第46話「相談」
板チョコを割り、銀色のボウルに入れていく。本には砕いて入れるようにと書いてあったため、とりあえず適当な大きさに割っていく。
合計で4枚割り終わり、鍋で温めておいた生クリームをボウルに移す。甘い匂いがほのかに香り立つ。
ゾディアックはゴムベラで板チョコを溶かしながら混ぜようした。
私服姿で調理を行うゾディアックの隣で、興味深そうにロゼはボウルの中を覗いた。
チョコレートはまったく溶けてなかった。
「全然溶けませんねぇ……」
「……ねー」
「ん~、チョコレートが大きすぎたのかもしれませんね」
ゾディアックは力任せにチョコを混ぜていく。だが、変な硬さができてしまい、とろみがまったくない。
ゾディアックは肩の力を抜いてため息をついた。
「大丈夫ですよー! 全然失敗じゃないですから!」
「そう……かな」
ため息の理由はこれだけではない。
それを察知したロゼが、心配そうな顔をしてゾディアックを見る。
「ゾディアック様、元気ないですね」
後ろで手を組んだロゼが、上体を前に倒し顔を覗き込む。
「悩み事」
「なんですか? 私とのデート場所とか考えてくれているんですか!?」
「……ごめん、全然考えてなかった」
「うあ。そんな返しされるとショックです……」
ロゼは肩を落とした。
いったん手を止め、チョコレートを型に落としてみる。
理想は液体状のチョコが流れ落ちること。しかし現実は、固形のチョコがべちゃべちゃと落ちてしまう。
ゾディアックは落とすのをやめ、再びため息をつく。
「お悩みですねぇ」
「ああ」
「それならゾディアック様!! 私にいい考えがあります!」
ロゼは胸の中心に手を置き、得意げな顔をする。
「ロゼ様のお悩み相談室、開始です。今だけ無料ですよ」
「……次回からお金取るのか?」
「ん~……ゾディアック様だけは、年中無料です」
恥ずかしそうに、クスクスと笑ってそう言った。
その可愛らしさに、口元に自然と笑みが浮かんでしまう。
「じゃあ、使わせて」
「はい、どうぞ!」
ゾディアックはベルクートの話しをし始めた。相槌を打ちながら話を聞いていたロゼは、腕を組んで柳眉を逆立てる。
「アウトローが好む武器を売る、犯罪者かもしれないガーディアンの手伝い、ですか。たしかに借りがあるとはいえ、頷きは返せないですねぇ……それにしても、銃、ですか……」
「懐かしいな」
「ですね~。頭に銀弾食らった時は死ぬかと思いましたけど」
笑いながら言うと、真剣な眼差しでゾディアックを見つめる。
「それで? ただ銃が好きな相手ではないと」
「ああ。簡単に言えば、狂気のような、恐れのようなものを感じた。それにベルの銃は異質だ。明らかに。あれじゃあモンスターを倒すという目的よりも……」
その先は言わなかった。
「ビオレが帰ってきて早々、エンチャントの練習を始めたのはそれが理由だったんですね。多分、本能的に悟ったんでしょうね。銃の強さを」
ロゼは顎下に指を当てた。
「ベル……ベルクート・テリバランスが犯罪者である可能性もありますよね?」
「元って可能性もある。けど、多分それはないかな」
「まぁ確かに。いくらサフィリア宝城都市が”自由の国”とはいえ、前科があるガーディアンをセントラルで働かせるわけないですし。だいたい、ダイヤモンドなんていう上位ランクだったら、ここにいられませんよ」
言うことはもっともだった。
ガーディアン殺し。もししていれば、ベルクートは重罪犯だ。
ゾディアックは型に流されたチョコを見つめる。
「ベルは問題を抱えているのは確かだ。けど、悪人には見えないんだ。俺を手伝ってくれたし、宣伝云々を行うなら、もっといい方法があるはずだ。そもそも、銃の宣伝を頼むために、ドラゴンと命がけで戦おうなんてしない。恩を売るだけならビオレに装備を渡すだけでよかった」
