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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Last Dessert.ショートケーキ
231/264

「The Six」

 朝方になると、雷雨はおさまっていた。

 相変わらずの曇天ではあるが、ほど良い湿気は心地良さすらある。陰鬱としていた昨日よりは幾分マシだ。

 鎧姿のゾディアックと、私服姿のマルコは朝からマーケット・ストリートに足を運んでいた。店の数と往来を行き交う人々の数は普段より少ないが、少しだけ活気が戻っているように感じる。


「今日は明るい声がよく聞こえますね」


 買い物用のリュックを背負ったマルコが周囲を見る。


「やっぱり雨が降ってないからでしょうか」

「それもあるが、一番は騎士団の話題だろうな」


 ガギエルが出現したという情報の直後、迅速に騎士団は出動した。そして昨夜の激しい雷雨からのこの天気。一部の住民はすでにガギエルが倒されていると思い込んでいる。


「安心感が違うんですね。街中を歩いている人たちを見てればわかります」

「この国のガーディアンより役に立つからな」

「あ……すいません! 決してゾディアックさん達を悪く言うつもりは……」

「いや、そういうつもりで言ったんじゃないんだ。すまない。それに事実だからな」


 マルコは顎に手を当てた。


「そんなに強いんですね」

「ああ。だから安心して、材料の調達と場所の確認を行おう。ベルクートが3箇所候補を見つけてくれたから」

「はい! お付き合いしますよ!」


 戦闘能力が皆無であるマルコは、こういった部分で一緒に行動できるのが嬉しかった。だからゾディアックが食料の調達を行おうとした時、率先して名乗り出た。


「ありがとう、マルコ」


 ゾディアックが礼を言った。

 それからふたりは指定の場所を確認し始めた。もっとも集客できるのは噴水広場だろうが、ここは競争率が高い。かといって他の候補である門付近で甘い物はどうだろうか。栄養補給という名目で売り出すか。

 東地区付近に出すという案もあったが、店の予定地周辺は、東地区に住む一般人を狙った移動屋台が跋扈していた。


「噴水広場が無難かなぁ」

「まぁ見ていれば一目瞭然ですよね。本当は屋根のある喫茶店みたいな感じになるといいのですが」

「金を稼いで実績を積めば、空いた部屋を貸してくれる業者も出てくるさ。次は買い物を」


 場所の確認が一通り終わり買い物を再開しようとした時だった。

 空から水滴が落ち、ゾディアックの肩当てで跳ねた。

 マルコが空を見上げながら両手を広げる。


「雨、降ってきちゃいましたね……」


 残念そうに呟いた。

 また陰鬱な空気が漂うのかと、ゾディアックは落胆した。




★★★

 



 少し前までは空が若干明るくなった時間帯もあったというのに、一気に雷雨へと変わった。

 近場で雷が落ちたのか、轟音が耳を劈いた。


「「うわ~~~……」」


 ビオレとフォックスは萎えるように気の抜けた声を出し、両耳を押さえた。

 自然の民であるビオレは悪天候に慣れている。だが慣れているだけであり個人的に雷は嫌いなものだった。

 フォックスに関しては雨が単純に嫌いであり、前にあった亜人誘拐事件の犯人と戦った際、雷に体を貫かれているため軽いトラウマになっている。


「雷とかなんなんだよマジで……。うるさいだけだわ」

「同感。存在しないで欲しい」

「まぁまぁ~。そう雷さんを悪くいうものじゃないですよ~」


 椅子に座っていたラズィは微笑んだ。


「魔法の中では攻撃面で大活躍なんですから~!」

「そりゃ強いのはいいけどよぉ」

「苦手な物は苦手」


 ビオレは下がり眉になりながら、テーブルの上に広げられた一枚の紙を取る。


「う~ん。「ハッピー・ウェイ」、「スイーツスウィート、略称でSS」「フェリアドルチェ」……どう思う? ラズィさん」


 ラズィは人差し指を顎に当てて小首を傾げた。


「ピンと来ませんね~。覚えやすいという意味では悪くないと思うのですが~」

「よし! じゃあこれは!?」


 フォックスがどうだと言わんばかりに紙を見せる。


「熱血! 男の――」

「却下」

「却下です~」

「んでだよ!!」


 フォックスは紙とペンを床に叩きつけた。

 ラズィの自宅に集まった面々は店の名前を何にするか、候補を出し合っていた。しかしネーミングセンスが問われるこの作業に、全員が四苦八苦していた。店の看板メニュー作りでも試行錯誤を繰り返しているが、こちらもなかなかに厳しい状況だ。


