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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Last Dessert.ショートケーキ
263/264

「The AfterSky」

 受付で部屋番号を聞いた後、ラズィは階段へ向かっていた。部屋は4階にある。

 昇降機を使いたかったが、今は医療関係者専用となっているため、見舞客が使うことはできない。

 階段を上っていると看護師と、回復魔法が得意な魔術師(マジシャン)のガーディアンと擦れ違った。二人は擦れ違いざまにラズィの姿に気がつくと小さく頭を下げた。ラズィも会釈する。

 あの一件以来、自分の顔と名前が売れたような気がする。個人的にはあまり活躍してなかった気がするが。

 あまり目立つのは好きではないと心の中で愚痴っていると4階に着く。廊下を進むと、目的の病室の前に人影があった。


「よぉ、ラズィちゃん」


 壁に背を預けていたベルクートは片手を上げた。


「先に来ていたんですね」

「おう。ラズィちゃんは? 治療の方は大丈夫なのか?」

「ええ。凍傷が酷かったのですが、もう治りました。あなたより軽症だったので」

「はっ。そりゃよかった」


 松葉杖をつきながらベルクートは笑った。

 ガギエル討伐の報を受け取った住民たちは、すぐにサフィリア宝城都市に戻ってきた。「ラビット・パイ」と無事だったガーディアン、そして数多くのキャラバンの支援もあって、4日経った今では以前と変わらない賑やかな光景が広がるようになっていた。

 当然爪痕も酷く、特に西地区と亜人街の被害は甚大だった。ガギエルの氷自体は溶けているのだが、大暴れしたことを物語る凄惨な爪痕は隠せない。


 だが、それで亜人たちを外に出すのか、別の地区に住ませるのかというとそうではなかった。国全体の支援で、現在西地区と亜人街の再建が行われている。亜人に支援ということでかなりの反対意見もあったらしいが、兵士団長であるエイデンが王族に協力を促したことで許可と資金が降りたらしい。


「命を懸けてこの国を守った彼らと、戦いもせずすぐさま逃げ出してのんびりと他国で暮らしていた君たち。どちらの意見を尊重するかは明白だろう。サフィリア宝城都市は亜人を支援する。それが王の決定だ」


 まさかヴィレオンを通じてエイデンがこのような宣言をするとは思わなかった。反発の声もまだあるが、日々弱まっているとのことだ。

 

 そして、戦いで負傷したガーディアンたちと以前の患者が各地区にある病院に運ばれた。戦いに参加した者は率先して北地区の一級の施設へと送られ治療を受けている。亜人などの区別もなく、だ。