「根は、ゾディアック様と似ているのかもしれませんね。正義のガーディアンとしての心を持っているのかもしれません」
ロゼは微笑みを浮かべた。
「ゾディアック様。相手を信じてみることをオススメします。相手は探しているのではないでしょうか。心を通わせる、仲間というものを」
「仲間……」
「一緒にいれば相手の本当の心も見えてくるかもしれません。悩むより、直感的に動いた方がよさそうですね」
ロゼは恥ずかしそうに頬を掻く。
「私を助けてくれた時、みたいに……」
それを聞いて、ゾディアックは頷きを返した。
まずは相手を信頼することから始めなければならない。
「ありがとう、ロゼ」
「いえいえ! お力になれたのであれば、私は幸せですよ」
はにかむ相手を、ゾディアックは優しく抱きしめた。
★★★
ゾディアックの自宅は何の変哲もない二階建ての一軒家だが、大きな庭があるのが特徴的だった。
狐顔の少年は、家の中にいるゾディアックに見つからないよう、家に近づき庭を見る。
そこには亜人の少女がいた。耳の形からしてグレイス族だと気づいた。
「亜人がなんで……」
はたと気づく。ドラゴン討伐を依頼してきたのは亜人の少女だったはずだ。
きっと任務以降、ゾディアックと仲良くなったのだろうと少年は思い、納得した。
紫色の髪をした少女は矢を持って、何か魔法を使っていた。緑色の魔力を纏わそうとしている。エンチャントだ。
「へたくそ」
少年は小さく呟くと視線を家に向けた。中にはゾディアックがいるのだろう。
何故、自分を見逃したのか。ガーディアンとは獣人を淘汰するべく生まれた存在ではない
のか。
納得のいく答えを知りたく、少年はゾディアックを訪ねようとした。
だが、もし合ったら、今度こそ殺されるかもしれない。
ここまでして合う価値が、果たしてあるのだろうか。そう思った少年は、家から視線を切り、その場から離れようとした。
その時だった。甘い香りが、鼻孔をくすぐった。
「何か用か?」
甲高い女性の声が聞こえた。悲唱を上げそうになりながらも振り向くと、赤黒いドレスを着た、金髪の女性がいた。
見た目は少女のようであったが、どこか大人びた、それでいて妖艶な雰囲気を纏っていた。
少年は、相手から視線を切れずにいた。
「獣人か。めずらしいな。迷子か? 何でもいいが、早く亜人街に帰った方がいいぞ」
その時、不可解なことが起こった。帰った方がいいぞ、という言葉が、なぜか後ろから聞こえたからだ。
少年は恐る恐る振り向く。
「夜は怖い鬼が出るぞ」
白い牙を判き出しにし、化け物の形相を浮かべた女性が、そこにはいた。
少年は悲鳴を上げると、全速力で逃げ始めた。
「え、うそ、速っ⋯⋯!?」
疑く間に点になっていく少年を見て、ロゼは素の表情を浮かべてしまう。ビックリさせるために作った顔が崩れたため、両頬をムニムニと揉みほぐす。
「いやぁ、いい反応。からかいがいのある子だ」
ゾディアックから追い返すように言われたロゼは、少年が駆けていった方を見ながらそう呟いた。
しかし、まさか亜人街に住む獣人が、ガーディアンに興味を示すとは。
「やっぱり、人を惹きつける魅力があるのかもしれませんね。ゾディアック様は」
満足そうに言いながら、少年の姿が見えなくなったのを確認すると、ロゼは鼻歌を奏でながら庭にいるビオレに話しかける。
三日月が、吸血鬼の美しい横顔を照らしていた。
お読みいただきありがとうございます。
ブックマークや評価(下の☆のやつ!!)、感想をいただけると作者のモチベーションアップにつながります。ぜひお願いします。
また、ブックマークや評価、感想をしてくださった方々、本当にありがとうございます。
面白い話を更新するよう頑張っていきます。
Twitterもやっているので、よろしければどうぞ。
→@narou_zinka
次回もよろしくお願いします。




