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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert1.パンケーキ
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第31話「任務完了」

 ウェイグの額には青筋が浮かんでいる。

 いつも一緒にいる、メーシェルとロバートの姿はなかった。


「おい、てめぇら! 騙されてんじゃねぇぞ! こいつはな、そのガキを餌にしてドラゴンを倒したんだよ!」


 ウェイグはゾディアックを指差して言った。

 レミィは呆れたようなため息を吐く。ビオレは哀れむような視線をウェイグに送る。

 周りにいたガーディアン達も、似たような反応を示した。


「て、てめぇら聞いてんのかよ!!」

「……落ち着け」


 ゾディアックが静かに言うと、ギロリとした目を向ける。


「あぁ!? 何、なんだよ。調子こいてんのか!? どうせいつも通り、言葉足らずにそのガキとか仲間動かして、ドラゴンの餌にして安全に狩ってただろ! 俺は見てたぜ!?」

「私が餌だったら、もうここにいないよ」

「俺なんて真っ黒焦げだぜ」

「私は逃げてますねー」


 ゾディアック以外の3人が淡々とした口調で言うと、周囲から微かな笑い声があがった。


「ざけんな、クソガキ。お前は、ゾディアックのパフォーマンスに付き合わされただけだ。だいたい、あのドラゴンもお前の仕込みなんじゃねぇのか!? 友人とか言ってたもんな? 村の連中焼いたのも自作自演か?」

