第49話「ダンジョン攻略」
「ヘカトン・ゲイル」と名付けられた、魔族と人間との百年に渡る戦争は、世界各地に深い爪痕を残した。
緑豊かな大地は荒れ果て、森林は植物が育たず枯れ木ばかりになった。
昔は栄えていた国は亡国となり、賑わいを見せていた街は死が充満する都になり、立派だった城は腐敗し、灰色に呑まれてしまった。
そう言った遺産には、モンスターが住み着いてしまう。モンスター達は自由に繁殖し、知能を持っている者は自分達の住処を作り上げてしまう。
そう言った住処のことを、ガーディアン達は「ダンジョン」と呼んでいた。
サフィリア宝城都市の近くにある蒼炎の森、そこからさらに離れた場所に、廃城「フーマ城」というダンジョンが存在する。昔は立派な城だったらしいが、今では所々穴が開いており、外壁が崩れ、色も黒か灰色に染まってしまっている。
ロウルの転移魔法によって、ビオレを含む4人のガーディアンはフーマ城の前に広がる、朽ちた庭園に到着した。
「ありがとう、ロウル。事前にポイント置いてくれてありがとうね」
「今日は引率ですから。こういった雑用や回復関連はお任せください」
どうやらリサーチ済みらしい。ゾディアックには到底及ばないが、ロウルも頼れるガーディアンといった雰囲気を纏っている。
「さぁ、さっさと片付けて帰るわよ」
「突入する前にさ、地図確認しとこーよ」
口元をマフラーで隠した盗人が地図を広げた。
「前、この任務に失敗したガーディアンから貰ったんだぁ、この地図。そんでねぇ、お目当ての物は地下にあると思うんだぁ」
「どうしてよ」
「見て見てぇ。城の地上内部、宝物庫までのルート、地下1階までは記入されているんだぁ。城の中はほとんど探索されているみたいだけど、ほらぁ。地下はまだ探索されてないっぽいしぃ」
「そう……ならさっさと地下に」
「あ、あの」
話を進めるふたりに、ビオレは話しかける。
「その、目当ての物っていうのは、セントラルが用意しているものなんでしょうか」
「えっとねぇ、それはねぇ」
「どうでもいいじゃない。そんなこと。とりあえず依頼品を取って帰る。それだけよ」
カルミンは冷ややかな視線を向けて答えた。盗人は「あらら」と言ってビオレを見ると、鼻で笑った。
ビオレは初めてセントラルに来た時のことを思い出した。周りの全員が、敵に見えたあの時のことを。
萎縮してしまったビオレはそれ以上なにも言うことはできなかった。
「さぁ、行くわよ」
カルミンを先頭に、4人は城の中へ足を踏み入れた。埃とカビの臭い、そして生臭さが鼻をつんざく。
全員が口元を押さえた。それほどまでの悪臭だった。
カルミンは周囲を見渡す。モンスターの姿はない。瓦礫にまみれたエントランスが広がるだけだ。
「用心して、みんな」
全員が表情を引き締め、城の中へと入っていく。
外はまだ明るい。なのに、城の中は月も星も見えない夜のような、暗闇に包まれていた。
★★★
剣術士は前衛であるため、カルミンが先頭を歩いている。
その後ろに盗人、弓術士であるビオレ、神官のロウルが続く。
地図を頼りに地下の階段を見つけると、カルミンは腰に付けたランタンに火を灯す。
「まーだそんな古い道具使ってるのぉ?」
「いいじゃない、ランタン。冒険してるって感じで」
「カルミンは子供だなぁ。ね、ビオレちゃん。そう思わないぃ?」
「えっ!!?」
突然のことに答えることができなかった。答えに窮しているとカルミンは乾いた笑い声を上げた。
「見てなさい。このランタンが活躍するところを」
「野犬とか出たら、お願いするよぉ」
盗人はそう言ってビオレに目線を向ける。
「私ねぇ、ミカって言うのぉ。よろしくね?」
「あ、はい。よろしくです」
「緊張しなくていいから、気楽にいこぉよ。引率の人もいるしぃ」