「魔法とか技の名前は、ある程度決められていますしね~。一から考えるのは至難です~」

「自分で技名考えちゃって使うって人もいますけど、正直恥ずかしい……。だからやろうとは思わなかったんだけど」

「んだよ~。じゃあドラゴン何たらにしようかなぁ」


 全員の唸り声が木霊する。ビオレは気分を変えようとポケットからアンバーシェルを取り出す。

 そして表示された時刻を見て勢いよく立ち上がった。


「あ!!」

「うぉっ!? ビックリした! なんだよ!!」


 フォックスもつられて立ち上がるが、ビオレの視線はラズィに向けられていた。


「ラズィさん、ヴィレオンにユタ・ハウエル映していい?」

「どうしたんですか~?」

「「アンヘルちゃん」が復活生歌配信してるんだって!!」

「あら~。素敵ですね~。それを聞きながら作業をしましょうか~」

「うん!!」


 ビオレは頷きを返しリビングにあるヴィレオンにアンバーシェルの画面を映す。ゾディアックの家にあるのより若干サイズは小さい。

 画面を素早く操作すると、ヴィレオンに「アンヘルちゃん」が映り、同時に歌が流れ始めた。




★★★




「よぉ、ジジイ」


 最早懐かしさすら感じる声だった。


「ベルクートか」


 ガンショップのマスターは白髪を掻き上げながら相手を見据えた。


「何の用だ、仕事サボり魔め」

「怒んなよ。顔の皺が増えるぞ」

「やかましい。商売放置してガーディアンをやって、挙句の果てに新しい店を開くだぁ? 舐めてんのか」


 カウンターの内側にいたマスターは棚の下から短銃を取り出しスライドを引いた。


「お前の頭吹っ飛ばしてもいいんだぞ」

「意味のない脅しはやめてくれよ。とりあえず2階にある俺の荷物取りに来ただけだから。あ、露店に出していた銃は後日あらためて返すわ」

「捨てたぞ」

「は?」

「お前の部屋にあった荷物。ベッドごとだ」


 ベルクートは大口を開けて固まった。

 その様子を見て、マスターはゲラゲラと笑い始めた。


「嘘だよ馬鹿野郎」

「この野郎。死ねばいいのに」

「お前とうとう住処見つかったのか」

「まぁ」

「どうせ他人の家だろうがな」

「……否定はしない」

「オンナか」

「……」


 マスターは額に手を当てて頭を振る。


「ちゃんと手順は踏んでから手を出せよ」

「やかましいわ!! あんたは俺の父ちゃんか!!」


 下らねぇこと言ってんじゃねぇよ、と悪態を吐きながら店の奥に向かい階段を上る。背中にニヤついた視線を感じたが無視した。

 少し前まで使っていた自分の部屋に入る。床には空になった酒瓶が転がったままだった。

 出ていく前に感謝の掃除でもするかと思っていると、ポケットが振動した。

 通話だ。アンバーシェルを取り出し画面を確認する。


「……不明? 誰だ?」


 ベルクートは警戒しながら通話に出る。


「もしもし?」

『……』

「誰だ? イタズラか? 正直に謝れば許してやるぜ」

『……ベル?』


 か細い声だった。まるで鈴の音が鳴るような声。

 それを聞いた瞬間、ベルクートの脳裏にある女性の顔が浮かび上がった。


「……サレン、なのか?」

『うん……えっと、お久ぶり』


 困惑した頭を落ち着かせようとベルクートはベッドに座る。埃が溜まっていたが気にしなかった。


「……よぉ」

『うん』

「は、なんだよ。元気そうじゃん」

『そう、かな』

「わかるよ。うん。声が明るい。よかった」

『ベルも、元気そうでよかった』

「ははは……」


 たどたどしい会話だった。だがベルクートは違和感を覚えていた。

 確かに相手はサレンだ。問題はサレンがどうやって、何の用でベルクートに連絡をしに来たのか。

 そして、なぜ相手の声は少し”焦っているのか”。


「どうやって番号を知ったんだ?」

『ギルバニアのセントラルから、各国のガーディアン情報を洗い出していたらベルを見つけて』

「なるほどね」

『それでね、伝えたいことがあるの』

「ん? おう」

『お、落ち着いて聞いてね。その……』


 相手は一度息を呑んだ。


『隊長が、アリシアさんが――』


 続きの言葉を聞いた瞬間、ベルクートは目を大きく見開いた。


お読みいただきありがとうございます!

次回もよろしくお願いします!!

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