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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert1.パンケーキ
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第25話「会合」

 ゾディアックはビオレに近づく。


「……立てるか?」


 ビオレの頭が縦に振られる。


「……彼とよく話していた広場に、連れて行ってくれ」


 ビオレはよろよろと立ち上がり、


「あっち」


 と力なく言って、歩き始めた。

 ゾディアックはそれ以上何も言えなかった。辛い気持ちは痛いほどわかるが、ビオレには頑張ってもらうしかない。

 この先、さらに辛いことが待っているかもしれないのだから。


「……辛いでしょうねー……」

「大丈夫か、嬢ちゃん。休ませておいた方がいいんじゃねぇか?」


 病人のようにふらふらと歩く小さな背中に、ゾディアックは黙ってついていった。


★★★


「これ、立派な物ですね~」


 会話もなくビオレの後ろを歩いていた時、ラズィが感心するような声を出した。


「何が?」


 ベルが聞いた。ゾディアックは耳を傾けた。


「周りの木。見てください。木の幹に青緑色の文字が書かれてます」


 ゾディアックは近くの木を凝視した。たしかに、ラズィの言う通り赤色に光る線が見えた。

 だが、それは文字には見えず、雑にペンキを塗ったようにしか見えない。


「魔法陣だったものです。ラミエルというドラゴンは、結界を張っていたんですね~。自分と、ビオレさんの村を外部から守るために」


 ラズィがほうとため息をついた。


「なるほど。今までバレなかったのはこれの力ですか……まだ相手は理性を保っていますかね~?」


 ゾディアックは答えなかった。

 それからしばらく歩いていると、坂が見えてきた。

 ビオレは息を呑んで走り出す。3人もそれに続く。


 荒い呼吸を繰り返しながらビオレは坂を上りきる。


 そこには、灰色になった村とは違う、緑美しい、いつもの大きな広場があった。

 山のような大きさのドラゴンが、ゆっくりと体を休めることができるほどの広場。まだ二日と経っていないのに、ひどく懐かしい感情が、ビオレの胸を締め付けた。


「私の、思い出の場所……ここでいつも、ラミエルとお喋りしてたなぁ」


 ビオレは呟いて空を見上げた。黄昏時(たそがれどき)になっていた。転移魔法(テレポ)という魔法の影響だと、いまさらながら理解する。


「……ビオレ」


 ゾディアックはビオレに声をかけ、自分の背中に隠した。

 背負っている剣の柄を握りしめる。その背中は、まるで黒いオーラを纏っているかのように見えた。

 ビオレはプレッシャーを感じ、同時に恐ろしさを感じ取り、一歩後ろに下がった。


 察知したベルとラズィがゾディアックの横に立つ。


「お、ドラゴンが来たのかい?」

「……残念だが、違う連中だ」


 言い終えると同時に、四方からそのモンスターは現れた。


 見た目は実も葉も枝に宿していない、今にも折れそうな巨大な枯れ木。その幹には顔がある。口はなく、目とおぼしき器官がはっきりと見て取れる。

 無数の枝を揺らし、地面から取り出した根っこの部分をゆっくり動かしながら、じわじわとゾディアック達に近づいてくる。


「トレントですかー」


 大量のトレントを見たラズィが、とんがり帽子を深くかぶり直した。


「な、なんでモンスターが!? 今までいなかったのに」


 ビオレは目を丸くして驚きの声を上げた。


「ドラゴンの結界がなくなったからだろうな。結界がなくなったから、目が覚めたんだよ」

「……行くぞ」


 ゾディアックは剣を取り出し、構える。漆黒の刀身が、夕陽に照らされる。

 馬鹿でかい武器を見てもなお、トレント達は(せわ)しなく足を動かし、一気にゾディアックとの距離を詰め始めた。

 肩にかけていたケースから、ベルは鉄製の突撃銃を取り出し、ラズィはブレスレット型のタリスマンに魔力(ヴェーナ)を流し始める。


「しゃがめ」


 ゾディアックが静かに言った。その声に対し、全員がその場に蹲る。


 ゾディアックは半身になり、大剣を体で隠すように構え、剣先を後ろに下げる。

 トレントはその構えの意味が理解できず、一気に四方から押し寄せる。枝に魔力(ヴェーナ)が流れ、鋭い槍の如く変形するのがゾディアックの目に映る。


 トレントはゾディアックを射貫かんと、腕のように枝を振った。

 同時にゾディアックは全力で剣を横に振った。


 枯れ木が砕ける音が広場に木霊する。ゾディアックの剣は、四方にいたトレントを真っ二つにし、風圧によって纏めて吹き飛ばした。

 横薙ぎの一閃ではなく、遠心力を利用した回転斬りを放ったゾディアックは、ふぅと息を吐く。


 これで囲まれる心配はなくなった。ゾディアックは駆け出し、迫りくるトレントの群れに突っ込み、剣を振る。大剣に斬られたトレント達は、真っ二つになるか砕け散るかのどちらかだった。

