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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert2.ガトーショコラ
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第52話「必死」

 外は暗くなりつつあった。セントラルにいた大半のガーディアンたちは姿を消していた。

 夜になると貴重な素材を落とすが、危険で凶暴なモンスターたちが活発的に動き出す。それに見合った報酬を手に入れるため、ガーディアンたちは外へ出ていた。


 セントラル内には、席に座るゾディアックと、机に突っ伏しているベルクート。受付で作業を行うレミィ含む数人の従業員たちと、給仕がひとりしかいなかった。

 ゾディアックは兜の下で不安気な表情を浮かべながら、セントラルの扉を見続けていた。


「はい」


 不意に声をかけられた。視線をテーブルに向けると、コーヒーが注がれたカップを置くレミィの手が映った。


「眠気覚まし」

「……頼んでないが」

「気にすんな、私の奢りだ。あ、冷たい方が良かったか?」


 ゾディアックは湯気が立ち上るコーヒーを見ながら頭を振った。

 レミィは微笑むとゾディアックの隣に座った。手には自分のカップを持っている。


「順調に行ってれば、夜のうちには帰ってくるよ」


 言ってカップを傾けた。


「……ビオレが行っている、任務の難易度は?」

「それほど高くない……けど」


 レミィはカップを置いた。


「昔、ベテランを含んだパーティが全滅したことがあるから、決して低いとも言えない」


 任務は事前にセントラルの職員、または兵士、または有志のガーディアンが調査を行い、よく協議した上で危険度を決めていく。その危険度に応じて、どのガーディアン向けの任務なのか、依頼書に明記するのがルールとなっている。

 これは、駆け出しのガーディアンが、高ランクの任務に挑み、命を散らす危険性を下げるという狙いがある。


 これは上手いこと機能してはいるが、結局危険度を決めているのは同じ人間や、戦うことを知らないセントラルの従業員、実力があるガーディアンであるため、手違いというものは発生することもある。


 もしビオレが今受けている昇格試験が高ランクに値する任務だったら。

 もし今行っているダンジョンが、ただのダンジョンでなかったとしたら。

 頭を振った。またネガティブになっている。


「……もうすぐ」

「ん?」

「帰ってくる。きっとだ」


 自分に言い聞かせるようにゾディアックは言った。


「とりあえず眠気覚ましに飲めよ。コーヒー」


 突っ伏してたベルクートがそう言うと、上体を起こし大きく伸びをする。大欠伸を隠さず、息を吐きながら、筋肉のこわばりをとっていく。


「セントラルでぼーっと待つくらいなら、俺の店を宣伝して欲しかったぜ」

「……先に戻っててよかったぞ」

「俺ひとりで店開いても客は来ねぇの。ここにいるのと大差ねぇさ」


 頬杖をついてベルクートは入口を睨む。


「まさか夜通しここにいるつもりか?」

「……そうしようかと思っている」

「お前がよくても、セントラルはいいのかよ」

「1日中営業時間だ。それにここは私の家だしな。下手に汚したり暴れなきゃいていいよ」

「へぇそうかい。ゾディアックには甘いんだな」

「……どういう意味だよ」


 レミィの目が細くなり、毛が若干逆立つ。

 ベルクートは呆れたように、片手をこれ見よがしに振った。


「帰って寝るわ」


 そう言って席を立った。


「……ああ」

「お疲れさん。あとはそっちのお嬢ちゃんと仲良くやっててくれや」


 ゾディアックは頷くと、冷める前にコーヒーを飲もうと兜に手をかけた。

 その時、セントラルの扉が勢いよく開けられた。全員の視線が一点に集まる。

 そして、ひとつの青い影が、転がり込むように室内に飛び込んできた。


「はぁっ!!! はぁ!!! つ、ついたぁ!!!」


 そこに立っていた、青い狐の少年を見て、ゾディアックは立ち上がった。


「君は……」


 少年はゾディアックを見つけると、血相を変えて近づく。

 レミィが立ち上がり、行く手を阻む。


「待て。獣人が何の用だ。早く出ていけ、殺されるぞ」

「いや、ちげぇって! ゾディアック!! やばいって、助けてくれ! ガーディアンがさ、ほら、これ!!」


 少年は持っていた血に汚れたブレスレットを見せる。レミィがそれを手に取る。


「おい、何すんだよ!」

「ミカのだ」

「え?」


 レミィは少年を無視して呟いた。

 ゾディアックはふたりに近寄り、ブレスレットを見つめる。


「誰だ」

「ビオレちゃんとパーティを組んでいた、盗賊(シーフ)の子だ」


 ゾディアックは下唇を噛み、少年を見た。


「あ、あのさ! 森抜けた先に城あんじゃん!? そこでふたりのガーディアンが倒れてて、血塗れでぐちゃぐちゃでさ……あ、あのあれ! グレイス族の子は多分まだ中!」

 

