笑みを浮かべ、腰に身につけていた袋からある物を取り出した。

 巨大な青い宝石が施された指輪だった。


「それガーディアンのか?」

「ちげぇよ。さっき亜人から安値で買い取った。この宝石、超貴重だぜ。売れば100万ガルはくだらねぇ」

「マジかよ。相手はいくらで売ったんだ?」

「1000ガル」


 それを聞いた男は大地に向かって笑い声を浴びせた。傑作だと言わんばかりに膝も叩いた。


「ば、馬鹿じゃねぇのか、その亜人!」

「お父さんの大切な形見なんです~とか言っていた馬鹿犬だったわ。騙すのなんかちょろいちょろい。こっちが何年キャラバンやってると思ってんだ」

「見た目が動物なら脳味噌も動物か」

「二足歩行することだけに脳味噌の機能、大半持ってかれてんじゃねぇの?」


 ふたりはゲラゲラと笑った。こういっためずらしい日でも、どんな場所でも商売魂を忘れてはいない。相手が学の無い亜人ならば、騙すことなど容易かった。


「とりあえず、もう一度行くか~」

「おう。亜人相手なんざ獣臭くてたまんねぇが、体はエロいし、ちょっくら遊ぶのもアリだな」

「おいおいやめとけって。変な病気貰っても知らねぇぞ」


 ふたりは再び通りを目指して歩き始めた。

 ひとりが煙草を咥えたところで、「あ」と言った。


「お前よ。100万儲けたら俺にも4割くらい……」


 言いながら隣を見て、立ち止まった。


「あれ?」


 さきほどまで隣にいた相手がいなくなっていた。


「お~い。どこ行った~? 便所か~?」


 男は首を傾げて元来た道を見ながら声をかけるが、遠くから聞こえてくる喧騒以外、何も聞こえてはこなかった。


「っち。逃げやがったか、あの野郎」


 呆れて再び顔を正面に向けた。


 次の瞬間。眼前に銀色に輝く何かが迫って来ていた。


「え?」


 銀色のそれは、喉元に深く突き刺さった。

 痛みはなかった。だが、男は大口を開け悲鳴を上げようとした。

 その口が何かで覆われ、音が遮断される。手だ。白い肌の、女性のような手が口元に当てられている。

 それを理解すると、男はまるで眠るように瞼を閉じた。




★★★




 ラズィは穏やかな寝息を立てているふたりを、目立たない路地に座らせた。

 あと5分ほどで目が覚めるよう、魔法で調整しておいた。

 心を殺す、特殊な魔法をエンチャントしたナイフで貫かれたふたりは、亜人街に来てからの記憶を一切なくしただろう。


 ラズィは眠っているひとりのポケットから、指輪を手に取った。

 これを亜人の子に返して、自分は潜伏しよう。


 そう考えていた矢先、アンバーシェルが振動した。

 鬱陶しいと言いたそうな表情を浮かべながらアンバーシェルを取り出し、画面を見る。そして舌打ちしながら通話に出た。


「うるさい」

「開口一番がそれか。お前らしいな」


 トムは鼻で笑った。

 ラズィは眉間に皺を寄せた。相手の次の言葉が手に取るようにわかるからだ。


「なぜゾディアックを仕留めない」


 ほら来た。

 ラズィはため息をついて壁に寄りかかる。


「日にちが経つが、まだ準備中か?」

「相手は最強のガーディアンですよ? いつも以上に準備をかけなければならないことは、そちらも理解しているでしょうに」

「なら、相手の次の行動は何だ。調べているのだろう?」

「もちろん。明日、亜人街に来るらしいです」

「確かなのか?」


 ラズィは鼻で笑った。


「今日のセントラルで、隠れて聞きました。ほぼ確実でしょうね」

「そうか……ラズィ」

「何ですか? お褒めの言葉でも頂け」

「お前、なぜゾディアックを襲うことを躊躇しているんだ」


 ラズィは目を開いた。口が開いたままになる。


「一緒に任務をこなしたせいで、情でも湧いたか?」

「……うるさいですよ」

「よく聞け、ラズィ。時間がかかればかかるほど、お前は姉と会える時間が減っていく。それを重々承知しているだろうな」

「……」