そう言ってロウルに視線を向けた。
「はい。援護は任せてください。ただ、勝手な行動は慎んでくださいね」
「はーい」
「わ、わかりました」
丁寧だが圧のある言い方だった。
4人は階段を降り、地図を頼りに道を進んでいく。ランタンの明かりだけでは心もとない暗さが広がる道中、鉄格子の部屋が並んでいる場所に出た。
「地下牢ですね。罪人を縛り付ける場所……愚かです。神はこんなこと、望んでいないのに……」
ロウルの悲しい声が地下に響く。そうして進んでいるうちに、地下へとつながる階段を発見した。
「あったわ。地下2階の地図はないわよね?」
「うんーだからサクサク探索しよぉ」
4人は階段を下りる。
ビオレは緊張と焦りで心が締め付けられながら、仲間の背中についていく。自分だけがなにもしていない。このままでは役立たずで終わってしまう。探索で役に立つところを見せなければと思っていた。
だが、そんなビオレのやる気も虚しく、2階の探索は徒労に終わった。
そもそも調べられる部屋が少なかった。ほぼ壁と道しかなく、道中の部屋は牢屋ばかりだ。
「敵影なしかぁ……」
「また階段よ。3階か……どこまであるのかしら」
そのままとんとん拍子に地下3階へ降りていく。
そこでビオレは違和感を覚えた。なにかがおかしい。
前のふたりに話しかけようか。いや、邪険に扱われるのがオチだ。であればロウルに。
「……神よ。迷える魂を救いたまえ……」
ぶつぶつとなにか呟いている。話しかけても声は返ってきそうになかった。
そうこうしているうちに3階にたどり着いた。二手に道が分かれている。
ミカが頭の後ろで手を組む。
「んー、2、2で分かれる?」
「いいえ。やめておいた方がよろしいかと」
ロウルは鋭く提案を蹴った。
「初めてのダンジョン攻略で、戦力の分散など自殺行為です。全員がベテランならまだしも、私以外はパール。ここでその行為を許してしまったら、私は主に叱られてしまいます」
「……主?」
「神様って意味だよぉ。うん、わかった、ロウルの言う通り行こぉ」
ミカは軽い口調で言った。
「……左から行きましょう。階段があったら地図に書きたしてちょうだい」
カルミンが先導し、一同は左の道を進んでいく。一本道が真っすぐのびている。周囲に部屋もない。
外れかとビオレが思うと、目の前に扉が見えた。
「入るわよ」
カルミンは武器に手をかけながら扉を開いた。
眼前に闇が広がる。カルミンがランタンを手に取り掲げると、周囲が微かに照らされる。床しか見えない空間だった。
「広い部屋かもしれないわね。ちょっと広がって、壁がないか探りましょう」
「矢を放ちましょうか?」
「いいえ。こんなところで本数を減らしたら、いざというとき大変よ。広いって言っても、壁ぐらいすぐ見つかると思うわ」
ビオレは渋々納得し、4人は互いに距離を取って歩き始める。
明かりはカルミンのランタンだけだった。仲間の影すらもう見えない。
ビオレの心には不信感が募っていた。
明らかにこの行動はおかしい。火持ちから離れるなんて。だが引率であるロウルは黙っていた。であれば、これは理にかなった動きなのだろうか。
この行為が正しいのかどうか、ビオレには判断できなかった。
ビオレは今度こそ仲間に呼びかけようと、口を開こうとした時。
突然、目の前が真っ暗になった。
一瞬なにが起きたのか理解できず、周囲を見渡す。ランタンの明かりが見えない。
「カルミン、みんなっ……!?」
焦りを隠せない声色でビオレは声を上げた。だが返事はない。ビオレは元来た道を戻ろうとした。
その時だった。
複数の慌ただしい足音が聞こえたと思うと、「バタン」、という音が聞こえた。
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