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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert2.ガトーショコラ
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第54話「憧れの存在-2」

 騎士団(ヴァイスリッター)に入団したベルクートは、魔法を主に扱い、国内の防衛と”雑用”を行う6番隊に配属された。

 雑用担当ということもあり、6番隊は辛うじて騎士と認められた者達が入る”ハズレの団”だった。それゆえ、他の部隊に所属する団員は、6番隊を下に見る者がほとんどだった。

 それは、”戦闘集団”と揶揄(やゆ)される、7番隊に入団したサレンとて例外ではなかった。


「ベル」


 ある日、サレンが騎士団(ヴァイスリッター)の宿舎にベルクートを呼び出した。

 ひと月ぶりの再会だったため、ベルクートは浮き足立っていた。


「なに?」

「あのさ」

「どうした?」


 なにか言い淀んでいるようだった。ベルクートは笑みを浮かべてサレンに近づく。


「そうだ。明日から休日だから、デートでも」

「あのさ、ベル」


 サレンは頬を掻きながら、苦笑いを浮かべた。


「もう、あまり、私に話しかけないでくれないかな?」

「え?」

「ふたりきりならいいよ? けどさ、外にいるときは話しかけないで」

「……どうして」

「どうしてって。6番隊の人から声をかけられたら、私の印象が悪くなるのよ」


 サレンはあっけらかんと言った。

 「恋人」でもなく「幼馴染」でもなく「6番隊の人」と呼ばれたベルクートは、言葉に詰まった。


「じゃあ、そういうことだから。あとデートも無しで。私、そっちと違って忙しいし」


 ベルクートのことを気にも留めず、サレンは一方的に言って宿舎を出ていった。

 その後ろ姿が消えると同時に、心に虚しさが押し寄せてきた。


 ベルクートは短く笑った。最初から釣り合う相手じゃなかった。それはわかっていた。幼馴染という接点がなければ、落ちこぼれと優等生という図式なのだ。この結果は仕方がない。

 それでも好きだった。けれど相手は、自分のことを重荷と思っているらしい。

 ならば身を引くしかないだろう。


 付き合って1ヶ月。初めてのデートすらしないまま、初恋の人と別れることになってしまった。

 笑いがこみ上げてきた。虚しく笑い続けた。

 ベルクートはこの日以降、力を身に着けると決意した。


★★★


 それからというもの、ベルクートは自分でもわかるほど急成長していた。

 誰も行わない雑用をこなし、様々な任務をこなし、隊長から魔法を教わるうちに、いつの間にか力を身に着けていた。


 5年の月日が流れ、大魔法を8つ所持した頃、ベルクートは副隊長候補にまで登りつめていた。


 サレンの近況は小耳に挟む程度しか入ってこなかった。ただ、7番隊の中で色恋沙汰で問題を起こしてしまい、追放の危機に陥ったという話は耳に入ってきた。

 今のベルクートにとって、それはどうでもいいことだった。サレンの近況を知るために努力するくらいなら、魔法のひとつでも極めて、団と市民の役に立ちたかった。


★★★


 ある日ベルクートは、いつも通りギルバニア王国内のパトロールを行っていた。これも立派な任務のひとつである。国内は平和であるため、これといって忙しいわけではないが。

 力を身に着けたベルクートと一部の隊員のみ、他の隊の手伝いにいったり、任務中下手を打ったガーディアンの救援に向かうということもするが、それでも多忙とは言えない。


「ベルおじちゃーん!!」


 いつも通りお気に入りのトレンチコートを着て街中でパトロールをしていた時だった。背後から声をかけられ振り向くと、ふたつ結びが特徴的な茶髪の少女が駆け寄ってきた。後ろには母親がいた。

