表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert2.ガトーショコラ
61/264

第60話「ガンズ・オブ・ザ・ヒート」

 ベルクートが召喚した武器は、”レミントンM870”と異世界では呼ばれている銃を模して作られた、ポンプアクション式ショットガンだった。

 弾丸の威力を上げるよう改造されており、さらに魔力(ヴェーナ)を流し込むと威力が底上げできる仕組みになっている。


 改造されているのは銃だけでなく、弾丸こと”ショットシェル”もそうだ。

 今使っているのは、バードショットと呼ばれる、大量の小さな粒の散弾である。ショットシェルの中に数十から数百個の弾が入っており、名が示す通り、鳥撃ちなどで用いられている。


 貫通力が低く、近距離で効果を発揮するのが特徴的なシェルだが、これだけではミノタウロスの筋肉の鎧は貫けない。


 だが、ベルクートが用意したシェルの中に詰め込んでいるのは、銀でできた弾丸だった。

 モンスターの弱点でもあるシルバーバレット。ショットガンの銃口から放たれた数百のそれは、一斉にミノタウロスの脇腹にめり込んだ。

 近距離から発射したため威力は絶大であり、弾丸は、ミノタウロスの腹の肉を吹き飛ばした。


 あまりのダメージに敵は動けず、ゾディアックたちもベルクートに視線を送っていた。

 この隙を見逃すわけにはいかない。ベルクートが声を張り上げる。


「ゾディアック! ラズィ! 援護してくれ!」


 ゾディアックが頷くのが見え、後ろから「わかりました~」という声が聞こえると、ベルクートは再び弾丸を発射した。

 ミノタウロスの腕に、銃弾の雨が降り注ぎ、血が飛び散る。


 銃を若干寝かせ、フォアエンドを上下に動かす。

 ガシャン、という小気味いい音を鳴らしながら薬莢が排出され次弾を装填し、もう一度発射する。


 相手が雄叫びを上げようとするが、その前にベルクートの弾丸が、ミノタウロスの右胸に叩き込まれた。


「殺せねぇか」


 舌打ちする。本来であれば吹き飛ばせたはずの一撃だが、相手が若干動いたせいか、致命傷には至らなかった。

 ミノタウロスは雄叫びを上げず、鋭い眼光でベルクートを睨み、両足に力を入れ立ち上がろうとする。


 瞬間、右膝裏に、ゾディアックの大剣が突き刺さった。


 バランスを崩し、ミノタウロスの動きが止まる。

 ベルクートは銃口をミノタウロスの足にくっつけるほど接近させ、引き金を引いた。


 爆音と同時に肉が抉られ、骨が(ひしゃ)げる音が響き渡った。

 至近距離の威力と筋肉が薄い関節部分に銃弾を浴び、ミノタウロスはたまらず尻もちをついた。


 ベルクートは追撃しようと、次弾を装填し近づく。

 その時、ゾディアックの視界にミノタウロスの腕が動くのが見えた。


「ベル!!」


 ゾディアックがベルクートに体当たりする勢いでぶつかり、ふたりは倒れた。

 直後、倒れたふたりの上に、巨大な握り拳が通過した。

 軽装のべルクートがまともに食らっていたら、致命傷は避けられなかっただろう。


「あっぶねぇ!! ナイス、ゾディアック!!」


 親指を立てると、ゾディアックも親指を立てた。

 すると周囲に黒煙が立ち込めた。


「魔法が効かなくても、こういう目くらましは防げないでしょ~?」


 ラズィは煙黒(ブラインド)と呼ばれる魔法を発動した。

 その名の通り、指定した地点に煙を発生させるだけの魔法であり、普段は逃亡用に使われる魔法だ。

 しかし、今回の戦闘では、抜群の効果を発揮していた。


 痛みと怒りで我を忘れているミノタウロスは、黒い煙に紛れたゾディアックとベルクートを見つけることができない。闇雲に腕を振り回すだけだった。


 空を切り続け、疲れきったミノタウロスの前に、黒煙の中からゾディアックが姿を見せる。

 ミノタウロスは吠え、太い腕が、ゾディアックを逃さんと迫る。


「こっちだ、ウスノロ」


 後方からの声、それと同時に銃声が鳴り響き、ミノタウロスの背中を抉った。

