表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert2.ガトーショコラ
36/264

第35話「銃」

 ベルクート・”ザ・ヒート”・テリバランスがサフィリアに来てから、もう半年が経過した。

 今日も、街の活気あふれる声が窓の外から聞こえてくる。


「……もう1年か……」


 天井を見ながら呟いた言葉は、虚空へ消えていった。

 今日も悪夢を見た。あれだけ酒を浴びるように飲んだのに。研究に没頭しても、あの声が消えない。




 ――人殺し!!




 あの声がまた聞こえてきた。

 逃げるように目を閉じてみたが、どうやら瞼の裏には、あの女の泣き顔が焼き付いているらしい。


「いやな夢見せんなよ」


 ベルクートは苦笑いを浮かべ、額の上で両腕を組んだ。

 それだけで、あの声が薄れていくような気がした。


★★★


 この世界にはガーディアンと呼ばれる者達が存在している。


 昔は冒険者とも呼ばれていたその者達は、世界中を旅しながら、時に危険なモンスター討伐を行い、時に国の傭兵として働いていた。正式な職業などではなく、規律に縛られない自由主義者として活動していたため、それに憧れた人々は大勢いた。


 世界中に冒険者が溢れかえったころ、規律がないというのが仇となり、無法者のように暴れまわる者が多く出没し始めた。それをどうにかして収めようと、オーディファル大陸内を制圧しつつあったギルバニア王国が、「セントラル」という施設を作り、冒険者を管理し始めた。周辺諸国や別大陸の大国も同様の施設を設立し始め、無法者の冒険者達は数を減らしていった。


 それからというもの、冒険者になるためには、セントラルで試験を受け合格しなければならなくなった。合格した者達は「ガーディアン」という正式な職業を与えられるようになった。

 冒険者のころと違うのは、”管理されているかどうか”。それしか違いがない。そのため再び自由を謳歌し、旅を行うことができるようになる。


 だがそういった管理体制の仕組みが気に食わない元冒険者は、未だ世界各地に存在してる。そういった者達はガーディアンとは対になる存在として、「アウトロー」と呼ばれるようになった。

 



 ベルクートは元々、ギルバニア王国のガーディアンであった。だが、現在はそのアウトローに片足を突っ込んでしまっている。

 輝かしい功績を積んでいたが、ある任務の責任を取るため、ベルクートはギルバニア王国を出た。


 責任を取るため、というのは建前である。本当は逃げたかっただけだ。

 ベルクートは戒めのため、余所者を迎えてくれるサフィリア宝城都市に身を置いた。


 日々酒を飲み、惰性的な毎日を送っている中、ベルクートは亜人街(デミ・ストリート)にて”それ”と出会った。

 ”それ”とは、ある武器。


 ”銃”と呼ばれる、武器だった。

 

 近年発明されたばかりの遠距離型武器であり、まだまだガーディアンの間では浸透してはいない物だった。どちらかというと、アウトローが好んでいる武器であるため、ガーディアン達は毛嫌いしている部類の武器だ。

 生きる意味を無くしかけていたベルクートは銃に興味を示し、気晴らしに研究を始めた。最初はただの長筒だと思っていたが、調べていくと、この武器はとんでもない性能を秘めていることに気づいた。


 この武器がもし全世界で使われ始めたら、モンスターとの戦い方や戦争、すべてが一新される。

 魔力(ヴェーナ)を消費せず、簡単に、誰が使っても相手を殺すことができる武器。その気になれば、戦い方を知らない子供でも、甲冑を着た兵士を一瞬で殺せてしまう。

 まさしく革命的な武器だった。


 もし戦争が起こったら、剣と魔法で戦う時代が終わるかもしれない。

 ベルクートは銃の強さに感服し、魅力に取りつかれた。それから1年もの間、研究に没頭するようになった。自分で銃を作り、実際に使ってみたりもした。


 ――人殺し!!


 しかし悪夢だけは未だに見てしまう。まるで逃がさないと言っているようだ。

 今日も、あの声が聞こえてくる。


★★★


「銃と、ちょっとした機械類を売ってきちゃくれねぇか?」


 ベルクートに宿を貸している、ガンショップのマスターがそう切り出した。

 東地区にある建物の2階の喫茶店だった。キャラバンの宿泊施設が近いため、その職員達がよく訪れる場所でもある。


「なぜ俺に?」


 ベルクートの視線はマスターに向けた。


「経営が厳しいのか?」

「ちげぇよ馬鹿。ただ、もっとガーディアン達に銃の魅力を知ってもらいてぇのさ」

「……つまり、経営的に厳しいってことだろ」

「やかましいわい。こっちだってな、お前にこんなお願いするのが情けなくてしょうがねぇ」


 マスターは皺まみれの顔を歪め、白髪だらけの短い髪をガリガリと掻いた。ベルクートは眉をひそめた。


「俺さ。こう見えてもガーディアンなんだけど」


 肩をすくめて言うと、マスターはハッと笑った。


「なにがガーディアンだ。1年以上うちでただ飯食って、部屋にこもって銃いじってるだけじゃねぇか。ちっとは働け。お前俺にタメ口叩ける立場じゃねぇんだぞ」

「依頼ということか?」

「そんなたいそうな物じゃねぇ。”命令”だ。恩を返せって言ってんだ」


 言い方は荒いが、決しておかしなことを言っているわけではない。むしろマスターの言っていることは真っ当だ。

 コーヒーを飲んだベルクートは一度頷く。


「ガーディアンがキャラバンの真似事……か。俺にはちょうどいいな。引き受けるぜ、マスター」

「よし。商品はこっちから適当に出す。それほど量は出せねぇ。その代わり全部売って来いよ」

「ああ」

「あと、売上は全部店のだ。ネコババしてもバレるからな」


 ベルクートはすんと鼻を鳴らした。

 マスターは灰皿に置いてあった煙草を手に取る。


「じゃあ、誰か手伝ってくれる奴を探しな」

「……いや、俺だけでいい」

「なんだよ。寂しいこと言うじゃねぇか。知人がいねぇなら、誰か人を出してやるよ」

「ひとりでやる」


 ベルクートはぴしゃりと言い放ち、空になったカップを見つめる。


「無能な仲間と一緒に仕事しても、ろくなことにならねぇだろ?」


 そう言うと、ベルクートは伝票を持って立ち上がった。


★★★

 

 すべての準備を終えると、馬車に荷を乗せ、マーケット・ストリートを目指した。

 ベルクートは少し心を躍らせていた。これはガーディアンや市民達に、銃の魅力を伝えることができる絶好のチャンスでもある。


 もし、この国にいるというランク・タンザナイトのガーディアンに銃の魅力を伝えることができれば、瞬く間に話題が広まるだろう。

 ベルクートは期待を胸に抱きながら、ゆっくりと馬車を動かし始めた。




お読みいただきありがとうございます。

少し遅れてすいませんでした。


ブックマークや評価をしていただけると、作者のモチベーションにつながるため、ぜひしていただければと思います。

感想とかも、書いていただければと思います。新章だから。ガトーショコラ大好きな人来て。ちなみにガトーショ(以下略


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