 見回り中に仲良くなった友人だ。ベルクートは膝を折り、目線を少女の高さに合わせる。


「おじちゃんじゃねぇっつうの。どうした?」

「はい! これあげる!」


 近づいてきた少女は気恥ずかしそうに、1本しかないオレンジ色の花を差し出した。


「くれんのか?」

「うん! ポピーって言うんだって!」

「すいません。この子ったら、育てた花をベルクート様にあげたいと言って……」


 遅れてきた母親が少女の肩に手を置き、少し頭を下げる。


「いらなかったら、断ってくださって」

「いやいや。こんな素敵なプレゼント、断れませんよ」


 ヘラヘラと笑って花を受け取ると、耳元にかける。


「似合うか?」

「おかしー!!」

「ハッキリ言ってくれるじゃねぇか」

「す、すいませんベルクート様……」

「大丈夫ですって! ありがたく頂戴します」


 そう言って立ち上がった。


「ベルクート副隊長!!!」


 背後から声がかけられた。振り向くと、魔道士のローブの下に青銀の軽鎧を身に纏った、まだ若い青年がいた。

 去年入団したばかりの新人である彼は、息を切らしていた。


「まだ副隊長じゃねぇよ」

「も、申し訳ございません」

「どうした」

「騎士団の者達がダンジョンを探索中、モンスターに襲われ窮地に……」


 緊迫した雰囲気を感じ取った母親が、頭を下げて少女を連れていこうとした。


「またねー、おじちゃん!」

「おじちゃんじゃねぇって。気をつけて帰れよ」


 軽く手を振って言った。母親がもう一度だけ頭を下げ背を向けた。

 ベルクートは耳にかけた花を胸ポケットにしまう。


「隊は」

「7番隊です」

「なに?」

「事実です。4番隊の護衛をしていた者達が取り残されたようで」

「数は」

「3名です。1名は死亡したところを見たと、帰ってきた者が話しておりました」

「あとの名前は?」


 青年はポケットからアンバーシェルを取り出した。


「フロージ・ドラス、サレン・チェルマー」


 一瞬耳を疑い、青年を睨む。


「どうしてアンバーシェルにメッセージを飛ばさなかった」

「その、なにぶん、急でして。主要な者にはこれから……」


 ベルクートは舌打ちした。


転移魔法(テレポ)で飛ぶ! お前は巡回を続けろ!!」


 青年は慌てて返事をした、

 ベルクートは魔力(ヴェーナ)を活性化させ、光が明滅した次の瞬間には、騎士団の宿舎前に姿を現した。周囲には同様に転移してきた騎士がいた。

 ベルクートはなにも言わず、壊す勢いで宿舎の扉を蹴り開けた。


 同時に6番隊の隊長である、アリシア・マクスウェルの姿が目に飛び込んできた。


「隊長」

「……」


 力強い目が特徴的な魔道士、アリシアは口を結ぶ。皺も少ない滑らかな白い肌をしたアリシアは30代と思える。いつも姿勢がよく凛とした雰囲気を身に纏っている。


 とてもじゃないが、70を超える老人とは思えない見た目をしている。


(ベルクートさん。突然の呼び出し、申し訳ございません)


 流れるような短い金髪が下がる。

 昔の怪我が影響し、アリシアは喋ることができない。そのため、仲間達と会話をする時はテレパシーを用いている。


(要件はすでに理解しておりますか?)

「だいたいは。場所は」

(以前あなたも調査に行った洞窟です。まだ名前もつけられておりません)

「なら、ポイントがあるから転移魔法(テレポ)で飛べますね」

(そうですが……我々は救援には向かいません)


 ベルクートは眉をひそめた。


「どういうことですか」


 小声で話しかけ、アリシアと共に部屋の隅へ移動する。


(上からの命令です。明確には言えませんが)

「いやはっきり言いましょうよ。だいたいは察しがつきますが」


 アリシアは唇を曲げた。心優しい彼女は、こういったとき非情になれない。

 仲間が危険だというのに助けに行かないという命が下るのは、「処分」という方向で話が進んでいるのだろう。騎士団には必要でない者、力量不足の者を事故にかこつけて処理してしまう。生き残ったのであればまた仲間として迎え入れればいいし、障害が残って生存したり死亡したりした場合は即退団させればいい。


 騎士団(ヴァイスリッター)は仲良しこよしのボランティア活動ではない。超実力主義の軍隊なのだ。この非情とも言える命令に異議を唱える者は、ここには存在しない。


(あなたの思っている通りです。護衛していた7番隊の者たちは、全員が問題児でした)

「まさかこの事故って、仕組まれた?」


 アリシアは人差し指を顔の前に立てた。

 ベルクートは悲しくなった。かつて憧れていた存在が、恋仲でもあったサレンが、こんな惨めな運命をたどることになるとは。

 同情はできない。


(これから形だけの救助隊が組まれるでしょう。ベルクートさん。あなたが選ばれることはないと思いますが、一応体裁だけは)

「すいません、隊長」


 ベルクートはぴしゃりと言った。

 同情はできない。




 だが、なにも、死ぬことはないだろう。




「俺、助けに行きますよ」


 アリシアは目を見開く。


(駄目です! 勝手な行動をしたらあなたまで切り捨てられますよ)

「悪いな、師匠。上の命令よりあんたの教えを守るぜ。困った人がいるならとりあえず助けてしまえ、だ」

(けど……)

「頼みます。幼馴染なんです」

(やっぱり駄目です! あなたもペナルティを食らってしまいます)

「ははは。死んじまったら、ペナルティもクソもないでしょ」


 ベルクートは真顔になり、眉間に皺を寄せた。


「助けを求める声があるなら、俺は行きますよ。なんのための力だ。こういう時に助けに行くのが、騎士団(ヴァイスリッター)だろうが!」


 ベルクートの怒号は部屋中に響き渡った。

 周囲の視線が突き刺さりながら、破顔した。


「ついでに、全員救ってきますわ」


 そう言って、ベルクートは身を翻した。

 後悔はしていなかった。この行いが正しかろうと間違っていようと、助けられる命を見捨てることはできない。

 ベルクートは自分の甘さをよく知っていた。


 そして、自分らしいと思っていた。

 誇らしいと思っていた。


 宿舎を出てベルクートは魔力(ヴェーナ)を全身にたぎらせた。

 光に包まれる。

 制止を呼びかけるアリシアの声は、だんだんとノイズが走り、ついには聞こえなくなった。




お読みいただきありがとうございます。


次回もよろしくお願いします。

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