 背後からの一撃を見舞うと、ベルクートは間髪入れず次弾で肘を、次弾で足を撃ち抜く。


 あの爆音が鳴れば、必ずダメージを負う。そのことに恐怖したミノタウロスは、怯えるような鳴き声を出して蹲った。

 戦意喪失している相手に、ベルクートは薬莢を排出しながら近づく。


 両膝をつき、頭を抱えて蹲るその姿は、天に許しを請うような姿だった。

 だが待っているのは、許しの声でも天使の微笑みでもない。


 ミノタウロスの頭頂部の前に立つと、隣にゾディアックが来た。


「悪いな。最後まで美味しいとこ持ってくぜ」

「……どうぞ」


 わざとらしい会釈をしながら、ゾディアックは手で敵を指す。

 ベルクートは鼻で笑い、手の平に新しいショットシェルを召喚する。


 一撃で殺せる、貫通力の高い、スラッグ弾。それを引き金近くにあるローディングゲートに装填する。


「そんなことするキャラだっけ、お前?」

「……この前映面で見た。カッコいいなと思って、やってみたかったんだ」


 ベルクートは頬を上げる。


「そうかい」


 言うと笑みを一瞬で消し、真剣な眼差しでミノタウロスを睨むと、フォアエンドを動かし引き金を引いた。

 地獄へ送る銀の弾丸が頭部にめり込み、頭蓋骨を砕き、ミノスウロスの頭を吹き飛ばした。


「真似したくなるよな。映画のワンシーンって」


 煙が立ち上る銃口を口元に持っていき、ベルクートはふっと息を吐いた。

 灰色の煙が、かすかに揺れ動いた。




★★★




 絶命したミノタウロスに背を向け、ゾディアックとベルクートは全員と合流する。


「すっげぇ、倒したのか!?」


 興奮した様子の少年は、キラキラとした目でふたりを見た。

 ベルクートがどうだと言わんばかりの顔をして、腕を組む。


「おう。余裕余裕。銃使えば、あれくらいのは速攻で倒せるぜ」

「お、俺も使えるかな!?」

「お、じゃあまずは口径の小さい物から……」

「お話もいいですけど、さっさと出ませんか~?」


 楽し気に話をする3人をよそに、ゾディアックは座っているビオレの隣に膝をつく。


「マスター……」


 潤んだ瞳を向けてくる相手を観察する。

 致命傷はないが、右肩の脱臼はすぐ治さなければならなかった。


「治すぞ。痛いけど、我慢するんだ」


 ビオレの右腕を掴んでいった。


「は、はい……」


 返事を聞くと、ゾディアックは力を入れてビオレの体を固定し、万力のような力で脱臼した部分と腕を動かす。


「うっ!!! くっあぁぁぁあああああ!!!」


 痛みで絶叫するビオレに、話していた3人とカルミンが目を向ける。

 ゾディアックは声をかけず肩を入れ直した。

 嗚咽を漏らし、ビオレは必死に痛みに耐えながら右肩を押さえる。ゾディアックはその上から回復魔法を使った。

 淡い緑色の光が患部を照らし、痛みを取り除いていく。


「あまり動かすな。ここを出たら、また治療する」

「……はい」


 すっかり落ち込んだ様子のビオレは、首を垂れて頷いた。

 ゾディアックの視線は、黒髪の剣術士(ソードマン)、カルミンに向けられる。カルミンは怯えた様子で、必死に視線をそらしていた。


「……あのふたりは、無事だぞ」


そう言うと、カルミンは目を見開いてゾディアックを見た。


「おい、ゾディアック!!」


 ベルクートたちが近づく。


「とりあえず、ここから出ようぜ。俺はラズィとガキンチョ抱えて転移すっからよ」

「ああ」


 ベルクートは転移魔法(テレポ)を発動しようとする。

 だが、おかしなことが起こった。


「……あれ?」


 ベルクートは疑問を浮かべた。


「どうしましたか~?」

転移魔法(テレポ)が使えねぇ……」


 ラズィが首を傾げる。

 なぜだと、一同が思った。




 次の瞬間。

 部屋の壁が、黄金色に輝いた。





お読みいただきありがとうございます。


次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