第77話「ウォーニング・"ワーク"・ガンバンク」
ベルクートは露店を開きながら、違和感を覚えていた。
周囲に目を向ける。人通りの数は相変わらずで、休日ではないため馬車がひっきりなしにメイン・ストリートを通っている。
それはまだいい。
だが明らかにおかしいことがあった。
キャラバンの露店の数が減っていたのだ。
オーディファル大陸内にある国の中で、キャラバンが稼げる場所と言えば、ギルバニア王国の他にはサフィリア宝城都市くらいしかない。キャラバンが多くいるのはサフィリアの特徴でもあった。
なのにその数が少ないというのは、観光名所をひとつ失ったようなものだ。
気味が悪いと思いながらも、ベルクートは椅子に座ってアンバーシェルを操作していた。ゲームをやったり漫画を読んだりして時間を潰している。今日も相変わらず人は来なかった。
「おい、あんた」
声をかけられ慌ててアンバーシェルをしまう。
「お、いらっしゃい!」
営業スマイルを浮かべて相手を見る。
顔を布で覆っており、軽鎧を身に纏っている盗賊が立っていた。
ベルクートはその姿に見覚えがあった。
「あれ、あんた」
「覚えていてくれたか」
相手は安堵のため息をついた。
露店を開いた初日にベルクートを冷やかしに来た、あの盗賊だった。
「なんだよ。また冷やかしに来たのか。悪いが帰ってくれ」
しっしっと、虫を払うように手首を動かす。
「ち、違うんだ! あんたに礼が言いたくて」
盗賊は必死な声を出した。ベルクートは首を傾げる。
「あ? 礼だぁ?」
「ミカを助けてくれたんだろ? ゾディアックさんと一緒に」
ミカという単語を聞いて、「ああ」と言って思い出した。カルミンと仲がいい盗賊の子だ。
ベルクートは相手を見る。よく見ると、目元がそっくりだった。
「娘さん?」
「いや、妹だ」
相手は頭を振った。
「何でガーディアンなのにキャラバンをやっているか、理由は聞かない。ありがとう、妹を助けてくれて」
「どういたしましてって言いたいが、男の礼は素直に受け取れねぇんだ。俺はうちの商品購入で頼むよ」
「いや、それはちょっと勘弁してくれ。ただ、その代わりにひとつだけ言いたいことがある」
「何だよ」
盗賊はベルクートに近づき、口を開く。
「どうやらガーディアンやキャラバンが無差別に襲われているらしい」
「……あ? なんだそりゃ」
「犯人が誰なのかわからない。モンスターの仕業かもしれない。だけど、不可解な死を遂げている連中が多くなっているんだ」
「確かなのか?」
「あんたも覚えがないか?」
ベルクートは昨日のことを思い出す。ビオレがガーディアンが殺されていた、ということを話していた。
「危険なモンスターの仕業かもしれないだろ」
「サフィリア宝城都市内でも殺人が起こっているんだ。特にキャラバンの」
盗賊の声には若干の焦りの色が見えた。ベルクートは鼻の下を指で擦る。
「なるほど」
キャラバンの数が少ない原因を知ると、ベルクートは呟いた。盗賊の視線が露店に並ぶ銃器類に向けられる。危険物を見るような目つきだった。
「相手が何者なのか、何が目的なのかわからないが、銃を売っているあんたはターゲットにされやすいだろうよ」
そう言うと盗賊は踵を返した。
「忠告したからな! じゃあな!」
わざとらしく大声で言って、手を振りながら背を向け歩き出した。
「はいよ」
生返事を返してベルクートは椅子に座って足を組んだ。危険な匂いを確かに感じていたが、それでもベルクートは何とかなるだろうと思っていた。
自分の実力に対する絶対的な自信。相手が何者であろうと、遅れは取らないだろう。
「すまない、いいか」
ベルクートは瞼を上げ、客の方を見る。
大柄で、体がぶ厚い獣人が立っていた。首輪がない。服装からしてガーディアンのようにも見えなかったが、ベルクートは笑みを浮かべる。
「いらっしゃい! 銃をお探しで?」
「ああ。昔、ブラックスミスにいてね。懐かしいな」
そう言って獅子はハンドガンを手に取った。獅子の大きな手のせいか、50口径の巨大な銃が、まるで玩具のようであった。トリガーに指をかけてはいない。どうやら使っていたらしい。もちろん弾は抜いてあるため、暴発の心配はない。
「うん、いい銃だ」
「お目が高い」
「改良しているな。魔力が通しやすい。君の技術かい?」
「まぁ、恥ずかしながらそうですわ。まだ完成度は高くないですがね」
「謙遜しないでくれ。いいじゃないか、気に入ったぞ」
獅子は腰から札束を取り出した。
「この銃をくれ」
ベルクートは金の束を見て、目を輝かせた。
「おおお! 本当ですか! ありがとうございます!! あ、もう初回サービスってことで弾はおまけしちゃいますわ。ちょっと銃を貸してください。購入済みのサインを入れるのに型番が必要なんだ」
「ああ」
獅子は快く渡してくれた。両客だ。見た目は恐いが物腰は柔らかい。
ベルクートは銃を触り、型番を確かめると紙に書き込み、金を確かめる。
そして釣りである札と小銭を渡す。
「今日から使うんで?」
「ああ。護身用になるがね。ありがとう、店主」
「いえいえ! またごひいきにぃ!!」
ベルクートは勢い良く頭を下げた。獅子は爽やかな笑い声をあげ、ベルクートの露店を後にした。
しばらく歩き人通りが少なくなってきたところで銃を見つめた。
「仕事がやりやすくなるな」
トムはそう言うと、薄暗い路地の中を進み、姿を消した。
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