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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert1.パンケーキ
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第30話「報告」

『礼を言おう、ビオレ・ミラージュ』


『お前は誇り高い、自然の民、グレイスの守り神よ』


『許せ。ラミエルを救えなかった私たちを』


『どうか、この先のあなたの未来が、健やかであるように。祈っております』


★★★


 目を開けると、青い空が見えた。

 心地いい風が頬を撫で、ビオレは上体を起こした。次いで周囲を見渡す。

 黒い焦げ跡と灰と化した森が見え、白い欠片が周囲に散らばっている。


 この場所が緑色が眩しい森だと、友人との思い出の場所だと理解するのに、ビオレは少しだけ時間を要した。


「おはようございます~、ビオレさん」


 声をかけられ振り向くと、ラズィが笑みを蓄えて立っていた。そして、記憶が戻ってきたビオレは、緊迫した顔でラズィを見た。


「あ、あの!! ゾディアックさんは!?」


 ラミエルと死闘を繰り広げた騎士の安否が気になった。あれだけ激しい戦闘をしたため、絶対に無事であるわけがないのだ。

 焦るビオレの前に、ラズィが人差し指を立てる。


「帰ってきましたよ」


 そう言って、ビオレの後方に指を差した。ビオレの視線は、差された方に向けられる。

 鎧を着たゾディアックと、煤だらけのベルが姿を見せた。


「ゾディアックさん!!」


 ビオレは立ち上がり、ゾディアックに駆け寄る。そして、その大きな体に抱きついた。


「あれ、俺は?」


 ベルが自身を指差すが、反応はなかった。


「ゾディアックさん、大丈夫ですか!? 生きて……」

「大丈夫。五体満足だ」


 ゾディアックが兜の下で微笑むのが見えた。


「……強かった。もし、ラミエルが手加減してくれなかったら、やられていたかもしれない」

「あのラミエルって奴、あれで手ぇ抜いてたのか?」

「本当に強い、誇り高いドラゴンだったんだ」


 ゾディアックはビオレを見つめる。たくさん涙を流したせいだろう。目元が赤くなっている。

 漆黒の小手で守られた大きな手が、ビオレの頬を優しく撫でる。


「帰ろうか」


 4人が一か所に集まり、ビオレは頷いた。


★★★


 サフィリア宝城都市に戻ったのは、昼前だった。

 ラミエルと会ったのが夕方だとすれば、丸一日近く、あの場所で休んでいたことになる。

 見張りをしていたラズィが、「休む時くらい鎧外しましょうよー」と言っていたが、手に持ったアンバーシェルを見て、ゾディアックは鎧を着たまま一夜を明かした。


 サフィリア宝城都市に戻ったあと、4人はセントラルの前にいた。

 中から騒々しい音がする。今の時刻は、セントラルが一番混む時間帯だ。


「……行くぞ」


 どんな視線が押し寄せてくるのか。不安に駆られながら、ゾディアックは扉を開け、4人が中に入る。


 セントラルに足を踏み入れたと同時に、中にいたガーディアン達の視線が、一斉に4人に注がれた。あまりの視線の多さに、ビオレはゾディアックの影に隠れた。


 静寂が響き、セントラルのドアが閉まった瞬間。


 店内が、揺れ動くほどに湧き上がった。


「おい、マジでドラゴン倒してきたぞ、あいつら!!!」

「やっぱすげぇんだな、タンザナイトって!!」

「本当に強かったんだな。見直したぜ、正直」


 数人のガーディアンがゾディアックに近づく。


「ブルーローズの掲示板見たぞ! あんたらの話しで持ちきりだ!!」

「ユタ・ハウエルで急上昇1位だぜ! マジのドラゴンとの戦闘動画なんて、今までなかったからありがたいよ」


 ひとりのガーディアンが、ビオレの前に膝をつく。


「嬢ちゃん。頑張ったみてぇだな。この前は悪かった」

「……え、い、いえ」


 周囲からどんどんと声をかけられる。


「ゾディアックさん! 握手してください!」

「だから言ったろ! すげぇ奴ほど無口なんだって!」

「ラズィちゃーん!! おかえりー!」

「あの緑色のおっさん誰だよ」

「知らねぇ……」


 波のように声が飛び込んできた。ゾディアックはあたふたしながら周囲を見渡し、相槌を打つだけだった。それを後ろで見ていたベルとラズィは口元を隠して笑った。


 ドラゴンとの戦闘とその結果を、ゾディアックは昨日の間にセントラルに報告していた。そして、ベルとラズィがドラゴンの映像を記録し、ブルーローズの掲示板と、ユタ・ハウエルに動画を投稿した。


