「The Two」
昨日はラムネスライムの他に、珍味にもなるモンスターたちのレア素材を探し続けた。
6人で動いたためか、それなりの数が集まったところで切り上げた翌日、パーティはゾディアックの家に集まっていた。
「キャラバンから譲り受ければもっと楽だったんじゃねぇの?」
椅子に座っていたフォックスは、目の前のトレイに広げられた生地に星形の型を押し付けていく。
「どうなんだよ、ベルおじ」
「変な愛称を付けるな。それはいの一番に考えた。だけどなぁ、ばっかみてぇな金を請求されるから現実的じゃないなって判断した」
「俺ならいくらでもあるぞ。金」
「大将。羽振りがよすぎるとカモにされるのが目に見えているんだぜ」
フォックスの対面に座っていたベルクートは「よし」と言って、自分のトレイを持って立ち上がった。
「型抜き終わったぜ~。あとは焼いてくれや、大将、ロゼちゃん」
「お疲れ様です、ベルクートさん!」
ロゼがお礼を言って時計を確認する。時刻は夜になっていた。
そろそろ呼びに行こうかとしていたところ、リビングに今日の主役であるビオレが入ってきた。
「やっぱり私も何か手伝うよ~……」
ビオレが申し訳なさそうな声を上げると、その後ろにいたラズィとレミィが口許を緩める。
「誕生日の主役だろ? なら今日はふんぞり返っていればいいさ」
「ベルクートさんとかフォックスさんとか顎で使ってあげましょう~」
「あ~、それはいいかもね」
「いやよくねぇだろうがよ!」
「よくないぞぉ」
男たちが苦言を呈すとビオレとレミィは、マルコが座っているソファに向かう。マルコはテーブルの上でクラッカーを並べ、その上に食材を置いて串に刺していた。
「わぁ、可愛い!」
「お酒のつまみを作ってます。ビオレさんは、その、子供のような見た目ですが飲めるんですかね?」
「こっちの世界はいくつから飲んでも平気さ」
「場所によるけど、少なくともグレイス族の私は飲んで平気だよ~」
「……失礼ですが、おいくつで」
「今日で52歳かな? まぁよく覚えてないけど」
「ごじゅ……」
マルコは言葉を失い、手に持っていたクラッカーを落とした。
そんな会話を尻目にラズィはキッチンに入る。
「ベルおじさん邪魔なんですけど~」
「ばっかおめぇ。型抜きやった功労者よ俺? 称えるがいい」
「ロゼさん、何か手伝うことありますか~?」
ベルクートを無視してラズィは料理の手伝いをし始める。
それからビオレ以外の全員が準備を進め、ほどなくして料理が完成した。パーティ用のサラダや酒のつまみ用のクラッカー料理、肉料理がダイニングテーブルとソファの前のテーブルに置かれていく。
はずだった。
「……おい、なんだよこれ」
全員がダイニングテーブルの上に置かれている料理を見て沈黙する中、フォックスが口を開いた。
ロゼが頬を掻いて答えを述べる。
「……ハンバーグ、です」
「いやそれはわかるんだよ。俺が聞きてぇのは! なんでテーブルと同じサイズくらいのでっけぇハンバーグ作っちゃったんだってことだよ!!」
「いやぁ、ビオレがハンバーグ食べたいと言うので、こう、気合を入れてしまったというか」
「限度があるだろ……」
テーブルの上にドカンと置かれたハンバーグはまるで大きな座布団のようでもあった。立ち上る湯気の量はものすごく、家の中に雲ができあがるのではないかと思うほど煙が立ち上っていた。
「中々ボリュームがありそうだな」
「これだけでかいと~中に火が通っているか微妙ですね~」
「凄くいい匂いがしますけど、生焼けの可能性も……?」
「あ! それはご安心下さい! 焼き加減は気にしていたので」
「もっと他に気にすることあるだろ!!」
騒がしい女性陣と男一人、そして一匹を放置し、ベルクートが椅子に座る。
ベルクートは両手を使って、ハンバーグをなぞるように上空で手を動かす。
「いいか大将。こっからこの陣地は俺のだからな」
ゾディアックはテーブルを挟んで、ベルクートの対面に立つ。
「いいや。話し合おう。ケチャップが多い所はビオレにあげて、コゲが多い部分はベルクートが食べてくれ」
「なんでだよ。最近俺の扱いが酷いぞ」
「ビオレ、とりあえず座って。特等席は用意して……」
ゾディアックが後方にいるビオレに視線を投げた時だった。
ビオレは目元を擦っていた。
「ビオレ!?」
「お、おいなんだよどうしたお嬢ちゃん」
「ご、ごめんなさいビオレ! ハンバーグふざけて作ったわけじゃないですよ! その、しっかりとしたものを作ってですね」
両手でひとつの拳を作ったロゼはオロオロし始める。
だがビオレは笑みを浮かべて涙をぬぐった。
「なんか、凄く嬉しくて。こんな大人数で祝ってくれること、もうないと思っていたから」
村を、故郷を焼かれてからこんなにも温かい人たちに迎えられ、誕生日を祝われている。