 死者の数は奇跡的に少なかったが、負傷者の数は尋常ではなかった。エミーリォが商売が再開できるのはしばらく後かもと嘆いていた。

 ベルクートとラズィも北地区の病院へ運ばれていた。酷い凍傷だったが、何とか動けるまでは回復した。


「足」

「ん?」

「足の方は、大丈夫なんですか?」

「切断一歩手前だったけど、なんとかなったよ。ようやく感覚が戻ってきたんだ」


 そう言って、両腕が包帯だらけのベルクートは笑った。

 ラズィは微笑んで病室の前に立つ。


「サンディの件は」

「大丈夫です、ベルクート」


 言いづらそうにしている彼に、笑みを向ける。


「何から話せばいいかは、決まってるから」

「……面会の時間、10分だからな」


 ラズィは頷き、扉を開ける。心地いい風が入り込んできた。

 病室にゆっくりと足を踏み入れ、ベッドの上で起きている彼女を見る。


 この病院に運ばれた時、すでにサンディは助からないと判断されていた。

 だが皮肉なことに、ガギエルの召喚に使われたせいか、はたまたディアブロ族という種族のおかげか、体内の魔力が活性化した。

 その結果。低体温症で両足が動かなくなったかわりに、サンディは目を覚ました。

 そのサンディが、ラズィを捉えた。


「……ラズィ」


 ずっと聞きたかった。姉からの声。そして、口許に浮かんだ小さな、慈愛に満ち溢れた笑みを見た瞬間。

 ラズィの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。




★★★




「それで、お前たちはまだ滞在しているのか?」


 奇跡的に無事だったが、天井が半壊したアイエスの中でブランドンはヨシノに聞いた。


「ええ。あと一週間ほどは」


 椅子に座ったヨシノが口にグラスを運ぶ。中身はこれまた無事だった葡萄酒である。


「ご安心ください。ここを借りる代わりに街の復興のお手伝いはしますので」

「ああ。頼りにしているよ。クーロンの助けのおかげで、ルーもクロエも満足そうだ」

「それはなによりです」


 ヨシノは少し離れた位置に座る男に目を向ける。


「さて、どうしますか? あなたは」

「……」


 椅子に座っていたセロは、顔を上げた。


「功績が認められせっかく牢屋から出られても、どこにも行くあてがないのでしょう」

「……そうだよ」

「だったらどうします? この国では生きられないでしょう?」


 そう言いながら、手を差し伸べた。それはもはや答えが決まっているようなものであった。

 セロは鼻で笑って立ち上がる。


「行ってみるか。スサトミとかいう場所に」


 右足に義足を装備したセロは、慣れない足取りでその手を掴もうと手を伸ばした。




★★★




 レミィは頭を抱えて資料を睨みつけていた。

 ガーディアンの活躍は称えられているのだが、容赦なく関係各所から請求書や被害届が殺到している。どうやらガギエルの仕業だけでなく、火事場泥棒的な輩も多く出ていたらしい。


