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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert3.ブルーベリーマフィン
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第79話「コーヒー・"ダッド"・カップチーノ」

 翌日。

 大見得を切ったレミィだったが、昨日の凛々しい表情もどこへやら、渋面を貼り付けて受付に立っていた。

 理由はガーディアンの対応に追われ続けているからだ。


 レミィはセントラル内を見渡す。ガーディアンたちが大勢集まり、ざわついていた。席は全部埋まっており、立ちながら飲み食いを行っている集団もいた。

 いつもは楽し気に酒盛りしながら歌っているパーティも、目に角を立てて真剣な表情で話しているのが見える。

 これだけでも異常な状態だとわかるが、一番現在の状況を物語っているのが、掲示板付近だ。任務が貼ってある掲示板の前には、いつもガーディアンが立っている。

 だが、今は誰も立っていない。理由は。


「レミィさん! どうなってんだよ、マジで!」


 また新たなガーディアンが受付に来た。ため息を押し殺し、笑顔で出迎える。

 

「お疲れ様です。どうかされましたか?」

「どうかも何も、わかってんだろ!? また横取りされてんだよ、討伐対象!」


 これが理由である。最近ガーディアンの任務が上手く達成されていない。はじめは任務内で不手際があった、またはお人好しのガーディアンが他人の任務まで行っていたと考えていた。

 しかし、ここ最近は任務を行えない者が激増していた。


 これは、明確な意思で、ガーディアンの邪魔をする者がいることに他ならない。


「おかげで商売あがったりだ。今月の家賃払えねぇよ!」

「はぁ……それは、また」

「なぁ、緊急手当とか出ないのか?」


 レミィは頭を振った。そういう制度はあるにはあるが、原因を追求している最中であるため、開始することができない。


 そのことを説明すると、男は額に脂汗を浮かばせた。


「いやいや! そっちの管理体制の問題とかもあるだろ!?」

「と言っても、規則ですので」


 男は深く項垂れた。


「マジかよ~……。レミィさん、ここは俺を助けると思ってさ、いくらから工面してくれないか」

「いや、そういうことはやってなくて」

「頼むよ! 緊急事態じゃないか!」


 こういう面倒くさいガーディアンも大勢いる。とりあえず回れ右してもらおうと思い、レミィは息を吸った。

 その時、ガーディアンの後ろに、漆黒の巨体が姿を見せた。


「ん? ……おお!!?」


 ガーディアンはレミィの視線に疑問を感じ後ろを振り向き、驚きの声を上げた。


「ぞ、ゾディアック……」

「……」

「な、なんだよ。まだ俺の番だぞ」

「……」

「んんだよ!! 言いたいことあるならハッキリ言えっつうの!!」


 焦った声でそう言うと、ガーディアンは受付から逃げるように、早足でその場から離れた。群衆に飲まれるように姿を消したガーディアンを見送ったゾディアックは、レミィの方を見る。