 あたふたしながら身振り手振りも交えて少年は言った。


「……場所を教えてくれ」

「えっと、うわ!!」


 レミィが膝を折って少年の口を塞ぐ。


「んんんん!!?」


 突然のことに、少年がバタバタと暴れるが、レミィはビクともしない。

 レミィは少年を睨みつけたまま、声だけをゾディアックに向ける。


「ゾディアック。気持ちはわかるが、これは他人の任務だ。完了報告が来ていない以上、成功だろうが失敗だろうが、他人の依頼に手を出すことはできない」

「場所を教えろ」


 レミィはゾディアックを見る。


「駄目だ。許可できない」

「場所はどこだ!!!!」


 ゾディアックの怒号がセントラルに響き渡る。作業を行っていた従業員全員の手が止まる。

 レミィは一瞬驚いた表情を浮かべると、しゅんと耳を下げる。


「……落ち着け。ビオレちゃんの昇格が遠のくかもしれないぞ」

「権利が剥奪されるわけじゃない。また挑戦できる」

「そ、それに、ランクの高いゾディアックにはそれなりのペナルティが待ってるぞ」

「そうだぞ。ちょっと落ち着けよ、ゾディアック」


 ベルクートがゾディアックの肩を掴む。


「助けに行くつもりか?」

「当たり前だ」

「聞けよ。正式な手続きも踏まないで、勝手に他のガーディアンの手伝いをしてみろ。お前が汚名を被る可能性もゼロじゃないし、お前の大事な弟子が、寄生職(パラサイト)の汚名を着せられることになる可能性も高い。しかも昇格試験だぜ? ここで助けちまったらお嬢ちゃんの評価は「誰かに守ってもらわなきゃ任務をこなせないクソ雑魚ガーディアン」ってことになるだろうな」


 ゾディアックの首から上が動く。兜の隙間から鋭い視線が見えた。ベルクートは臆する素振りも見せず、無視してさらに言葉を浴びせる。


「助けに行っても、お互い何の得にもならないぞ。いいか、得にならない人助けなんざ偽善もいいところなんだよ。意味がねぇんだ」


 肩を掴む手を振り払い、ゾディアックはベルクートの胸倉を掴む。

 ベルクートは片眉を上げた。


「んだよ」

「損得で……俺はガーディアンをしていない」

「綺麗事言ってんじゃねぇぞ」

「仲間の、人の命がかかっているんだ」

「死ぬことなんか、ガーディアンだったら誰でも覚悟していることだろうが」

「そうかもしれない。だが、この子が来た」


 ゾディアックは空いた手で少年を指差す。


「助けを求める声があるなら、俺は行く。なんのためのタンザナイトだ。最強の俺が、助けに行かなくてどうする!」

「……」

「死んでしまったら、ペナルティも……損も得も、ないだろ」


 そう言って胸倉から手を離した。

 引っ込み思案な男の必死な声を聞いて、ベルクートはそれ以上何も言えなかった。

 気持ちが痛いほど、理解できたからだ。


「ああ、もう!!」


 レミィは頭を掻き(むし)ると、諦めたようにため息をついた。


「……「フーマ城」だ。ポイントがあるはずだから、転移魔法(テレポ)で飛べるはずだ」

「……すまない。レミィさん」

「さっさと行けよ。全員助けて来い。そんで、全員でお爺ちゃんにごめんなさいだからな」


 レミィは苦笑いを浮かべていった。

 頷きを返し、セントラルの入口に向かう。その背中に、ベルクートが続く。


「……ついて来なくていいぞ」

「いいや。見て見たいからついて行く。損得で動かない、偽善者ガーディアンの姿をさ」


 口では軽い口調で言ったが、心は違った。

 ゾディアックの言葉は、昔の自分が言った言葉と、そっくりだった。あの頃の自分は、弱くて情けない、最低の偽善者だった。

 だから見て見たいと思った。

 最強の偽善者だったら、未来はどうなるのかを。


「な、なぁ!? 俺はどうすればいい!? 何かできることとかあるか!?」


 黙っていた少年は、手を挙げる。

 3人は足を止め、顔を見合わせる。だが誰からも声は上がらなかった。


「とりあえず、報告ご苦労。もう帰った方がいいぜ」


 ベルクートが言った。


「へ?」

「ガーディアンでもねぇ亜人やら獣人やらがここに来るのは、普通はダメなんだ。殺される前にさっさと帰んな」


 そう言うと、ゾディアックとベルクートは店の出口に向かって歩き、外へ出ていった。


「なっ……」


 少年は目を見開いた。そして出ていくふたりの後姿を黙って睨みつけながら、拳を握りしめた。

 

★★★


 外に出たゾディアックは早速転移魔法を使おうとした。

 指を鳴らせばすぐに発動できるよう、術式はカスタマイズしてある。ゾディアックは右手の中指と親指の腹をすり合わせた。


 ベルクートはゾディアックの右肩に手を置き、ため息をついた。


「一応パーティだしな。最後くらい、手伝ってやる」


 言ってから、ベルクートは自分に呆れてしまった。

 今の状況は、騎士をやめることになった事件と瓜二つだ。また自分は、無駄な人助けをするのか。


 いや、人助けではない。ゾディアックとビオレに恩を売るだけだ。それだけだ。それだけが生きる道なのだ。

 無理やり自分を納得させたベルクートの耳に、ゾディアックが指を鳴らした音が聞こえ、目の前が白く輝いた。



お読みいただきありがとうございます。


次回もよろしくお願いします。

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