第34話「ビオレとラミエル」
いつもの装備に着替えたゾディアックは、玄関へと向かう。
「あ、ゾディアック様、セントラルに行くんですか?」
「ああ」
「……あの子、受かってますかね?」
ゾディアックは兜の下で笑みを作った。
「大丈夫さ。ふたりで帰ってくるよ」
「はい、いってらっしゃいませ」
ロゼは元気にゾディアックを送った。
★★★
セントラルの扉を開けると、ひとりのガーディアンがゾディアックの前に立ちはだかった。
「ゾディアックさん! 俺の師匠になってください!」
ゾディアックが首を傾げると、ガーディアンは顔を上げた。
「ドラゴンの戦い見ました! どこで剣術を習ったんですか!?」
「……あ、あれは、我流……というか、オリジナル?」
相手は感嘆の声を上げた。
「是非剣術を教えていただきたく」
「ま、待って。教えるから……今度でいい、かな。先約がいるんだ」
「あ、そうなんすね。了解です! じゃあ明日くらいにお願いします!!」
ガーディアンは顔を明るくして席に戻った。
あの戦い以来、ゾディアックの評価は若干上がっていた。
ソロとしての強さがステーションに乗ったため、セントラル内のガーディアンが、こぞってゾディアックに話しかけて、剣術や魔法を教わろうとしていた。
ただ、あまりパーティには誘われていない。今度は実力差がありすぎるということがわかったため、誘いづらいらしい。
加えて性格はそのままであるため、ゾディアックを知っている者はいい顔をしていない。
「マスター!!」
どうしたものかと悩んでいると、声がかかった。視線を向けると、そこにはビオレが立っていた。
黒いニットセーターにチェック柄のショートパンツ、そして黒いニーソックスにショートブーツを履き、キャスケットを被ったビオレが立っていた。
紫色の髪は、後ろが短く切られ、片方のもみあげが長い。ショートヘアをアレンジしている髪型に変わっていた。
ずいぶんと雰囲気が変わったビオレは、帽子を取って嬉しそうな顔を向けた。
「やりました! 私、ガーディアンになった!!」
嬉しそうに言って、腰の矢筒にしまった証明書を取り出した。鞄に入れろとツッコミたくなったが、その前にビオレの首元に光る、真珠のネックレスが目に留まる。
それは、ランク・パールの証。”駆け出し”と呼ばれる、ガーディアンとして生まれたばかりの者に与えられるアクセサリーだった。
「おめでとう」
ビオレは白い歯を見せて帽子を被る。
「さぁ、マスター!! 早速任務に行こ!!」
ビオレはゾディアックの手を引っ張る。
住む場所を手に入れるまで、ビオレはゾディアックとロゼの家で住むことになった。その際、こんなことを言ってきた。
「私がガーディアンになったら、ゾディアックさんのことを「マスター」って呼んでもいい!?」
どうやらビオレのいた村では、先生のことをマスターと呼ぶこともあったらしい。
恩人でガーディアンとして先生のゾディアックのことを、彼女はこう呼びたがっていた。
ゾディアックは了承し、結果として「マスター」と呼ばれるようになった。
ビオレは掲示板に向かい、ゾディアックと相談して依頼書を手に取る。
そしてそのまま受付へ。
「よぉ。おふたりさん」
レミィが煙を吐き出し、煙草を灰皿に押し付ける。
「レミィさん! 私、ガーディアンになったよ!」
「ああ、おめでとう。試験官の奴が言ってたよ。「優秀な弓術士が来た」ってな」
レミィは両手を広げた。
「さ、依頼書を見せてくれ」
ゾディアックは依頼書を見せた。受け取ったレミィは目を丸くした。
「え、スライム討伐? またか」
「……ああ。ラムネゼリーが欲しいんだ」
ゾディアックは言った。
「デザート作りに、必要なんだよ」
ビオレはクスクスと笑った。
「何言ってんだか」
レミィは肩を竦めた。
そのまま手続きが進み、ビオレは初めての任務を受注した。
「では、確かに依頼を受注致しました。お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
レミィが立って、綺麗なお辞儀をして言った。
ふたりは返事をし、セントラルの出口へ向かう。
「さぁ、気合い入れていくぞー!」
「あまり、力を入れすぎるな」
ビオレはニッと笑う。
「ううん。力入れてく。だって……」
ビオレは自分の背中にある、弓を見た。
「私と”彼”の、晴れ舞台だもん!」
そう言って前を向き、セントラルの扉を開けた。
真紅のドラゴンの素材から作られた武器。
ビオレの武器でもある紅蓮の弓『ラミエル』が、太陽に照らされ、赤く光り輝いた。
Dessert1.パンケーキ Completed!!