「……ゆっくりどうぞって言ってたんだけどな」

「いや、聞こえてねぇし」

「そうか」


 ショックを受けたように頭を若干下げたゾディアックを見て、レミィは口元に笑みを浮かべた。


「ありがとな、ゾディアック」

「え?」

「おかげで助かった。今日はああいう客が多くてな」


 レミィは時計を見る。自分の休憩時間をとうに過ぎていたことに気づく。


「任務か?」

「いや、話をしたくて。この状況だし、ちょっと、その雑、談的な、あれです」

「どれだよ。雑談だろ」

「それです」


 馬鹿らしい会話にレミィは破顔し、席を立った。


「もう休憩なんだ。いつもの席に座ってんだろ? ちょっと付き合えよ」

「……ああ」


 そう言ってふたりはフードサービスカウンターに行き、飲み物を注文する。レミィはコーヒーを頼み、ゾディアックはカプチーノを頼んだ。

 ふたりは飲料の入った、プラスティック製のマグカップを持ち、セントラルの隅にあるテーブル席に向かう。


「マスター! レミィさん!!」


 ぶんぶんと細く白い腕を振るビオレがいた。その隣には友達であるミカが座っている。


「やぁ、ふたりとも。最近好調じゃないか」


 ゾディアックとレミィは、ふたりの対面に座る。

 レミィの言葉を聞いてミカがニヤニヤとした表情でビオレを見る。


「後方支援が優秀だからかなぁ?」


 ミカは肘でビオレを「うりうり」と言いながら小突いた。


「やめてよ~。カルミンとミカの戦い方が上手だから、こっちが動きやすいだけだし」

「いやぁ、ビオレは謙虚だなぁ!」


 そう言って抱きつく。


「だからやめてって!」


 不快だと言わんばかりの声だが、その表情は嬉しそうだった。

 レミィはその様子を見て安心した。亜人など関係なく、馴染んでいる様子であったからだ。


 一瞬、レミィの顔に陰りが差す。

 少しだけ、自身の過去を思い出したからだ。


「それでさぁ、レミィさん」


 ミカがビオレから離れ、唇を尖らせた。


「やっぱり原因はわからない感じぃ?」

「まぁ、な。国の兵士やキャラバンにも協力を仰いでいるんだが、中々いい知らせは来ない」

「キャラバンの人たちも、最近元気ないですよね」

「……同業者が殺されているからな。あくどい商売をしている露店は、店を閉めている」


 ミカがクスッと笑った。


「ある意味ありがたいねぇ。地雷お店回避できるし」


 そういう意味では確かにありがたいが、なにも殺すことはないだろう。レミィはコーヒーを飲みながらそう思い、どうやって犯人を捜すか考えていた。


「捜査網とかを敷ければいいが、兵士はあまり動いてくれないだろうな」

「どうして?」


 ビオレが聞いた。


「この国はガーディアンが幅を利かせているからな。兵士はお株を奪われている。そりゃ面白くないだろう」

「だから手伝わないってこと?」

「むしろガーディアンなんていらないと思っている連中が多いぞ。自由すぎる連中は一度頭を冷やした方がいいんだって、北地区で配られている新聞には書いてあった」


 サフィリア宝城都市は地区ごとに貧富の差があり、地区ごとに出回っている情報の質や量にも差が生じている。

 必然的に、北地区の者が一番正しい情報を手に入れていることになる。


 ビオレは首を傾げた。


「え? レミィさんがなんで、北地区の新聞の内容知っているの?」

「まぁ、サフィリアの重要施設に勤めているからな。例外的に情報が入ってくるのさ」

「それって喋ったらマズいんじゃないのぉ?」

「……”ひとりごと”だよ。聞かなかったことにしてくれ」


 誤魔化すように、カップを口元に持っていくのを見て、ミカは笑った。

 黙っていたゾディアックが口を開く。


「このままじゃ仕事にならないな。今日はまだ粘ってみるが」

「明日休んだらどうだ? 戦いだけがガーディアンのすべてじゃないぞ。それに、ビオレちゃんはまだサフィリアに疎いだろ」


 カップを持った手でビオレを指す。


「あ、じゃあ明日! 私、亜人街に行ってみたい! 気になってたんだ~」


 ビオレは自然の民とも呼ばれるグレイス族である。亜人に分類される彼女にとって、亜人街は気になる場所だろう。おまけに家からも近い。行きたくなるのは当然だ。

 

「あ、亜人街か」


 ゾディアックは唸った。

 西地区にある亜人たちの街。治安は、サフィリア内で最も悪い。正直襲われても文句は言えない場所だ。

 返事を渋ってると、ミカが挙手した。


「私も行きたい! あの狐の子に会いたいし!」

「そうだね、お礼言いたい!」


 ミカの言葉に後押しされたビオレは、気体の眼差しでゾディアックを見つめた。

 ゾディアックはすんと鼻を鳴らし、頷いた。


「わかった行こう」


 そう言うと、ふたりは喜びの声を上げた。

 レミィが口元に拳を当て、笑みを隠しながら横目でゾディアックを見る。


「大変だな、お父さん」

「……お父さんじゃないって」

「娘の我儘には付き合うものだぞ、お父さん」

「だから違うって」


 レミィは今度こそ笑みを隠さず笑った。

 そしてカップを傾けながら受付カウンターを見る。ガーディアンが大勢集まり、列を作っていた。

 時計の針はまだ休憩終了を告げていない。だが、見過ごすわけにも行かなかった。


「んじゃ、そろそろ行くわ。ゾディアック」

「ん?」

「何か新しい情報が入ったら知らせるから。明日はふたりのお()り、頑張れよ」


 そう言って、空になったカップを持ち席を立った。


「……ありがとう」


 ゾディアックはその背中に声をかけた。

 何も言い返さず、レミィはカップを掲げて応えた。

 どんな表情を浮かべていたかはわからないが、背筋を伸ばしたその後姿を、ゾディアックは美しいと思った。



お読みいただき、ありがとうございます。


次回もよろしくお願いいたします。

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