「そっちがやる気ないのであれば、こっちにも考えが」


 開いていた口を閉じ、奥歯が軋むほど噛み締めると、ラズィは叫ぶように言葉を吐き出す。


「黙って見てろ!!」


 そう言って乱暴に通話を切った。

 ラズィは心を落ち着けるために、大きく息を吐き出し、月を見上げる。

 躊躇ってなどいない。どうやって仕留めるか。それを悩んでいた。


 最初に思いついたのは、月並みだが、仲間のフリをして不意打ちをすることだった。

 しかし、この方法が一番危険であることをラズィは理解していた。何度かゾディアックと行動を共にしているとわかったことがあったからだ。

 あの騎士は仲間のことを心の底から信頼していない。それが意識してなのか無意識なのかはわからないが、常に警戒を解いていないことがわかった。


 流石一流のガーディアンといったところだろうか。これまで、その姿に寸分の隙も見当たらなかった。


 であれば、ハニートラップを仕掛けることをラズィは考えた。

 ローブを羽織っているため、ラズィの肢体をゾディアックは知らない。勝手なイメージだが、ゾディアックは女性慣れしていないと思っていた。おまけに、自慢じゃないが、魅力的な体付きをしていると自負していた。

 ベッドの上なら男は隙だらけだ。経験から、それを知っていた。

 これがベストな方法だと思っていた。


 だが、先日のゾディアックとビオレを見送った、金髪の謎の女性を見て、ラズィは考えを改めた。

 あの女性はいったい誰なのか。調査していたが、女性は一歩も家から出なかったため、素性がよくわからない。

 一見少女にしか見えない彼女。ゾディアックの恋人か、はたまた嫁か。

 だが、あんな少女と床を共にしているとしたら、ゾディアックは相当の変態だ。ロリコンされても文句は言えないだろう。


 であれば、妹か。親族関係だろうかと考えた。

 ラズィはゾディアックの素顔を知らない。もしあの人形のような子が血縁関係だとしたら、ゾディアックは相当のイケメンだろう。


 考えが逸れてきたため、ラズィは頭を振った。

 とにかく、あの子が恋人である可能性も考えられる以上、色仕掛けの選択肢はなくなった。少女趣味の相手に、自分の体は逆効果になる恐れがあるからだ。


 であれば、闇討ち。

 それか、あの女性を人質に取るか。


 後者は最後の手段だ。確かに殺し屋として活動しているが、非道なことをラズィは行いたくなかった。だからトムにも、女性の件は伏せている。

 そんな非道な行いをして、姉が喜ぶのだろうか。


「……今更何言ってんのよ」


 自嘲気味に笑ったラズィは悲し気な笑みを浮かべて月から視線を逸らした。

 そのとき、ちょうど眠っていたふたりが目を覚ましかけていた。

 ラズィは素早く壁を蹴り、屋根の上に昇ると、亜人街の中へと消えていった。




★★★




 通話が切れたアンバーシェルを見つめながら、トムは渋い顔をしていた。

 自分の弟子でもあり優秀な暗殺者(アサシン)であるラズィを疑いたくはないが、このままでは任務に支障が生じる可能性もでてきた。


 これまで直接的なサポートは避けてきたが、どうやら今回ばかりは手を貸した方が確実だろう。

 トムはそう思うと、ラズィの会話を思い出した。


 明日は、亜人街にゾディアックが来る。


 襲うとしたら、絶好のチャンスではないだろうか。

 さきほどの会話でラズィは何も言わなかったが、明日仕掛ける可能性は高い。


 となると。トムの視線が亜人街の通りに向けられる。

 酒のせいで陽気になっているガーディアンと腕を組んで歩く、シャーレロス族の女性が目に映った。


 トムは牙を少しだけ見せ、腰に装備した巨大なナイフの柄に手を振れながら、ふたりに近づいた。




お読みいただき、ありがとうございます。


次回もよろしくお願いいたします。

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