「兵士がこういうの担当しろよ」


 愚痴を言っても誰も反応しない。セントラル内では職員と、数は少ないがガーディアンたちが忙しなく動き回っていた。

 モンスターの盗伐や先の泥棒の件をこなそうとする者、ガーディアンから話を聞いて被害や人員の確認を行う者、セントラルの今後についてなどの話し合いが行われている。

 溜息を吐いて資料を捲っていると、隣に資料の山が置かれた。


「所属しているガーディアン達の情報です。病院にいるかどうか、治療中かどうかの確認もお願いします。自分も手伝いますけど」


 マルコがレミィの隣に座った。


「いいのか、お前? 店の準備は」

「もうあらかた終わってますからね。ゾディアックさんとフォックスくんとベルクートさんがすごい勢いで準備終わらせちゃって」

「結局メニューはどうするんだ」

「まぁ以前話していた通り、自分の知識をふんだんに使って、かつこの国にも受け入れられるようなものを選定しました。あとゾディアックさんたちが作れるような物を」

「じゃあ厨房のリーダーはお前か」

「ええ。戦いでは役に立たないですけど、お店を守ることなら任せてください!」


 マルコが白い歯を見せた。


「じゃあ私の方を手伝う理由はなんだ? 別にいらないだろ」

「いえいえ。レミィさんはいりますよ。だって、ほら、その……」

「あ?」


 マルコは照れくさそうに頬を掻いた。


「き、綺麗な方がいるお店って、こう、人気出やすいんですよ」

「……私以外にいるだろうが」

「お、俺的にはレミィさんが一番綺麗……だと思うので」


 頬を赤らめながらマルコは言い切った。レミィは少しだけ目を開き、噴き出した。


「ありがとう、マルコ」


 心の底から出た純粋な礼に、マルコの顔はますます赤らんでいった。




★★★




「おう! 明後日に開店だから! この街元気にするために師匠が体張るからよ、絶対来いよ、ジルガー!!」


 ジルガーへの通話を切ると、フォックスは庭にいるビオレを見た。

 フォックスが縁側に腰掛けてから数十分もの間、ビオレは微動だにしなかった。何かを考えているのは明白だった。


「何悩んでんのお前?」

「……別に悩んでないよ。ただ」


 ビオレは手に持っていた(ラミエル)を見つめる。

 矢を放ったあの時、魔力が肥大化し形がドラゴンになっていく間、弓は光り輝いていた。おまけに確かな熱も発していた。そのせいでビオレの右手は大きな火傷を負っていた。


「ラミエルは、生きているんだなって思って」

「そうなのか? あのエンチャントが形を変えたの。あれ魔法だろ」

「私は唱えてないよ。無意識に使ったわけでもない。別の意思があって形を変えたんだ。私の親友が助けてくれたの。ずっと……ずっと一緒に見守ってくれていたんだね」


 愛おしそうに弓を持ち上げる。ビオレの横顔は家族に会えたような、心の底から好意を抱く相手に向けるような、そんな笑みを浮かべていた。


「……弓見つめてニヤニヤすんのもいいけどさ。カルミンたちのお見舞い行けよ? 暇すぎてしょうがないらしい」

「はいはい。そっちこそ、夜遅くまでミカさんの所にいるのは危険だからやめておいた方がいいよ」

「馬っ……!! うるせぇよ!!」


 二人の声が庭を彩る。その声はリビングにも聞こえてきた。


「元気ですねぇ、あの二人は」

「元気すぎないよりはマシだよ」

「そうですね」


 ロゼはニコニコと笑ながらテーブルの上にコーヒーカップを置いていく。


「どうぞ。メ―シェルさん、ウェイグさん」

「あ、ありがとうございます」

「ありがとう」


 配り終えるとロゼはゾディアックの隣に座る。正面に座るメ―シェルは物珍しそうにゾディアックとロゼを交互に見る。


「……騎士の中身はイケメンで、しかも超可愛い奥さんもいる……」

「奥さんだなんてそんな……」


 ロゼが頬に手を添えて空いた方の手をパタパタと手を振る。


「漫画の設定かな」

「メ―シェル。失礼だろ」

「ごめん」

「いや。いいんだ。それくらい軽口を叩いてくれたほうがいい」


 ゾディアックはふわりと微笑む。

 そんな彼に対し、ウェイグは頭を下げた。


「本当に感謝している。ゾディアック。メ―シェルだけじゃなく、この国を救ってくれて」

「私からも。ありがとう、ゾディアック……さん。昔のことも含めて、本当にごめんなさい」


 メ―シェルも頭を下げた。


「二人共頭を上げてくれ。ガーディアンとして当然のことをしただけなんだ。二人共無事でよかった。それに、ウェイグも。ボロボロになっても装置を直してくれたって、ガーディアン達が話していたよ」

「……そうか」

「エミーリォも言ってた。今ならセントラルのお手伝いくらいの仕事なら与えられるって」


 立地条件も悪い魔法道具屋を経営するより、安定して報酬も手に入る場所になるだろう。

 メ―シェルは横目でウェイグを見た。


「せっかくの申し出だが、断る。俺はもうガーディアンじゃねぇんだ」


 ウェイグは頭を振った。


「ガーディアンの俺は死んだ。これからは……そうだな。もうちょっとだけサフィリアで商売して、この国を出るよ」

「私も一緒に行く」


 メ―シェルは力強く言った。


「私が行かないと、どこかで野垂れ死んじゃいそうだし」

「そりゃ言い過ぎだろ」


 微かな笑い声が上がる。それだけで場が和んだ気がした。


「エルメとラルドは?」

「ガギエルの欠片持って行って研究してるよ。俺の店で。いいのか? 本当に欠片を持って行って」

「ああ。彼女への報酬がそれなんだ。悪用しなければ好きに使ってくれていいさ」

「そうかい」


 話しが終わったところでゾディアックは立ち上がった。


「ウェイグ。メ―シェル。せっかくだから食べて行ってくれ」

「あ? 何をだ」

「昨日休みを貰って。ロゼと一緒にショートケーキを作ったんだ」

「……なんだそりゃ。美味いのか?」

「凄い美味しいお菓子だぞ」


 メ―シェルが顔を輝かせていた。どうやら知っているらしい。

 ロゼも立ち上がりベランダに向かう。


「ビオレ、フォックス! あなた達も一緒に食べましょう!」


 窓を開けると、心地いい風が入り込んできた。

 ウェイグは窓の外に目を向ける。


「……綺麗だな」




 澄んだ青空が見えた。次いで、亜人とガーディアンの話し声が聞こえた。

 こんな平和な時間が、ずっと続くのだろうか。




 リビングにいるゾディアックを見る。

 困り顔でケーキとやらを包丁で切ろうとしているのが見えた。


「うーん……ウェイグ! 一番大きいやつ食べたいか?」


 ウェイグは笑い声を上げ、答えた。


「おう。頼むぜ」


 この平和な時間は続くだろう。

 何て言ったって。


 この国には、最強の暗黒騎士がいるのだから。




Last Dessert.ショートケーキ Completed!!




お読みいただきありがとうございます!

長らく続いたこの物語も、次回が最終回となります。

最後まで、よろしくお願いします!

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