 木が砕け、倒れる音が絶え間なく響く。


「おおぉっ!!」


 まるで竜巻の如く、ゾディアックは雄叫びを上げながら邁進(まいしん)し続ける。木片が派手な音と共に周囲に散らばる。

 その圧倒的な強さと迫力に、3人は口を開けて動けずにいた。これでは援護の必要もない。


 後ろから音がした。はっとして、ビオレは振り向く。

 近づいていたトレントが、枝を振るわんとしていた。


「ッ!!?」


 息を呑んだ。相手の方が早い。

 ビオレは死を覚悟し、目を瞑った。

 瞬間、トレントが紫色の炎に飲み込まれた。


「え……」


 突如地面から出現した炎になすすべなく、トレントは苦しむように根っこと枝を動かしながら燃え尽きていく。

 立ち上る紫炎(しえん)は徐々に形を変え、巨大な蛇のような形状になる。それは獲物に飛びつくように――あるいは射られた矢の如く、周囲にいるトレントを飲み込んで燃やしていく。


「な、なに?」

蛇焔(ナーガ・ブレイズ)。本当はもっと大きくできるんですけどー、また山火事を起こすわけにもいきませんしねー」


 ラズィがのほほんとした声で言った。彼女が発動した炎の蛇は、彼女の性格とは裏腹に、活発に動き続けトレントを燃やしていく。


「やるねぇ、嬢ちゃん。じゃあ俺も」


 ベルはその場で膝をつき、銃を構える。

 ゾディアックに当たらないよう、周りにいるトレントに銃口を向け、引き金を”絞る”。


 銃弾が、花火のような大きな音を立てて撃ち出される。真っ直ぐに飛ぶ金属製のそれは、雨の如く直進し、トレントの体に減り込む。

 弾丸を撃ち込まれたトレントは弾け飛び、木屑をばら撒いた。数体のトレントが動きを完全に止めたところで、ベルの銃が「ガキン」と音を立てた。


「弾切れだ。援護してくれ」

「……それが、銃ですか~……いやな音ですね~」

「何だよ。威力は申し分ねぇんだからいいだろ」


 唇を尖らせてベルは言った。ビオレは黙ってその武器を見続けた。


「とりあえず、この調子で倒していこうぜ。ゾディアックが敵を引き付けてる間に……」


 ベルが仲間に指示を出そうとした時だった。突如、辺りが暗くなった。

 突然の変化に、全員の視線が上空に向けられる。


 何かがいた。そして、それが何かわかった時、全員が震えた。

 黄昏の空が、巨大な影によって埋め尽くされていた。


★★★


 仲間から離れた場所にいるゾディアックは、倒れたトレントに飛び乗り、剣の切先を突き刺していた。剣は幹を貫き、トレントは絶命した。


 周囲にモンスターの気配はない。これで最後だった。剣を引き抜き、地面に降り立つ。

 あとはドラゴンが来るよう、準備をする必要がある。ゾディアックは遠くにいる仲間たちに合流しようと視線を向けた。


 その時だった。

 途轍もない魔力(ヴェーナ)の気配を、ゾディアックは探知した。そして、まるで岩石が背中に乗せられたようなプレッシャーを味わい、ゾディアックは膝を折りそうになった。


 何が起きたのか理解しようとした時、夕陽が雲に隠れた。

 いや違う。夕陽を隠したのは、雲ではない。

 ゾディアックは空を見上げる。


 巨大な影が、そこにはいた。

 影は小山のような大きさをしていた。影は空を覆いつくすように両翼を広げていた。影は高度を下げ、ゾディアックの目の前で羽ばたいた。


 突如、大地を吹き飛ばすような突風が襲い掛かった。

 ゾディアックは地面に剣を突き刺し、飛ばされないようなんとか堪える。周辺に散らばっていたトレントの残骸が、木端微塵になり吹き飛ばされていく。


 再び姿を見せた夕陽が、その影を照らす。

 真紅の鱗が宝石の如く光り輝いている。巨大な口と双眸が露になる。圧倒的な威圧感と熱量が感じられる。


 雄大で、堂々とし、荘厳(そうごん)ですらある存在。

 ”生物の長”とも称されるドラゴン。



 紅蓮の火竜、ラミエルが、ゾディアックの目の前に降り立った。



 着地と共に地面が揺れ、バランスが取れなくなったゾディアックは、今度こそ膝を折ってしまう。

 ラミエルは大口を開けた。

 ゾディアックは目を見開き、素早く武器を構えた。


 瞬間、ラミエルの口から放たれた特大の火噴(ブレス)が、ゾディアックを飲み込んだ。 

 


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