「……あなたじゃあるまいし、そんな意味不明なことしないよ」

「信じてなかったくせに、都合のいいこと言ってんなぁ」

「鳥頭なんですかねー、あの人」


 先ほどよりも大きな笑い声が上がった。


「いいぞー! 嬢ちゃん!」

「もっと言ってやれ」

「あの金髪刈り取っちまえ!!」


 どこからか野次まで聞こえる。

 ウェイグはわなわなと震え、まだ声を出そうとした。


「……上等だよ。痛い目見ねぇとわかんねぇらしいなぁ」

「なぁ、ウェイグ!!」


 突然、レミィが大声で呼びかけた。手には、アンバーシェルが握られていた。

 ウェイグが驚いた表情を浮かべ、全員の視線がそちらを向く。


「痛い目見るのは、お前だぜ」


 レミィはアンバーシェルを操作した。




『いやぁ、流石だぜ。ゾディアック。正直言って見直したわ。たったひとりでガキ守って、こんなドラゴンを倒しちまうなんてよ』




 店内に音声が響き渡った。

 それを聞いた瞬間、ウェイグの顔が青ざめた。


「お、おい」

『このドラゴンの素材で、金は解決って話だ』


 音声は続いている。


「ちょ、ちょっと待てよ」

『素材はちょいと奪って……いや、お裾分けを頂いてくぜ?』

「そんな嘘の音声で」

「映像もあるぞ? 見るか?」


 レミィはアンバーシェルをひらひらと振って見せた。

 画面には、ゾディアックの後ろ姿、傷つき倒れているラミエルに寄り添うビオレ。そして、下品な笑みを浮かべるウェイグと、その仲間が映っていた。


『なんとでも言え。隙見せる方が悪いんだよ』


 ウェイグの顔が一気に青ざめた。

 レミィがふんと鼻を鳴らし、こめかみを指先で叩く。


「ドラゴン殺した相手に喧嘩売るたぁ、というか、動画が出回っているのに……お前、脳味噌足りてないんじゃないか?」

「な、な、な」


 口元が戦慄(わなな)いているウェイグに向かって、ビオレがビシッと指さす。


「隙見せる方が、悪いんだよ」


 ビオレは力強く言った。

 ウェイグは目を血走らせ、バトルアックスを取り出した。


「ぶっ殺してやる!!!」


 瞬間、ベルが素早くウェイグの懐に飛び込み、腰を抱えてウェイグの体を倒した。

 そして、武器を持つ手を締め上げた。


「て、てめぇ……!?」

「こんな場所で抜くんじゃねぇよ、馬鹿野郎」

「は、離せ!! くそ!!」

「やだね」


 さらに強く締め上げると、ウェイグが痛みで顔を歪めた。


「ハイエナ行為も、セントラル内で武器を扱うのも、重罪ですよ~」


 ラズィが近づき、ウェイグの鼻先に杖を突きつけた。


「うるせぇ!! おい、クソ亜人!! 根暗騎士!! いつかぜってぇ殺してやるからな!! 死ね!! クソ共が!! 覚えてやがれぇ!!」


 ビオレは腕を組んで顎を上げる。


「覚えておかない。だって、あなたブサイクだし、好みじゃないもん」


 それを聞いてレミィが、大口を開けて笑った。ウェイグは顔を真っ赤にしたが、それ以上はなにも言わなかった。代わりに、バトルアックスを手放した。


「おら、立てよ」


 ベルがウェイグを立たせ、ゾディアックに視線を向ける。


「こいつの処理は任せな。任務報告は、そっちで終わらせてくれ」

「ああ」

「ありがとよ。楽しかったぜ」

「あ、ベルさん。私も手伝いますよー。ゾディアックさん、今回はありがとうございました」

「……いや、こちらこそ」


 ふたりはウェイグを連れてセントラルの出口へ向かった。

 ゾディアックはふぅと息をついて、どうだと言わんばかりの顔を浮かべているビオレをなだめた。


★★★


 映像と音声を撮るというのは、事前から決めていた。

 ドラゴンと戦う様子を見せたいから撮ろうと決めたわけではない。


 ドラゴン討伐という絶好のネタに、一部のガーディアンが飛びついてくるかもしれないと考えたゾディアックは、ビオレを家に泊めた夜、ロゼと作戦を立てていた。


 アンバーシェルの機能には録音・録画機能が備わっている。アンバーシェルをかざすだけで、目の前の風景をすべて端末に保存することができる。

 ゾディアックはそれを利用して、ハイエナ連中が来たら捕らえようと考えた。モンスターの素材を横取りするハイエナや、任務を仲間任せにする寄生職(パラサイト)は犯罪であり、最悪ガーディアン権利が剥奪されたりする。


 作戦はベルとラズィはもちろん、レミィも巻き込んでいた。連絡先をなんとか聞き出し、録画した動画を、昨日のうちに送信しておいた。


 自身が録画したものを見せても、口喧嘩が苦手であるため、上手く言いくるめられる可能性が高いとゾディアックは判断し、レミィを頼った。


 セントラルのレミィがその動画を出せば、影響力はまるで違う。

 ひとりぼっちで有名な最強のガーディアンより、セントラルで働きながら数多のガーディアンから信頼を得ているレミィの方が、信憑性は増すというものだろう。


 その考えは功を奏した。


「へっ。ざまぁみやがれ。全世界に拡散してやらぁ」


 レミィは怒り心頭らしく、動画を拡散しようとしている。

 これで少なくとも、サフィリア宝城都市内でウェイグのハイエナっぷりが露呈したことだろう。


 ゾディアック個人はここまでする気はなかったが、止める気もなかった。

 

「レミィ、さん」


 レミィがゾディアックを見る。


「ありがとう……あなたは、いい人だ。本当に、助かりました」

「おいおい。いいよ。お礼なんか。むしろこっちこそありがとうだ。スッキリしたからな」


 はにかむ笑顔を見せると、ゾディアックはふっと笑った。

 それから報酬を渡し、エミーリォが夕方に戻ることを伝えると、手続きは終わった。


 同時に、ふたりは多くのガーディアンに囲まれた。たどたどしく話しながら、出口を目指している。

 引っ込み思案には地獄だなと思いつつ、レミィはその背中を見つめ続けた。


 ゾディアックを見た時、不気味な奴だと思っていた。

 だが実際は、正義の心を持った、強く、そして優しいガーディアンだった。

 まるで自分の理想ともいえるガーディアンではないか。


 レミィは、自分の心が高鳴るのを感じた。

 頬が緩んでいるのを感じ、レミィは両手で顔を挟む。


「……やっば、私」 


 違う。頬が、熱い。

 自分は、ゾディアックのファンにでもなってしまったのだろうか。

 

 小さく呟き顔を伏せる。

 また明日になったら会えるだろうか。

 レミィは気を引き締めるため、両手で頬を叩いた。

 

★★★


 セントラルを出て、西地区に繋がる橋の上を歩いていたときだった。


「あの、ゾディアックさん!」


 ゾディアックは立ち止まり、振り返る。


「ありがとうございました。本当に、助かりました」

「……いや」

「……あの、お世話になりました」


 ビオレが頭を上げる。


「これ以上、一緒にいる理由がないですし、ご迷惑になると思います……だから、ここで」

「帰る場所、あるのか?」


 ビオレは唇を噛み、頭を振った。


「……ロゼが、料理を作って待っている。なぜか、量が多くて、ひとりじゃ食べきれない、ような気がする」


 ビオレはゾディアックを見つめた。


「……西地区は、空き家がいっぱいある」

「……でも」

「だから」


 ゾディアックは言葉を続けた。


「ガーディアンになって、金を稼いだら、家を買えばいい。それまでの寝床は……提供するし、任務は……俺と一緒に、こなしてくれると、嬉しい」


 なんともたどたどしい言葉だった。


「……だから、そうだな、えっと……俺と……パーティを組んで、欲しい……」


 消え入りそうな、勧誘の声だった。


 それを聞いたビオレは一瞬驚き、白い歯を見せて笑うと、大きく頷いた。



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