こんな幸せなことがあるだろうか。
「ありがとう、みんな」
涙を流しながら礼を言うビオレの頭を、ゾディアックは優しく撫でた。
それから全員が食事にありついた。
乗せられなかった料理はソファーの前にあるテーブルに置かれているため、自然とテーブル組とソファー組に分かれていた。
「うわぁ……肉汁凄いですよね」
「あの~脂取り紙ありますか~?」
「何かやだなその言い方。キッチンペーパーとかって言おうぜ」
テーブル組が脂っこいハンバーグを食す中、ソファー組にいたゾディアックとマルコ、レミィはクラッカーと酒を楽しんでいた。
「あ、サラダ美味しい」
「本当だ。トマト美味い」
「ゾディアックさん、お酒大丈夫ですか?」
ゾディアックは断るように手を振った。
「あまり飲めないんだ」
「あ、そうなんですね」
「マルコは飲めるのか、結構」
「う~ん……限界まで飲んだことないですけど日本酒だったらグイグイと」
「ニホンシュ?」
「結構強いお酒と思っていただければ。アルコール度数35くらいだったかな」
レミィが目を丸くする。
「マジかお前。かなり酒豪じゃないか?」
「ほどほどに嗜んでいるだけですよ~」
「じゃあ酔っ払う前に確認しておこう」
ゾディアックはポケットからアンバーシェルを取り出した。
合点したのか、マルコも同様にアンバーシェルを見せる。
「レミィと買ってきたんだな。昨日の夜」
「はい! これでもっと円滑にコミュニケーションが取れますね!」
「これから商売やろうって時に、遠くの連中と連絡が取れないのは不便極まりないからな。それに買っておいて正解さ。何かあればすぐ誰かを呼べよ」
レミィの助言に頷きを返す。
その時、ソファーの前にあるヴィレオンから軽快な音楽と見覚えのあるテロップが流れ始めた。
「あ、今日のデザート特集だ!!」
ビオレが喜びの声をあげる。世界中の珍しいデザートと、これからその店を開くということで、注目度を上げているらしい。
「そういえばベルクートさん、許可証とか調理免許とか大丈夫なんですか?」
「実はさ、調理免許とか必要ないらしくてよ」
ロゼの疑問に、口の周りをケチャップ塗れにしたベルクートが答える。
「食品の衛生管理と防災、キャラバンの許可が絶対必須で、あとは責任者届やら保険の手続きやら……。ラビット・パイの連中巻き込んで何とかしたけどよ」
「凄いですね、ベルクートさん! ひとりで網羅しちゃうなんて」
「俺だけじゃなくて、ラズィちゃんも手伝ってくれたから早かったんだ。いやぁ頭が上がらねぇぜ」
「ふふふ~。それほどでもな~い」
ラズィは小さくピースをすると可愛らしくウインクした。
『はーい! オーディファル大陸全土の皆さんこんにちは~! レポーターのモナさんでーす! この前彼氏にフラれました~! アハハ! 死ねばいいのに!』
『モナさん!!! 本番中!!』
『じゃかましいわい!!』
レポーターであるヒューダ族のモナは茶色に染めたショートヘアをふんと払う。
『え~気を取り直して……今日のデザートはギルバニア王国からお届けしますよ~。そして紹介するのは、もう先に行っちゃいますね! じゃ~ん、ショートケーキです!』
画面が切り替わりショートケーキの画像が出てくる。
白い雪がスポンジを覆っているような見た目のケーキ。それを見て、ゾディアックは得意気に鼻を鳴らした。
「もう作っているぞ」
「ビオレのために、事前に調べて作りましたもんね」
誇らしげに腕を組むゾディアックとロゼはヴィレオンを注視する。
『ケーキの中では王道とも言われており、誕生日などで高い人気を誇るこちらのデザート!』
モナはフォークでケーキを切り、口に運ぶ。
『私も普段のご褒美ということで、いただきま――』
その瞬間。
映像がブツンとキレた。
「え、何?」
一瞬の静寂にフォックスの疑問符が浮かぶと、直後ヴィレオンからけたたましい音が鳴り響いた。
「うぉおお!!? なになになに!!?」
「超緊急速報だ」
ソファーの陰に隠れるフォックス以外の面々が真剣な面持ちになる。
ガーディアンだけに通達される連絡ではなく、全国民に通達される超緊急速報は滅多に起こらない。
緊張感を漂うと、ヴィレオンにスーツを着たキャスターが映った。
『番組の途中ですがニュースをお伝えします。先程ディメンテル連合国からドラゴンが観測されました。観測されたドラゴンの詳細はハッキリとしておりませんが、その形状並びに魔力探知から、渦神「ガギエル」だと思われます。詳しい情報が入り次第続報をお伝えします。なお、ガーディアン並びに一般市民の皆さん、キャラバンの方々全員、夜は不要不急の外出をできるだけ控えるよう、お願いいたします』
お読みいただきありがとうございます!
次回もよろしくお願いします~!