 討伐結果とドラゴンの姿。ふたつの事実から、サフィリアのガーディアン達は、ゾディアックがドラゴンを仕留めたことを知ったのだ。


 若い男のガーディアンがゾディアックに近づき、アンバーシェルの画面を向けた。


「この火の球ぶった切ったシーン! 痺れました!!!!」


 目を爛々と輝かせながら、男は何度も頷いている。というより、泣いている。


「……えっと、あの通して」


 そろそろ限界に来たゾディアックがそう言うと、道を塞いでいたガーディアンが「通してやれ!!」「レミィに顔見させてやれ!」と言って道を開けさせた。


 ゾディアックとビオレは、今までとは違う視線を浴び、困惑しながら受付まで行く。

 煙草を咥えたレミィが、シャーレロス族特有の猫耳をピンと立たせ、顔を上げた。


「よぉ、黒光り野郎と愉快な仲間たち」


 その顔は嬉しそうだった。

 ゾディアックも兜の下で苦笑いを浮かべる。


「た、ただいま。レミィ、さん」

「た、ただいまです」

「愉快な仲間そのいち、おっさんです。ただいま」

「その2のラズィさんです~。ただいま帰りましたー」


 たどたどしい挨拶と、ふざけた挨拶を聞いて、レミィは噴き出した。


「おかえりなさい、ゾディアック、ビオレ。そして、ベルとラズィ。本当無事でよかった」


 レミィは立ち上がり、赤毛の尻尾を垂直に立たせながら、満面の笑みを浮かべて4人に頭を下げた。

 そして顔を上げると、安堵からか、目が涙で(うる)んでいた。


「泣いてるぜ、あの嬢ちゃん」


 ベルが言うと、レミィはハッとして目元を拭い、喉を鳴らした。


「さっそくで悪いが、討伐内容の確認だ。しっかりドラゴン討伐してきてくれたな。アンバーシェルを見りゃわかるし、大量の結晶も確認できた」


 レミィは両手を広げる。


「このセントラル、この国……そして、この世界全員が証人だ」


 後ろからガーディアンたちが歓声を上げたり、口笛を吹く。


「んで報酬は……」


 レミィはテーブルに布の袋を置いた。ビオレが持ってきた、宝石が入った袋だ。


「一応鑑定士に見てもらってな。金額が決まったよ」

「……いくらだった?」

「聞いて驚くなよ」


 レミィが袋を指差す。


「1000億ガル」

「「「「えぇっ!!!?」」」」


 4人の声が重なり、ゾディアックは目を見開いた。ドラゴン討伐で支払われる報酬は、100億~500億ガルが相場だからだ。


「な、なんで?」

「中に入ってた宝石やらは、全部合わせても50万にもならなかったんだけどさ。ただ、これがダミーでよ。この袋に価値があったんだ」


 レミィが袋を持ち上げる。


「エスパシオボックス。聞いたことあるだろ」


 ラズィがずいと前に出て、袋を見つめた。


「……異次元に繋がっている、特殊な魔法道具(マジックアイテム)の名前ですね~。持ち主の思想に合わせて形状を変化させるという効果を持っていますー……」

「そう。この袋は、”唯一量産ができなかった魔法道具(マジックアイテム)”だ。制作者は死亡し、この世に残っているのは5つとない、言わば”秘宝(ひほう)”だ。正直言って1000億以上の価値がある道具だよ」


 レミィはビオレを見て微笑む。


「君は、とんでもない宝物を受け取ったんだな」


 ビオレの脳裏に、父の顔が思い浮かんだ。

 嬉しくなった。父はずっと、身を案じてくれていた。

 例えセントラルに行かずとも、生きていけるような道具を託したのだ。

 ビオレは笑みを返した。


「で、どうする?」


 レミィはビオレに聞いた。


「どうする……って?」

「1000億受け取るか、この袋……エスパシオボックスを報酬とするか。1000億は、時間はかかるが用意できる。だけど両方は無理だ。答えるのはゾディアックでもいいが、どっちが欲しい?」


 ビオレは3人に目を向けた。


「……大事な方を取るんだ」


 ゾディアックがそう言うと、残ったふたりも頷いた。


「……うん!」


 ビオレは形見でもある袋を手に取った。

 レミィは答えがわかっていたかのように、満足そうに頷いた。

 ゾディアックはレミィを見る。


「あと、素材は」

「わかってる。爺が、早速準備して転移魔法(テレポ)で向かった。ドラゴンの素材はセントラルが責任をもって回収する。だから今は、とりあえず休みな」

「……ああ。ありが……」





「黙れクソ野郎!!!!!」





 感謝の言葉を述べようとしたとき、後ろから怒声が上がった。

 振り向くと、目を見開き、顔を真っ赤にしているウェイグが、荒い呼吸を繰り返しながら立っていた。



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